第25話 闇の胎動
その日、ヴィクトリアはじめ黒衣の集団はとある人間の治める国の城の最下層にいた。
「ついに、ついに手に入れた。これが。」
それはヴィクトリアからしたらただの輝く玉だったが、黒衣の集団のものは口々にその玉を称えていた。
(なんだ、こんなもののためにこの城にいた人間を皆殺しにさせられたのか。)
その一端を担わされたヴィクトリアは、つまらなさそうに足元に転がる人間の頭を足で小突いた。この国の王女だったらしいその人間は、最後まで気丈に振る舞った。
どの人間も手応えなどなく、ただの虐殺だったとヴィクトリアは不満をこぼした。
「そう腐りなさんな、ヴィクトリア嬢。人間は弱いくせにしぶといのでな。このくらいしなければこの竜玉は手に入らなかっただろうて。」
竜玉。ヴィクトリアも存在くらいは聞いたことがある。それは強い強い龍でなければ作ることができないと聞いている。そういった歴史に名の残る程の龍が生きた証として死の間際に己の魔力をありったけ使って作るのだとか。それはその龍の魂として生き続けると聞いたことがある。なぜそんなものが人間の手に渡っているのかわからないが、黒衣の集団はそれを手に入れにわざわざこんな辺境までやってきたということになる。
なんでも、龍の国に伝わるものは時々人間の手に渡り、神宝として崇め奉られるのだとか。
「中でもこれは原始の龍と言われる御方の竜玉でな。我々の計画には欠かせぬものなのだよ。いわば計画の要なのだ、わかってくれるな、ヴィクトリア嬢?」
相変わらずこの黒衣の集団はよからぬ事を企んでいることは知っていたが、なぜだかヴィクトリアには詳しい内容は知らされなかった。ただ、自分を他の黒衣のものとは分けて、丁重に扱ってくれるから気持ちが良かった。それ以外は深く考えないで、この集団に従っている。あと最終的にシュラの心をくれるという約束があるので従っているに過ぎない。
ヴィクトリアは暇さえあれば、シュラの様子を伺っていたが、最近は完全にあのシルヴィアとくっついているから腹が立つ。絶対に絶対にシルヴィアは八つ裂き以上の苦しい思いをさせて殺してやる。と心に決めていた。しかもシュラというものがありながら、たまに白龍の男とも仲良くしているではないか。黒龍の国でも白龍の王子が出入りしていると噂になっていた。なんでシルヴィアばっかり。ずるいずるいずるい。シュラの心を手に入れたばかりか、白龍の王子までも手を出すなんて、最低じゃないか。別にシルヴィアはイーラとはよき相談相手、くらいなのだが、側から見ているヴィクトリアはそうは思えなかったらしい。シルヴィアという存在を壊してしまいたくて、それに近寄るものもみんなどうにかしてやろうと思うヴィクトリアの思い込みの強さがそうさせるのだった。
(最終的に、シュラ様の隣にアタシが立っていれば万事解決、よね。)
そのためなら、手を汚すことだって構わなかった。現に、人間を害す存在となっている。どんな汚い手段を使っても、あのシルヴィアを引き摺り下ろすことができればヴィクトリアは満足だった。それほどにシルヴィアに対する敵対心は高まっていた。
あの女さえ元々いなければ。今頃自分はシュラの横にいたに違いないのに。
ヴィクトリアは何かとシルヴィアのせいにし、起こった事実や運命を受け入れることを拒否し続けている。理想と夢ばかりを追いかけて、現実が受け入れられないタイプだった。
「さて、ヴィクトリア嬢、今度こそシュラ様の心を手に入れる時が来たぞ。我々と来れば必ずや、それを成し遂げることができるだろう。どうするね?」
ヴィクトリアはそれを聞いて、待ってましたとばかりに返事をした。
「もちろん行くわ。シュラ様はアタシのものだってこと、あの小娘に存分にわからせてやらないとね。あ、でもシュラ様には毒とかは無しで。アタシはあの小娘をコテンパンにのして、シュラ様の目を覚ましてあげたいだけなんだから。」
そうヴィクトリアが告げると、黒衣の者は一つ頷き、
「これで我らの命運は決まった!あとは実行あるのみ!」
と高らかに他の者へ宣言した。
「おおおおお!!!」
それに呼応し、黒衣の集団のボルテージは上がっていく。ヴィクトリアはこの時知らされていなかった。
自分が『贄』に選ばれたということを。
黒衣の者は、人知れず嗤った。ようやく揃った。かの御方の竜玉と、それに耐えうる強靭な肉体と精神を持った贄。これで勝ったも同然だ。長い長い時間だった。
だが、長い時間をかけたからこそ、念には念を入れてきた。これで勝てない道理などない。今度こそあの高慢なオルデンは終わりだ。シュラはヴィクトリアがどうにかするだろう。黒龍の国は大体王座の入れ替わりが激しいせいで、気にも留めていない。問題はオルデンの方だ。この先何千年とやつの治世が続くと思うと吐き気がする。
黒衣の下で、オルデンに対する憎悪を募らせた。いつもお守りとして持っている、妹の遺骨が入ったペンダントを握りしめる。
やつを、許さない。絶対に。
黒衣の者はその感情を確かめるようにペンダントの中身を確認した。
「何それ?誰の骨?」
思考に埋没するあまり、周りの目を気にすることを失念していた。見ればヴィクトリアがこちらを覗き込んでいる。
「何、これは妹なのだよ。ヴィクトリア嬢には要らぬことだ。シュラ様の心を手に入れる事だけを考えていれば良い。」
そう言って、黒衣の者はペンダントをしまい込んだ。
ヴィクトリアもそれ以上しつこくは聞かなかったので、その場はおしまいになる。
黒衣の者の怨みは、ヴィクトリアのシルヴィアに対するそれより遥かに根が深かったとも知らずに。




