第67話 ガーベンの末路
「愛ちゃん、コントロールを俺に預けてくれないか?」
愛ちゃんは驚いた表情で俺を見た。
「武蔵お兄ちゃん、何かいい方法があるの?」
「このまま終わりなんて、俺は認めない。だったら、俺のイメージのすべてを賭けてこの船で攻撃してやる」
俺の真剣な表情を見ていた愛ちゃんは、うなずいた。
「分かったよ。お兄ちゃん、何か方法を思いついたんでしょう。だったら、やってみて。愛、その通りにするから」
「ありがとう」
俺は愛ちゃんの映ったモニター画面に手を触れた。
その俺の手を上から和泉が押さえた。
「和泉」
和泉は俺の顔を見て微笑んだ。
「頼んだわよ。私も力を貸すから」
和泉の手の温もりがじんわりと俺の心まで温かくさせた。
「俺もいるんだけどな」
日向がさらに和泉の手の上に手を置いた。
「武蔵さん、愛のことをお願いします」
神在月さんが祈るように俺を見つめた。
「はい」
俺は短く返すと、愛ちゃんに自らのイメージを伝えていく。
カプリース号はガーベンからいったん離れた。
どんどん一直線に引き離していく。
ガーベンは追いかけっこの続きかと言わんばかりに後を追ってきた。
奴は一直線しか来ない。
なら、これはどうだ。
俺はカプリース号をジグザグに走らせた。
ガーベンが勢い余って通り抜けていく。
和泉が操縦していたときよりも早い。
直接俺が船を操っていることと、不幸中の幸いで船の大きさが半分になり小さくなったこともあるのだろう。
次第に距離を離されたカプリース号に、ガーベンはますます猛りくるって追ってきた。
今だ。
奴が一直線でこっちに向かってくる。
このときを待っていたんだ。
反転180度。
俺はカプリース号を急回転させて、ガーベンを真正面に捕らえた。
ーー愛ちゃん、行くよ!
ーーお兄ちゃんに任せたからね。
イメージが俺を通して愛ちゃんに伝えられる。
そしてそのイメージ通りカプリース号が変わっていく。
カプリース号の周りから白いオーラが立ち昇る。
船全体が白い光の玉に覆われる。
「お前の怨念が強いか、俺の信念がそれを上回るのか、勝負だ!」
カプリース号は全速力でガーベンに向かって行く。
ガーベンはそのまま大きく口を開けて俺たちを飲み込もうとした。
「うああああああああああああああ」
俺の気合いの入った絶叫とともに、カプリース号はそのままガーベンの口から中へと突入していく。
グニャリとした粘土のような感覚が船全体を包み込んだ。
ガーベンが俺たちもろとも吸収しようと圧力をかけている。
俺たちはお前のように一人だけじゃない。
俺にはこの船の力、愛ちゃんの力がある。
和泉も日向も、神在月さんも力を貸している。
何より俺たちにはナイトメアハザードで苦しむ人たちの希望と、残された家族や友人たちの想いが込められている。
その想いをお前のような奴と一緒にされたら割に合わねえ!
悪しき欲望は、みんなの想いの前には、無力だ!
