美少女三十路船長!そして謎の少女…
「おいお前、何ハルのことばっか見てんのよ?ぶっ殺すぞ」
・・・見てる?俺が・・・!?
「はぁ!?見てねぇよ!」
やっと声が出てくれた。
でもこれはこれで嫌だ。あらぬ誤解だ。
「嘘つけ!何意味深な目でうちのハルを見てんだよボケ」
最後にぶち殺すぞ!と、言葉のチョイスにしては殺意も強さも怖さも感じないセリフをつけてきた。
威嚇のつもりでも、あんま効果ない。
「この変態が!女の敵が!」
それに、よく見ればこいつはガキだ。
なんだって俺は言葉に詰まってんだ。
「変態は話も聞けねぇのか!?だったら一生村で自分のちんこ吸ってろ!」
そうだ、俺は怖がってなんてないぞ。うん。
「てかもう吸ってるか、そうだね、ごめ~んね」
こっちが下に出ると思うなよ。いつまでも何も言わないでやる俺じゃない。もう俺は理解してんだよ。
「おい無視すんなよ、いいかげん名前言えよ!そんなんもできねぇのかよ!」
さっきまで言葉が出なかったのは、あいつらのせいだ。俺の問題じゃない。
てか、さっきからうるさい!
「このマセガキが!さっきからなんだよ助けてやったのに」
俺が痺れを切らして言い返すと、船内中に「あ」と何かをやらかした時の言葉がめぐりわたった。
「ガキ・・・殺す、ほんとに殺すから!!」
美少女船長は言葉ではなく、今度はまぎれもない行動で俺を殺しすために、その腰にかけてあるカトラスに手をかけた。
これは、怒った!?
自分は散々言ってたのに!?あれだけで!?
「え、あ、いやおいバカ!」
まずいまずい!
これはマジで殺しにきてる!
すると俺よりも船員たちが焦り始め「船長止まってー!!」と、情けなくも止めに入った。
「君たちも聞いたでしょ!?あいつ今この私をガキと言ったわ!」
「船長せめて今は我慢をお願いします、あのバケモンがまた襲ってくる前に体制を整えないと」
その1人の発言に船内中全員が必死に首を振って同意した。
5、6人で止めに入っていたが、それでも本気を出せば余裕で振りほどけるほど、そいつの力は馬鹿みたいだった。
その体のどこにそんな力あんだよ!?
だがある行為で、ふにゃあ〜とその狂犬のような殺気は折れていった。
「キャっ、おい!今どさくさに紛れて何回も胸揉んだのどいつよ!?
ぶっ殺すぞ!」
すると、止めに入ってた全員が一斉に謝った。
「「全員かよ!!」」
ついついツッコミをしてしまうと、美少女ロリ船長と被ってしまった。
相手も被ったことで、「あ」と言葉が漏れた。
なんなんだこの船は。背景は終末みたいな世界なのに、船内はギャグ漫画の世界だぞ。
こいつらは多分服装からして海賊だ。
ただ、ロケット団みたいなギャグを感じる。
真剣なのか、ふざけているのか、ハッキリしない。
船長は落ち着いた?のか、舌打ちをしてから船員たちに離せというゼスチャーを送った。
「君たち、もう落ち着いたから持ち場に戻んなさい、あいつがまたくるよ。ハルのことも守ってあげて」
船員たちはまだ不安なのか「でも……」と歯切れが悪そうにしていたが、「いいから!!」と駄々をこねる子供のような仕草の船長に、押しきられてしまっていた。
日常系ロリキャラかよ
この船の明確な上下関係がわかってきた。
ただの上下関係ではなさそうだ。
落ち着きを証明する、何泊かの沈黙があった。
「確かにまずは、助けてくれたことに礼を言うわ。ただ警戒することにも理解して欲しい。でも悪かった」
一転して素直に謝ってきた。その姿勢には大人ぽさが見える。
「俺もガキって言ったのは悪かった」
俺も反射的に謝ってしまった。
いやほんと俺は悪くないのに何謝ってんだか。
ちくしょう。
「だよねいくら何でも大人のお姉さんをガキ呼ばわりは悪いよね!?だから、もっと謝りなさい」
はぁ?訂正、こいつはガキだ。
あと我儘。この二言で十分。
それに、最後にお決まりとでも言いたげな、ぶっ殺すぞをつけてきた。このクソガキめが。
すると、船内のどこからか小声で「姉さんって、もう3ー」と、そんな声が聞こえてきた。
その声の持ち主は、「30・・・」よりあとを言う前に、船長さんの眼光によって刺し殺されていたけど。
ドンマイ。
あんだけうるさかった子供が、この時だけは、無言だった。
年齢に関しては、口にするのも聞くのも許さないらしい。
この見た目と態度でもう30過ぎてんだ?
