フン、神は○○以外の価値がない
おはようございます。
波が荒々しく今にも嵐が来そうな海沿いにそびえる塔にハイン、ラスク、アデルの三人が訪れその入り口にたたずんでいた。
この塔は、海氷にある樹氷城に続く通路のためだけに建てられたが、それとは別に海氷を楽しむ時にハインは度々利用していた。
出入り口の海岸に打ち寄せる波間を隔て、海氷がのぞき見えると感心するとともに、はしゃぐラスクがいる。
「へぇ、アレが海氷か。すごいね。いつも吹雪いてるのかな?」
「いや、いつもではない。今日はたまたま天候が悪い。いつもは見晴らしがよく、奇麗な城が浮かんでおるのだが、見せることが出来なくてすまなかった」
「ううん。ここに連れて来てくれただけでありがとう。で、僕はお留守番かな」
(おじさんのこういう時のサラッとした気遣いはすごいよ。普段の偉そうな性格とギャップがありすぎる。クスクス、こういう所があるから憎めないよ)
海の向こうの樹氷城に瞳を合わせ微動だにせずに謝るハインに見とれるラスクがおり、隣では背筋を曲げず、まっすぐとハインがただずんでいる。
「そうだ。留守番を頼むぞ。では、爺、行こう」
「ああ、ハイン。今日は珍しくスーツなんだね。よく似合っている」
「フン、似合って当然。それに、こうしてると爺の若い頃に似てるだろう?」
「ああ、おまえは、カノンに似ている」
「フン、エセ天使に似るのはごめんだ。俺は爺に似てることが誇らしい」
表情を変えず、海を見据え言い捨てるハインの一言に照れるアデルがいた。
海沿いの入り口にそびえる立派な彫刻が施された門柱の二本の、凹みにハインが手を置くと海氷に向け一本の道が伸びる。
「じゃ、ラスク行ってくる」
「行ってらっしゃい」
海氷の城につながるを道を歩く、ハインとアデルを見送るラスクがいた。
「見たかったな、城。まぁ、いいか」
残念がるラスクと、また来ればいいと思うラスクがいた。
道路を歩くハインがふとアデルに尋ねる。
「爺、ここ最近の俺は俺らしいか? どうだ、どう思う」
急な質問に、答えを用意していないアデルはたじろぎ咽せる。
「どうした? いきなり」
「いや、思うところがあって聞いただけだが今の忘れないでほしい」
(どうしたんだ。いつも唐突に質問してくるがいつもと雰囲気が違う。なにを考えてるのかね、わが孫は)
そうこうしている内に、海氷の上にある樹氷城に着いた。
月光城とデザインは似ているものの城の壁、屋根、全てが『青』で出来ており外内部の装飾はそれは素晴らしく、人間や天使は【青き都】と別名をつけこの地を楽しんでいる。
ハイン、アデルと、感性のある魔族も同じように楽しんでいた。
会合が開かれる予定の『集いの間』に、向かう二人が前を歩く男に気をとめる。
「爺、ずぶとく立ち回る男が歩いてる」
「ずぶとくは無礼な。おまえ達こそ、現魔王と元魔王。両者がそろうとは珍しいコトがあるものだ、針でも降るのかな。怖い。怖い」
ハイン達の前に、貫禄があり、堂々とした体格の良いスーツ姿の紳士が現れた。
以前、ハインの幼少の記憶の夢(第二十六話参照)にも現れたあの、神々しい光に包まれ、豪気な金色の翼を持つ男・神であるとともに、長い付き合いの神と元魔王、オリバーとアデルは幼なじみであり時にはしのぎを削り、互いに高みを目指した仲でもある。
「久しいね。オーちゃん、元気してたかね」
「元気、元気。アーちゃんは」
二人は互いの近況を話し合い始めたあと、ハインを見つめ抱きしめた。
「なっ、なぜ抱きしめる。しかも二人で」
「いや、おまえのおかげで、私とアーちゃんは「友人」に戻れた。感謝しても仕切れん。なのでハグをしておこうと」
「何回もそれは聞き飽きた。礼なら«福音・蘇生»をくれ。と会うといつも話しているが」
「まだ、あきらめてないのか」
「俺はよほどでないと強請りはせん。考えておいてくれ」