俺のその信念が愛ちゃんに伝わる。
カプリース号が光り輝いた。
それは白いオーラとともに炎のように辺りを照らした。
一すじの彗星となったカプリース号は、そのまま肉塊を切り裂きながら突き進み、ついにガーベンの頭頂部を突き破った。
凄まじい爆音と光線とともに、ガーベンの念物は四散して跡形もなく消滅していった。
「やった! やったよ!」
愛ちゃんがはじける笑顔でスクリーンに写った。
日向と和泉が両手でハイタッチして嬉しさを分かち合っていた。
神在月さんは静かに涙を流していた。
俺はと言うと、本当にこれで終わったのかという思いだった。
何かあるんじゃないだろうかとか、まだ安心できないという思いの方が強く感じられた。
だから、和泉や日向から握手を求められたり、背中を叩かれたりして騒がれても、嬉しさより違和感がまさっていた。
とにかく、まだ終わりじゃないんだ。
ナイトメアハザードは続いている。
浮かれるみんなを尻目に俺はカウンターを見た。
残り00:25:08秒だ。
「浮かれるのは早すぎる。ナイトメアハザードが終わったわけじゃない」
俺の一言に周りのみんなの動きが止まった。
「そうだったわ。早くなんとかしないと」
和泉が真剣な表情になった。
「武蔵の言うとおりだ。俺たちがはしゃぐのが早すぎた。すぐに念物に向かおう」
日向が操縦席に座った。
すぐにハンドルを切って、カプリース号を発進させた。
船はガタガタと震動しながら、ゆっくりと動き始めた。
俺と愛ちゃんが動かしたときが、ウソのようなポンコツぶりだ。
思うにあれは俺のイメージと愛ちゃんの思いが結びついてあんな動きができたのであって、本来ならこんな状態だったのだろう。
「な、何だよこれは。よくこんなの動かせたよな」
日向がびっくりしてカプリース号を操船しながらグチる。
「武蔵お兄ちゃんと愛の力よ」
スクリーンの愛ちゃんがへへーんと自慢げに言う。
「武蔵お兄ちゃんへの愛の力だったりして」
日向がそうつっこむと、愛ちゃんは瞬時に顔から耳まで赤くなった。
「し、し、知らない」と言うなり後ろを向いて、いきなり画面から消えた。
「おいおい、消えちゃったよ。軽い冗談だったのに」
日向が頭をかきながら弁解した。
和泉は複雑な表情でスクリーンを見つめていた。
カプリース号はゆっくりとモノリス状の巨石のあったクレーターへと着陸した。
愛ちゃんを除いた全員が船から下りる。
俺たちは巨石めざして早足で向かった。
やがて、大きな平たい石とそれに杭で打ちつけられた七色の人銀河が見えてきた。
「きれい」
初めて人銀河を見た神在月さんが、素直な感想をもらした。
「まるで虹でできた星雲みたい」
「俺も同じことを思いましたよ」
日向と神在月さんがそんなことを話しているのを聞きながら、俺は和泉を見た。
和泉は黙って歩いていた。
「大丈夫か?」
俺が話しかけると、和泉は大丈夫、と短く返した。
「ちょっと考え事をしてた」
「何を?」
俺の問いに和泉は間を置いて答えた。
「やっとこれで終わるのかと思うと、なんか信じられなくて」
「俺もそうだ。ナイトメアハザードを引き起こしているのが、この杭だというのがちょっと信じられない。でも、ガーベンはそう言っていたよな?」
俺が念を押すと、和泉はうなずいた。
「なら、早く杭を抜いてしまおう。それですべてが終わるんだから」
「そう、だよね」
和泉はまた押し黙った。
和泉の心情を思いはかって、俺はあえて何も言わなかった。
俺たちはモノリスの真下まで来た。
頭上には人でできた銀河系が瞬いていた。
「ここからはあなたたちの仕事よ」
神在月さんが俺たち三人をそれぞれ見て言った。
「ようやくこれで多くの人たちが救われるわ。それをもたらすのは、あなたたちよ」
「はい」
「行って、役目を果たしてきて」
神在月さんは堪えきれなくなって手で目をこすった。
俺と日向が背中から翼を出した。
白い大きな翼を羽ばたかせて、空に浮かべることを確認した。
空を飛べない和泉のために、俺は左手で和泉の肩を組んだ。
日向も同様に右手で肩を組んで、二人で和泉を挟むようにして宙に浮かんだ。
ゆっくりと浮上してモノリスのてっぺんまで来た。
俺たち三人の目の前には、大きな槍状のくびきと、そこに打ちつけられた人銀河があった。
俺たちはくびきをしっかりとつかんだ。
思ったよりも大きく一抱えもありそうな巨大な槍は、がっちりと俺たちを拒むかのように大きく、その異様な姿を目の前に見せつけていた。
「みんな一緒に引き抜くぞ」
「力を合わせて。せえーーーのぉ!」
和泉の号令で俺たちは全力で槍を引き抜こうとした。
「くっそおーーっ! 動かねえ!」
顔を真っ赤にした日向がどなる。
「ここであきらめちゃダメ。死ぬ気で抜くのよ」
和泉も負けず劣らず真っ赤っかになって体全体を使って抜こうと奮戦していた。
しかし、巨大な杭は全く動かなかった。




