第13話 シュラの思い
居城に帰り着いたシュラは、シルヴィアを部屋に寝かせ、様子を見た。暴走したせいか、発熱しているようだ。ヴィクトリアとの戦闘で負った傷も気になる。相変わらず自分の傷は自分では癒せないらしい。それはそれで厄介な気もする。
必要な処置をして、自分も隣で椅子に腰掛け、休息をとる。まさに子供の面倒を見る父親のような様相だが、シュラはまだ子供のシルヴィアに手を出すほど落ちぶれてはいない。
シルヴィアの癒しの力で、体調はすこぶる良好だ。あの時木々になりかけた腕も、シルヴィアの暴走が止んだ時に木々の部分だけが霧散し、元に戻った。シルヴィアの癒しの力と魔力量の底力に、シュラでさえ改めて感銘を受けた。
まさか、これほどとは。
戦闘ではまだまだヒヨッコなのは間違いないが、癒しの力は白龍の国でさえ超一流なのではないだろうか。というかこの世界にこれ以上の癒し手が存在するのかというレベルである。ただし、今のところそれは暴走しているだけなので、制御できての話だが。
あと、自覚していなかったことがある。自分は思ったよりシルヴィアに入れ込んでいるということだ。情が移っただけなのか、そうでもないのか。まだ不明瞭だ。ただ、失いたくはない存在だ。
「う…ん……。」
身じろぎするシルヴィアの様子を気にかける。やっぱり自分は結構シルヴィアに入れ込んでいる。それは間違いない。シュラは気恥ずかしくなってきたが、もしかしてそういうことなのか、と真剣に初めてシルヴィアに対する感情と向き合うきっかけにもなった。
ヴィクトリアでさえ、自覚していた恋愛感情というものを、経験値に圧倒的な差があるであろう自分がわからないとは、情けない気もした。だが、それも仕方ないのも事実だった。シュラがもし、これまでの生涯の中で誰かにうつつを抜かしていたら、きっと今頃この場所に立ってはいないだろうから。自分以外は全て敵。そんな四百年だった。今、何か守るべきものができたのは、そろそろそういう経験値を積めという天の声なのかもしれない、とさえ思う。蹴散らすだけの方が遥かに簡単だったな、と思い至り、シュラは笑った。
(守る、か。)
今自分にシルヴィアを守り育てるだけの力量と資格があるのだろうか。この十四年間考えてこなかったが、今回のような事例がこれからいくつあるか知れない。
大体の黒龍の民が正攻法で来てくれるからと言って、例外がないわけではないのだ。
もっと慎重にならなければ。と思いつつも、守りに入ってしまっては、自分の王座も長くはないだろうな、という思いもある。シルヴィアの成人まであと五十年。シュラは初めて時を長く感じた。
仮にシュラがシルヴィアを想っていたとして、シルヴィアはどうなのだろう、と頭をもたげる。シルヴィアからすれば、父親代わりにシュラを頼っているだけだったら、なんだか間抜けだ。シュラとて父親になったことはないが、シルヴィアに向ける感情は父親のそれではないのだろうか。珍しくシュラはぐるぐると考え込んでしまう。それだけ迷いや混乱があるということだ。自分の感情なのに明確にできない。まどろっこしかった。
シュラは改めて今回の事例を整理する。あの黒衣は何者だったのか。『竜殺し』はこの国では基本自生していない。遠く白龍の国では、自生または栽培されていると聞いたことがあるが、それは主に使用するためではなく、なぜ我々龍人にあれほどまでに効くのかという研究のために栽培され、分析されていると聞いている。だが、出所としては白龍の国から流れてきたと考えるのが自然だ。黒衣のもののローブの下は見えなかった。どこの手のものか断定することはできない。あの者たちの狙いは自分の命だったのだろうか。だとして、自分を消して得するものを考える。今シュラが消えるとどうなるか。それは、まず黒龍の国の次の王を決めるべく国中から猛者が集まり、盛大なトーナメント戦が行われるだろう。シルヴィアもまず無事では済まない。いくらこの辺りで人権を得たからといって、次の王となるものがシルヴィアの存在を受け入れるとは限らない。
とすると、やっぱりシュラとシルヴィア双方の存在が気に入らないもの、ということになるのだろうか。
それでは敵がヒットしすぎて、全然絞り込めない。白龍の国の手のもの、と言われてもおかしくないし、国内にだってそんな奴らはごまんといる。
今は見えない敵よりも、これからのことを考えよう、シュラはそう頭を切り替えた。
まず、自分のことだ。今までは今の強さがあれば良かった。しかしこれからはそうはいかないようだ。もっともっと強くならなければ。自分の主義主張を通すのなら、これはこの国では当たり前のことだった。
そしてシルヴィアも強くならなければならない。と思う。ここへ来た時から比べれば、遥かに強くはなったものの、まだ伸び代はあるはずだ。
自分の主義主張、と思った時、シュラは何の気なしにシルヴィアを数えていることに気がついた。それもこれもシルヴィアを守りつつ王座を降りない方法を考えていたに過ぎない。
シュラはついに自覚した。自分はシルヴィアを手放すつもりはないのだということを。
「この俺が、まさかこんな形で不覚を取るとはな。」
シュラは未だ眠りの中にいるシルヴィアを見つつ、微笑む。
初めて会った時から気になる存在ではあった。だからこそ保護もした。その時から全ては始まっていたのかもしれない。
あの時、あの場に居合わせたことが既に運命だったのだろう。
ならば、この命かけてこの先シルヴィアと共に歩むしかないのだ。
シュラは決意を新たにした。




