俺がしたいことって、なんだっけ?
「はぁはぁはぁ」
あの海戦から、どれくらい時間が経ったんだろ?
紐で海から船に引き上げられてから、身体をずっと寝転がらせている。
身体というより、内側の方が消耗したけど。
それに俺だけじゃない。
船員全員が下を向いて、肩を揺らしていた。
船長曰く、ここまで来れれば大丈夫らしい。
「君たち、一旦全員休憩。見張りは私がしてるわ」、そう言った船長は、帆柱の上から動こうとはしなかった。
ここだけ見れば、船長らしいんだけど。
「君たち、十分休暇は取れたわね。作戦会議よ」
すると、帆柱から船長が降りてきた。
作戦会議?
もう大丈夫なはずなんじゃ?
「中央に気持ちを寄せなさい。あと、誰か作戦盤を持ってきて」
そそくさと船員たちが中央に集まっていく。
俺も、一応身体だけを向けることにした。
さっきまでは勢いもあって、境界線が有耶無耶になってたけど、本来俺はこうだ。
「??名無し、なんでそんな離れてるんだ?」
「え?いや、別にいいだろ」
「良いわけあるか。私は中央に集まれって言ったわ」
気持ちだけって言ってただろ。
「あ?なんか文句あるの?」
ここは、素直に従うか。
従うわけじゃあない。
あんなのを相手にするのがめんどくさいだけ。
船の隅っこから立ち上がり、中央に近づく。
皆んな気持ちだけって言われてたのに、自然と中央に集まっていて、人の輪ができていた。
船員は、海賊とは思えないほど仲が良さそうだ。
お互いにお互いを讃え、褒め合っている。
冗談も言い合う余裕もある。
海賊というより、家族みたい。
「・・・」
さっき、俺は勝てないかもって思った。
おかしい。普段はそんなこと思わなかったのに。
いつもの感覚が、薄くなっている。
普段の俺じゃあないみたいに。
俺はその輪の外にある、樽に腰をかけることにした。こんな輪に、入るわけがない。
そうだ。
あんな状況で勘違いしそうになって、成り行きでこうなってるけど、俺は人と群れるのが嫌いだった。
仲良しごっこなんて、くだらねぇ。
むしろ、ここまで近づいたことを感謝してほしい。
「・・・」
てか俺って、なんでここにいるんだ?
作戦盤を力強く床に置き、同じく船長が輪の中央に、力強く胡座をかいた。
「一度目はあんなものよ。だから気落ちはしないこと。改めて君たち、どうすればあの海王を倒せると思う?」
ん?待て。
倒す?は?え?はえ?あ?え?え?え?
「いや待て、倒す!?」
頭の中のものが全部吹っ飛んだ。
「もう逃げれたんだ。このまま安全に陸まで行く方法を、考えるわけじゃないのか?」
「その陸に行く方法が、あいつを倒す以外ないのよ」
そんなわけないだろ。このまま前に行けばいつかは陸があるはずだ。
俺が困惑していると、なぜか船長が「ん〜〜」と困惑の鳴き声をあげている。なんでだよ。
「名無し。魔法もそうだけど、お前何者だ?」
「え?」
一斉に船内にある目線が俺に向けられた。
輪の外にいたから、尚更わかりやすい。
その目の色は、純粋で、汚くはなかった。
「こんな陸から離れた海域を、船も無しで一人で彷徨いるなんて馬鹿すぎるし、ありえない。
陸なんて、通常ルートなら三週間はかかるわ。風魔法だけでこの海域超えたなんて、馬鹿な話も聞いたことがない」
「なりより、何で魔法が使えないの?
魔法が使えない人間なんて、この世にいないわ。
そのくせ、よくわからん魔法は使ってる。あんな状況でとりあえずは放置したけど、もう一度聞くわ」
「お前は、誰なの?」
誰?また、この質問。
「え・・・いや、俺は」
何なんだ、何で言葉がつまる?
何で?また?
何だって、どうして。
俺の問題なのか?
・・・いや違う。これは俺が悪いんじゃない。
こいつらが、俺をこんな目で見るからだよ。
そうさ、こんな人を責めるみたいな目の色で見るからだ。誰だって言葉には詰まるさ。
てか、何で俺はここにいるんだ?
何で俺は助けたんだっけ?
そもそも戦う理由もなかったはず。
いやあった。あったはず?
確か美人なヒロインがって・・・。
でもそんなのはなかった。
間違いなくあそこを切り抜けれたのは、俺のおかげ。なのに、誰も俺に礼を言わない。恩知らずな奴らだ。
そうだよ。俺は悪くない。
名前を言えないのも、俺の問題じゃない。
あれ?ならもう俺ここにいる意味って?
てか、俺って、何がしたいんだっけ?
あれ?おかしい。
さっきの意味のわからん感覚から、何かがおかしい。俺が俺じゃないみたいな。
俺ってなんだっけ?何を考えてるんだっけ??
本心?誰?誰?
あいつは誰?俺は誰?何がしたいんだ?
こいつらって、こんな顔だっけ?
俺は結局、何がしたいんだっけ?
「もしかして、記憶喪失?」
「ん?ハル?」
「なんだか、凄く辛そうに見えて。それで何となく、記憶がないのかなって?」
「まあハルが言うなら、そうなのかも」
俺の・・・言葉。
「そうなのか?」
「え?」
自分が帰ってきたぞと、そんな感覚が体を巡った。
考えている途中から、自分が自分じゃないみたいだった。記憶がごっちゃになって、見分けがつかない。
俺は、なんて思ってたっけ?
数秒前なのに、見分けがつかない。
「記憶、ないのか?」
なんで?そんな急に、優しい声で。
意味わかんねぇよ。
「・・・まあ、うん。記憶がなくて、名前もわからない」
「そう。そうなら悪かったわね。ただ、こっちが警戒するのも理解して欲しい。ん?これは言ったか?」
ただ、都合がいい。
なんでかわからないけど、俺は名前が言えない。
でも、たぶん誰かのせいだと思う。
それか、異世界での呪いとか。
「とりあえず、じゃあこれからも名無し呼びで行くぞ、はい決定。作戦会議しながら、色々と教えてやるから、そこは安心しなさい」
「・・・ありがと」
色の判断が、つかない。
俺は、何も思ってない。うん。
「よし作戦会議再開だ」
・・・俺は悪くない。
だけど、いや・・・クソ。
何なんだよ、クソ。
喉の奥にある、見覚えのない言葉を飲み込んだ。
船内では絶望的な作戦を、楽しそうに話してた。
こいつらは、何なんだ?・・・くそ。
記憶喪失。俺はそうなった、もう消せない。
とにかく、忘れて切り替えることにした。このまま考えていたら、船酔いで吐きそうになる。
時間が経てば治る。
ひとまずは、一応作戦会議に意識を置いておこう。
自分でも、自分の行動がわからない。
水中で足を掴まれて、身体を奪われそうになる。
自分がわからないなんて、今までなかった。
なかった・・・はず。うん。
今は、外に意識を向けて聞いておこう。
俺は、何も考えてないし、思ってない。
うん。
ただほんの少し、過去の記憶が顔を見せよとしてくる。
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