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TYPE60  作者: サヨツー
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1話

ボーッという低い汽笛の音と、甲高い笛の音が響くと、桟橋がゆっくりと離れていく。

 クリス・ジョンソンは荷物をしまう手を止め、甲板に出ていた。

 船上には通商旗が翻り、その横に鮮やかな信号旗がいくつも並んでいる。それぞれに意味があると聞いたことはあったが、彼にはさっぱりわからなかった。

 クリス・ジョンソンはメイジだった。

 例の改革に反対したのはノンメイジだけではなかった。多くのメイジも声を上げた。しかし、貴族と王族によって統治される王国に、そんな市民の声が届くはずもなかった。

 ノンメイジはまだ気楽だった。ただ連盟へ逃げれば良かった。

 しかしメイジの一般市民は、もっと大きな選択を迫られた。

 クリスは王国にいるかつての友人を思い出した。使節として訪問した際に名誉貴族になっていた者とも会ったが、そのとき握手をすることさえ躊躇ってしまった。

 ジャクソンがフィヨルドを抜ける。

 朝日に照らされ船体が輝き、遠くに見える港はいつしか線になり、やがて点となった。

 「ジョンソンとジャクソン……似た名前だな」

 クリスは艦橋を眺めながら言った。手すりを指でなぞるようにして、船内へ足を進める。

 今回派遣される使節は十名と、その一部の召使いたちだった。

 それぞれ役割は異なり、ある者は王族のもとへ、ある者は名門貴族のもとへ向かう。

 クリスはその中でも王に直接謁見するという特別な役割を与えられていた。メイジであること、そして王国に使える名誉貴族の騎士と面識があることが理由だった。

 昼頃、艦内を散策していたクリスは地図に従って食堂を目指すことにした。

 「君、少しいいかな?」

 使節のバッジをつけた人物を見つけ、声をかける。

 「食事はもう済ませたかい?」

 「いえ、今からです」

 若い男性だった。おそらく今回が初めての使節だろう。妙に筋肉質な体つきをしている。

 「軍属かい?」

 「そうですが……」

 「どこへの使節だい?」

 「王都の……グロスター家です」

 「グロスターか! いいところだ。あそこは武を重んじる家柄でね、君はノンメイジかい?」

 男は少し困った顔をした。

 「ああ、すまない。安心しなさい、きっと気に入られる」

 「妙に詳しいんですね」

 「まぁね」

 二人は食堂に着き、入り口の受け取り場所で昼食を受け取って空いている席に座った。献立が階級や役職によって異なるのが、連盟海軍らしい実務的な誇示のようだった。

 「そういえば名前を聞いていなかったな。王都行きなら共に行動することも多いだろうから」

 「リィドです」

 「苗字は?」

 「いえ、リィドだけです。それすら本当の名前ではないんですが……」

 訳ありか、とクリスは思った。

 「そういえば、あなたは?」

 「あぁ? 名前か……クリス・ジョンソンだ。よろしく」

 そう言うとクリスは手を差し出した。リィドという若者は、それを強く握り返した。

 リィドは昼食のパンを急いで口に押し込むと、そのままどこかへ行ってしまった。

 クリスはもっと話したかったと思ったが、ハラスメントになると思い呼び止めるのをやめた。

 リィドはどんな人物なんだろうか、と彼は思った。

 使節団には多種多様な人物が集まる。「物好きか……」と他者から評されるような面々が揃うのだ。クリスはそう思った。

 食堂はすでにクリスだけになっていた。食器洗いの係が彼の様子を伺っている。

 クリスは慌てて食器を運んで行ったが、「遅い……」と文句を言われてしまった。

 何か言い返そうと周りを見渡したが、空っぽで人気のなくなった食堂を見て言葉に詰まった。

 「すまない」とだけ言い残し、クリスは自室に戻った。

クリスはしばらく部屋横になっていたが何かを思い出したように起き上がった。

 押し入れからカバンを取り出してきてロックを外す。

 彼がカバンを漁ると、中からくたびれた服が溢れてきた。

 いずれも彼が昔使っていたものである。

 彼はその中からベルトのようなものを取り出した。斜めがけのもので、ポーチとナイフホルダーがついている。

 クリスはそのうちの一本を取り出すと、それを壁に投げつけた。

 まっすぐと綺麗な軌跡を描きそれは壁に刺さる。

 二本目を取り出す。

 もう一度構え直すが、手からナイフが落ちた。

なぜか体は汗ばんでいて、息も荒くなっている。

ダメだ…

クリスは壁に刺さったナイフを左手で引き抜き、魔法で穴を元通りにした。

右手は振り子のように垂れている。

時よりピクピクと指が動く。

「これは歳…のせいにもできないか」

するとクリスはそのまま布団に倒れ込み先ほどまでと同じように横になると、そのまま眠りについた。

 クローゼットの扉が少し開いており、中から二つの武器が覗いている。

 一方は細身のレイピア、もう一方は大型のクレイモアだった。

 後者の柄にはRATの文字が、薄暗い灯りの下で鈍く光っている…

クリスが目を覚ましたのは太陽が水平線の下に落ちる頃である。

何か大きな警笛のようなものが鳴り響いていた。

廊下に誰もいなかった。

外がやけに騒がしいなと感じた彼が甲板へ向かうと人数こそ少ないがやけに慌ただしい様子だった。

遠くに何か光るものが見える、動いているが流れ星にしてはあまりに遅い。

クリスは懐から望遠鏡を取り出すと、その対象に向けた。

「あれは…」

望遠鏡を目から離すと、彼のすぐ左側にある対空砲が動いているのが見えた。

「何をしている!」

クリスは声を荒げて叫んだ。

「未確認の迎撃容易であります!」

誰かが言った。

見ると数名の将校が対空砲の周りにいることがわかる。

クリスは呆れた様子で首を振りながら言った。

「いいか?あれを撃ち落としてみろよ?お前は英雄じゃなくて戦犯として刑務所行きだ」

将校たちは彼が叫ぶ様子を驚いた顔で見つめている。

クリスは将校から無線機を半ば強奪に奪い取った。

「艦長、あちらの特使です、王国式の着艦許可は青の照明弾3つ、お願いします」


クリスは無線機を耳に押し当て、艦長の返答を待った。

 数秒の沈黙の後、艦内スピーカーから低い声が響く。

「了解。青の照明弾、三発発射準備。」

 話が伝わったことを確認したクリスは続けてこんなことを言った。

「バカな将校にしっかり指導してくれ、通商連盟において打ち払い令が出されたことはないとな」

 この会話に続きはなかった、代わりにスピーカーからは後部甲板に着艦場所を作ってやれということだけがきこえた。

 王国の特使は三人組のメイジだった。

 王国飛行隊の高級騎士だろう、あの美しい箒飛行は間違いない、クリスはそう思った。

将校から奪った無線機がノイズを上げる。

「クリス ジョンソンだな?特使の相手をしてやってくれ、適任だろう?」

「…………えぇ、任せてください」

クリスは無線相手は私をどれだけ知っているのだろう?と思った。

 


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