いつもいつも、聞くと同じ返答しかしないハインに考えさせられるオリバーがいた。
『福音』は、祝福を受けた者に授けるのだが、ハインは悪魔であるとともに魔王である。魔王に祝福を授ける場合はよほどの理由がないと天使に反感を買いまた争いが起きてしまう。
それを危惧するオリバーがいた。
(ハインは確かに『福音』を受けるに値する偉業を成し遂げてはいるが・・・)
悩むオリバーの様子にアデルが気づき首を振るとうな垂れる。
二人の「合図」を見ていたハインは笑うと静かな口調で話している。
「フッ、分かっている。悪魔の俺には過ぎたる能力さ。魔王になり、似た能力はあっても神ほど優れてはおらん。まぁ、譲る気ができたらでいい。待つさ」
窓にもたれ、景色を見るハインの瞳は外の吹雪を捉え映しており、まるでハインの心情を現しているようだった。
(俺が成したいことにアレは必要なんだ。何回でも強請ってやるさ)
ただずむハインに見とれるオリバーに、ハインは近くに歩み寄ると頬をわしづかみ、ほほ笑み口付けている。
「おっさんに口づけなんぞしたくはないが、その内、アレを譲りたくなるさ。まぁ、俺の方がオリバーより格上であることを願うよ」
「«悪魔の接吻»か。ハイン、そうまでして求めるモノなのか。翼の数はおまえの方が多いが、オーちゃんは神だぞ」
「ああ、ほしいね。「呪う」つもりはなかったが、そうまでしてもほしい」
冷ややかな紫の瞳が、この時ばかりは炎を宿すかのように激しく、見つめる二人の姿を映し込んでいた。
「そうか、考えておこう。だが、おまえならその内、修得がっ」
「無理だっ。俺は魔王ぞ! 忘れたか。いくら天使の血を引こうが、「純血」の神の能力修得がそんなに早くできる訳がない」
睨み合うオリバーとハインを心配するアデルは横で手をたたく。
「二人とも、この会話はおしまい。もうそろそろ行くかね。皆、集まっているかも」
立ち尽くす二人の肩をアデルがたたき促しているとオリバーが突拍子なことをほのめかす。
「では、ハイン。「神」になるか」
「ア”ァン?」
耳を疑う話しに冷たく返事をするハインの瞳を見たオリバーは体が震え出し、冷や汗をかき出すがアデルを見ると自分をりっした。
とうとつのオリバーの申し出に耳を疑い、アデルは驚きを隠せない。
「ハイン、神の養子におまえがほしい。アーちゃん、いいかな」
「はぁ? あげない。あげない。恐いなぁ、ほらっ、行こう」
「実は、前から考えていたことだ。アーちゃんに相談しようと。ハインにはその器がある。どうだろう。さすれば、今、求めるモノも」
「・・・なにを考えて語るのか、おっさん。「神」を望むならおまえを脅してなるさ。だが、俺はコッチがいい。「天使」なんぞ・・・・「神」に成るぐらいなら、「ぞうきん」を選ぶ」
憎まれ口をたたくハインに、顔を青ざめ表情をゆがますオリバーがいた。
(なんという言いぐさ・・・ぞう・き・ん)
「コホン、さてハイン。この会合のあと話しをしたいのだが、時間はあるか」
咳払いをひとつしたあと、切り出すオリバーにハインは何かを感じとり、静かに瞳を閉じ聞き返した。
「パニシャか」
「ああ、そうだ」
「フン、いいも悪いも、ハナから断らせないこと前提で切り出しているではないか、おーちゃん」
「おおう?! おお」
「フッ、俺も話しが・・・条件がある。とりあえず聞け」
「条件?」
静かにうなずくハインは、命令口調でオリバーに話しを切り出した。
「俺は、魔王を返上し大魔王となる。そして、今後の行動にさらに責任を負うつもりもない」
言い切るハインに、オリバーは分かっていたかのようにうなずくと、隣のアデルも静かにほほ笑むだけであった。
落ち着いている面立ちを見せるハインだが、紫の瞳は何かを思い、奥底に炎を隠すが誰も気付かない・・・・
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