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ナイトメアハザード  作者: せっさ 拓馬
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第66話 最後の戦い

「これって? 夢幻界で致命傷を負って死んだら、消えるはずじゃなかったのか?」


俺の問いに、和泉がひきつった顔で答えた。


「ええ、ガーベンは死んだはず。生き返ることなんかない」

「じゃあ、これは一体何なんだよ!?」

「まさか、念物?」


神在月さんがつぶやいた。


「確か、強い感情が念物を創り出すって言ってませんでしたか? もしかしたらガーベンが念物になろうとしているのかも」

「うそ、だろ?」


俺たちが話している間にもかつてガーベンだった霧は、膨張しながら形を取ろうとしていた。


「船に戻れ! ここは危険だ」


俺がそう言うと、みんながカプリース号目指して走り出した。

船の甲板まで俺たちはあわてて駈け上がった。


「愛ちゃん、上に逃げて」


和泉がカプリース号に呼びかけた。

それに応じて、船が全力で離脱した。


「あれを見て!」


和泉の指さす方へ目を凝らした。

黒渦巻念物の上空に赤い塊が浮かんでいた。


「ひょっとしてあれがガーベンなのか?」

「本当に念物になりやがったのか・・・」


俺と日向は唖然として念物と化したガーベンを見ていた。


「危険よ! 早く中に入って」


ハッチから顔だけ出して神在月さんが呼びかけてきた。

俺たちは急いで船内に戻った。


操舵室のモニターには、随時変化する念物の状態が映し出されていた。

赤い塊状の物体に、へこみやこぶができている。

ぐねぐねと収縮と膨張を繰り返しながら、さらに大きくなっていった。


「なんか顔みたいになってきたぞ」


俺は思わず声に出してしまった。

こぶ状の部分は鼻線となり、くぼみは眼球へと形作られていく。

次第にその姿はかつてのガーベンの頭部を思わせるものに変化していった。


「うわーっ! こいつガーベンの頭そのものじゃないかァ!」


日向がたまらずに感想を口にした。


「角はないけど、あれは明らかにガーベンの顔だよな」


俺も日向に同意した。


「来るわよ!」


和泉が言うやいなや、ガーベン顔の念物はこっちを向くなり動き出した。

次第に姿が大きくなってくる。


「気持ち悪い」


神在月さんでさえ、はっきりと不快な感想をもらしていた。

和泉は運転席に座って、ハンドルを握りながら旋回行動に入っていた。


「とりあえず、こいつから逃げるわよ」


和泉はガーベン念物から一定の距離を置きながら、黒渦巻念物のある方向とは反対側へ逃げ出した。


「あまり近かったら、私たちの『人銀河』に被害が及ぶかも知れないからね」


和泉はそう言いつつ、ガーベン念物を誘導していく。

こういう細かいところに気が回るのは、さすが和泉だ。

俺ならうっかりそのまま戦闘態勢になってしまいそうだ。


ガーベンはかつての知性を持った存在ではなさそうだ。

カプリース号だけを目の敵にして、ずっと追尾していた。


「まずいわね。スピードがどんどん加速しているわ」


和泉が唇をかんだ。


「愛、もっとスピード出せないの?」


神在月さんが呼びかけると、モニターに愛ちゃんが疲れた顔で出てきた。


「これで精一杯だよぉ」

「とにかく捕まらないように頑張って」

「やってみるけど・・・・・・」


そう言うと愛ちゃんの顔は画面から消えた。


「おい、見ろよ。もう時間が残り一時間を切ってる」


日向の言うように、残り時間カウンターの表示は00:56:32となっていた。


「現実ではすでに11時4分か。あとわずかしかない」

「ついに大詰め。追いつめられ絶体絶命のピンチか」


日向は気休めなのか呑気なのか、そんなことを口にした。


「このままだと、きりがないわ。追いつかれてしまう」


和泉はハンドルを切りながら、ガーベンの体当たりをかわしていた。

そのときだった。


「我のモノとなれ」


いきなり声が船内に響いた。


「な、何よこれ!」

「奴だ! ガーベンの声だ」