しかも反応的に前半ではなさそう。なら、bbA。
「とにかくお前も手伝いなさい。見ての通りこの船は沈む一歩手前よ。
色々と説明は端折るし勝手に理解して。言われても絶対しないから。今すぐに無条件でその力を貸しなさい。これは決定事項よ。お前も死にたくはないでしょ」
「え?いや待てよ」
俺が何も言わないのを良いことに勝手に話が進んでいく。
こいつはあまりにも自由すぎる。
大将は大将でもガキ大将だ。
途端、ぐらぐらっと、船の揺れが強くなってきた。
船員たちも慌ただしく焦り始め、「船長また下から来ました!!」と報告を唾と一緒に吐き出している。
それぞれの持ち場で突貫工事のような準備を進めていく。間違いない、戦闘体制だ。
「まずいもう来やがった。お前いいからとっとと立て!!あと名前は!?」
ちくしょう俺に選択肢はないのか。
そもそも俺、何でこんなとこにきたんだ?
「な・ま・え、は!?早くしろ、名前がなかったら連携が取りづらいでしょ!」
雨も強くなってきていて、うまいこと声が反響しない。大声を出してやっと聞こえてくる。
海の揺れに加えて、地震のような細かく強い揺れもしてきた。
なまえ、誰?
その言葉を聞くと、なぜかまた止まってしまう。
どうすればいいのか?途端にわからなくなる。
なんで俺は、名前も言えないんだ?
喉で止まってしまう。けどこれは怖いんじゃない。
そうじゃないんだ。うん。
「もういい、お前のことは名無しって呼ぶからな!連携取れよ!」
「いや連携って、俺は戦ったことなんてないぞ!」
すると喉が一瞬で開いた。
何だったんだ?
雷が天にさらに突き刺さっていく。もうここまで来たら無数の矢にも見えてきた。
こいつは神殺しでもするつもりなのか?
海はこいつによって、船という獲物を逃さないための檻のようになっている。
雷だけでなく、水の渦までもが柱のように出現しってきていた。
端的に言えば、明確な殺意を持った嵐だ。
「ならあのバケモンの攻撃をその馬鹿力で弾き続けろ!それだけでいいから、死にたくなかったら黙ってやれ!」
ちくしょうめ!
そんなん言われても、誰だって難しいだろ。
最初の敵がこんなラスボスみたいなのは、違うだろ。最初はスライムとか豚の魔物とかだろ?
でも世界は俺を待ってくれない。数秒先には、海戦だ。
船長は素早い足捌きで舵を取りにいき、全体に指示を出し始めた。
その顔つきは、一転して歴戦の猛者のようだった。
見た目はあれだけど。
「君たちもう一回戦闘だ!!絶対に、船底の守りの魔法だけは緩めるないでね!」
もうここまで来たら、戦うしかない。
「ちくしょうめ!やるよ!」
雨で誰にも聞こえてはなかったらしい。
ただやってやる。
いっちまえば俺はタンク役ってことだろ?
「名無し、お前は常に相手の状況を見て行動して報告しろ!!」
黙るのか話すのかどっちなんだ。
周りを見れば、目を開けることも難しい世界で、みんな真っ直ぐな瞳を見せている。
こいつらは誰なんだ?別人なのか?
悔しい。
正直言うと、ちょっとこの状況に頬が緩みかける。
確かにめちゃくちゃで混沌の世界だ。それに恐怖はなくても、死に直面しているという自覚はある。
なのに、ワクワクしている気持ちがある。
ちくしょうだよ。
物騒だけど、ゲームで画面越しに見ていたバトルを今からすると思うと、どうしても出てくる。
そんな余裕はないのに。
子供の頃、その世界を勇者みたいに駆け回る自分を何度も思い浮かべた。
夢にしては絶望的だ。
なのに、現実よりも希望的だった。
「この戦いは逃げること第一で考えるよ!わかった!?」
おお!!と合図もないのに息のあった答えだ。
これが、海賊なのか。
一息つく暇もない。
世界はいつだって待ってはくれない。
「くるわよ!!」
腰にある剣を固く、絶対に離さないように手に取った。
流れに身を取られてる自覚はあるけど、ここで駄々をこねるのは、無駄な行動だ。意味がない。
楽しみでもあるし、なにより気になることもある。
さっき見た、あの子の違和感の正体が知りたい。
戦う理由は、たぶんこれが1番大きい。
やってやるさ!




