俺は俺で思うところがあり、エセ天使もだろうがそんなことは・・・勝手に思うが良い
おはようございます。こんにちは。こんばんは。
花が咲き誇る庭に腰を下ろすカノンが、顔を強張らせハインと、歩いてくる者の姿を捉え、震えていた。
ぶつかった人影にハインは、文句を言い睨んでいたのだがいきなり、腕を捕えられ身体は垂れ下がり自由が利かなくなってしまう。
腕を捕む者を、ハインは蹴り上げるが、その者は微動だにせず、ハインの身体をぶら下げ、カノンの方へと歩いて行った。
「フフ、たくましく育ったものだ。なぁ、カノン。コレがハイン、我が息子。会うのは二回目だ・・・」
「その子を離してください。いくらあなたでもその子に触れるのは許さない」
「ふうん。そうなのか? 可愛らしい顔をして言うことがきついな」
自らハインの父と名乗り、ハインを地面に固定し動きを封じるとカノンに口付けている。
天使を睨むハインだが、身体は地面に囚われ動くことも、話すことも、なにも出来ずに、じっと見ているだけだった。
ハインがまだ、少年となる前の、子供の頃の出来事である。
(ああ、そうだ。この時アイツが現れ、俺が見ているにも関わらず、目の前で母を穢したのだ。ほんとクソな天使だ)
ハインはまだ、夢に身を落としている。
「パニシャ、相変わらずですね。子供の前ですのに・・・恥じらいも何もなく、自分の思うがままに、以前もよく人前で私を・・・今日は何しに来たの。気は晴れたでしょう。早くお帰りなさい」
「いや、晴れてはいない。今日はコレを攫おうと思いここに来た」
天使を、パニシャという名で呼ぶカノンの口調は、少しとげとげしいが、格段嫌っているような様子ではなかった。
地ベタに這うハインの顔を、パニシャは踏むとニヤニヤと笑っている。
「お前・・・なんだよ。むかつく」
「紫の瞳はカノンで、銀の髪は私か? 顔立ちはいいとこ取りか。フフ」
「ハインは、私の。そして魔王となる息子です。渡しません」
「魔王ネェ。ほんとは、望んでもない癖に」
片腕で、カノンを抱き上げるパニシャは、もう片腕に小柄な黒い翼を出した。
腕に抱えた翼に顔をうずめ、匂いを嗅ぎ、カノンの表情を覗き楽しんでいる。
「それは、私の」
身体を、小刻みに震わすと同時に、カノンの紫の瞳は激しく揺れ、顔の表情と共に驚き怯えている。
「ああ、激しく求めるあまり、ついもぎ取ったお前の翼だ。忘れられなくて今もこうして持っている。コレでお前を思うこと度々、淋しさを埋めることも・・・」
「よくもヌケヌケと、女なら引く手あまっ」
話す口を塞がれ、唇をまた奪われたカノンはパニシャをはね除ける。腕に抱かれていた、カノンの身体は地面へと落ちた。
「ハハハ、それでもまだ私のことが好きな癖に。愛しているんだろう。だからハインの前でも凌辱された。違うか? カノン」
「・・・・・・」
何も言い返せずカノンは、顔を赤らめ、身をよじらせた。
布つなぎの服で身体を覆い隠すカノンだが、隠せてない白くほっそりとした太腿を、急いで布に入れようとすると、パニシャの手で押さえつけられ身体は力でねじ伏せられる。
「フッ、綺麗な脚だ。そして、病弱なわりに美しく艶めかしい身体は変わらずだな。お前も一緒に攫おうか。ハハッ」
怯えているカノンの姿を、ハインの瞳が据えると怒りに任せ、身体を震え立たせた。
「これ以上、母殿を侮辱するな。それにその手に持つ翼! もいだのはお前か。このエセ天使」
地面に囚われていた身体は、自由となり、周りの土を浮き上がらせ、パニシャに向けられる。
怒りに、身を委ね過ぎたハインは、カノンとの約束を破り、「見せない」はずの翼を出し相手を威嚇した。
その数十三枚、銀の翼が六枚と黒の翼が四枚そして、三枚の翼は白く、父だと宣うパニシャの翼と形がそっくりであった。
「ハハッ、凄い。私は八枚に対し、息子は十三とは、なんとも素晴らしい子を産んでくれるではないか、カノン。褒めよう」