俺と和泉は思わず顔を見合わせた。

俺たちの目の前にガーベン念物の姿が大写しになった。

無表情なのに大きく口だけが開かれたのが、不気味さと禍々しさをかもし出している。


「お前たちは我に取り込まれ、糧となるのだ」


耳を押さえても頭の中に直接声が叩き込まれた。


「こんな奴に食べられるなんて、絶対に嫌っ!」


愛ちゃんがモニターごしで大声で叫んだ。


「当たり前でしょ! 絶対逃げ延びてみせるわ!」


和泉も愛ちゃんに勇気づけられて声をあげた。


「でも、ここで逃げ出したら、人銀河はどうなるんだ?」


日向のもっともな質問に女性二人が押し黙る。


「だ、だったらどうしたらいいのよ!」


切れ気味の和泉の問いに日向も言い返せなくなり押し黙った。


「・・・・・・やるしかない」


俺が思わず口にした言葉に、全員が俺の方を向いた。


「このまま逃げていてもキリがないだろ。もう時間がない。だったら、反撃するしかない」

「どうやって!?」

「この船には武器はないのか?」

「無茶だよ。愛は武器なんて知らないよぉ」

「この船は愛の意識を元に創られていますから武装は全くないのです。唯一備え付けの弓矢(アーバレスト)ぐらいです」


神在月さんが補足した。


「きゃあああ!」


和泉の悲鳴とともに、船が大きく揺れた。

ガーベンが船の後尾に当たったのだ。

モニターには、衝撃で後方マストが折れているのが確認できた。


「次にぶつかったらマストだけじゃ済まない」


日向が緊張した面持ちで言った。


「早く、何か方法があるなら考えて!」


和泉が悲鳴のような声をあげた。

前のクロスボウはだめだ。

威力が小さすぎる。

アンカーでは方向を変えるのが精一杯だ。

下手に使えばこっちが絡み取られてしまう。

大砲なんてすごい兵器は装備してない。

攻撃の方法は、もうこの船にはない。


あとは逃げるしか手はないが、ここで逃げ出したら任務は失敗でナイトメアハザードの犠牲者は死んでしまう。

すでに原因も戻す方法も分かっているのに、ここでおめおめと引き下がるわけにはいかないんだ。


だったら・・・・・・、

俺に何ができる?

俺は最強の能力者だって、都リーダーは言っていたじゃないか。

夢を具現化する力、ドリームリンカーだと。

相手は自分の怨念を具現化した同じ能力者のドリームリンカー、いやこいつの場合は悪夢の具現化だからナイトメアリンカーか。

よりにもよって、その能力で自らを念物と化したわけだ。

なら、俺も能力で対抗できないか?


俺はしばらく考えた。

イメージでこの船を使って念物ガーベンを倒すシーンを。

どうすればいい。

武器のない船で何ができるんだ。


「うああぁぁーーーーーーーっ!」


いきなりガーベンの口が大きく開かれた画面が目の前に現れた。

その上顎から生えた歯柱でカプリース号を咬んだ。

ガリガリガリという恐ろしい音とともに、船内に木の破片とほこりが落ちてきた。


「このままだと喰われる!」


日向が真っ青になって叫んだ。


「愛! 全速力で逃げるのよ!」


神在月さんの指示で、カプリース号はガーベンに食べられる前に無理矢理に船を噛み潰されたまま、脱出した。


「見て!」


和泉がモニターを見て叫んだ。

もうカプリース号は難破船状態だった。

船内の半分は無くなり、前面部分だけがかろうじて残されていた。

俺たちはみんな操舵室にいたから投げ出されないで済んだだけで、もし自室にいたなら今頃ガーベンの食事となっていただろう。


「もう、ダメだよ。これじゃ、おしまいだよぉ」


愛ちゃんが震える声でつぶやいた。


「そんな、ここまで来て」


和泉が両手で顔を覆った。


「愛、今度はお母さんが一緒だからね」


神在月さんがモニターのある壁を両手で抱えた。


「・・・・・・」


こんな絶体絶命の時、どうしたらいいんだ。

俺は何か方法がないか、必死で考えた。


・・・・・・・そうか。

あるじゃないか。

最後の手段が。

俺は覚悟を決めて愛ちゃんのいるモニターを見つめた。


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