「お前は、父でもない! ここで死ね。その前に母殿の翼は返して貰う」
怒りが抑えられないハインがいた。
紫の瞳が、パニシャを捉えると詰め寄り、いきなり殴り払らった。カノンとハイン、パニシャとの距離の間合いを取ったことを確認すると、炎雷系究極大魔法を放つ。
«麗葬炎鬼雷神魔槍»
「お前はもう天界へ帰るな! ここで朽ち果てよ」
パニシャにも向けられ放たれたのだが、ハインの狙いは空に浮かぶ、天界と魔界を繫ぐ扉「月光城」であった。ハイン的には(まぁ、同時に潰れてくれると助かるな)という心境ではあったのだが・・・・・・
ニヤけるハインに、パニシャとカノンは驚きを隠せないでいる。
いくら天使と悪魔の混血とはいえまだ、身体は少年と幼子の間にして未成熟、耐えられるはずもないのに究極魔法を放ったのだから・・・・・
空に放たれた魔法は、月光城と月一つに当たり、一瞬光ると激しい破裂とともに煙幕を上げ周囲に轟き、衝撃の波が地上に降り立つ。
三界「天界・人界・魔界」の平地、山、川、住居地に一瞬、強大な風圧を唸り上げ落とすと、波を引くように静まり返った。
豪快に吹き飛ぶ、月光城と月を目の当たりにしたパニシャは喜び、ハインは舌打ちをする。
「エセ天使も一緒に砕ければ良かったのに」
口の端をあげ、ニヤけるハインに、パニシャは褒め称え近づき、先ほどより喜んでいた。
「なんてことだ。素晴らしい、お前がいれば三界を手中に収めることも夢では無い」
「はぁ、夢見てろよ。そんなこと、魔王も、神も許さない」
「では、私に従うように呪いをかけよう」
「そんなもの屁でもない。返してやるさ。受けて立つ」
「ダメ、ハイン。その人の呪いは」
手をかざしたパニシャの手のひらに、魔法陣が描かれ、ハイン目掛け放たれるが・・・
受け返す気満々のハインだったが、気が付くとカノンが代わりに魔法陣に包まれていた。
「母殿、なぜかばった。呪いを受け取ると母殿の身体が耐えられない」
「ハイン、あの人の呪いを甘く見てはいけない。あの人は・・・」
「ハッ! 嘘だろう。これは古の黒魔術じゃないか・・・そんな」
(“アレ”にはやられた。天使がそんな術を使うとは思わない、反則だろう。今ならすぐ解除出来るが・・・)
ハインは、夢の中で反省している。なぜ、母の忠告を注意深く聞かなかったのか・・・
「フフ、ハイン。大丈夫よね」
全身を、呪術文字がミミズのように蠢き、カノンの白い肌を黒く呪っていく。
術文字の黒さにハインは、目を覆い背けるとパニシャを睨んだ。
二人の姿を見て、ニヤけるパニシャに、ふと金の羽根が降り注ぐ。
「そこまでだ、パニシャ。嘆かわしい男よ」
声のする方を、ハインが見ると、アデルともう一人、神々しい光に包まれ、豪気な金色の翼を持つ男が立っていた。
「哀れ、パニシャよ。裁きの門が降る。恥を知れ」
(そう、爺が神を連れて来たんだ。そしてエセ天使に裁きが降った。それから・・・)
魔王城に、明るい陽が差し込みハインは眩い光りに目が開けられず瞼を閉じた。
瞼からは、ひと筋の涙があふれ、頬を静かに伝う・・・
気が付くと、夢から戻り身体をゆっくり起こすハインの瞳からは、夢と同じように涙がひと筋流れ、心配そうに覗くアデルがいた。
明るく、差し込む光は、朝の訪れの合図だった。朝陽が、山から覗く斜光が、ハインを優しく包む。
(今更にして、思うがなんとも生意気な子供時代よ。言葉使いが可愛いくないな。フッ)
昨日、壊した山のおかげで、光りがより差し込むようになってしまったが、山を直すことなく、景色を見て微笑むハインがアデルに話しかける。
「母殿が死ぬ前の夢を見た。あれからパニシャは、神と爺の手により幽閉されたが、それでも後ろで手を引いている。コレの意味するところは爺と神は理解しているのか」
この一言に、アデルはうなずき、ハインは「ある決断」を心強く高めるのだった。
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