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ナイトメアハザード  作者: せっさ 拓馬
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第68話 悪夢から目覚める刻

俺たちは力を使い果たして、荒い息をしながらいったん引いた。

無言のまま、目の前の槍を見つめていた。


みんな思うことは同じだった。

ここまで来て、できませんでした、では何のために今まで戦ってきたのか。

すべての苦労が水の泡と化してしまう。

それでも俺たちの力では、どうにもならない。

微動だにしなかったこの巨大なくびき相手にどうしたらいいのか?


俺は必死に頭を振り絞った。

考えろ、考えろ。

失敗すればすべてが終わる。

絶対に引き抜かないといけないのに……。


そうか。

俺の頭の中に同じようなシチュエーションの話を思い出した。

イギリスの英雄伝説、アーサー王の話だ。


勇者アーサーは聖剣エクスカリバーを巨石から引き抜いて、勇者として認められた。

あれはなぜできたのだろう?


アーサーが勇者だったから?

それもあるだろう。

でも、それだけじゃないはずだ。

アーサーには剣を引き抜いてでも成し遂げたい何かがあったから、成し得たのではないか?

だから、聖剣エクスカリバーは勇者だと認めたのではないか?


夢幻界ならイメージと意志の力がはっきりと影響を及ぼす世界だ。

なら、俺たちが勇者であるというイメージを創り出せ。

俺は三人が力を合わせて槍を引き抜く姿をしっかりと胸に刻み込んだ。

俺たちはやれる。

ここまで力を合わせてきたんだ。

試練を乗り越えるには十分なはずだ。


「日向、和泉、もう一回だ。三人の力でこの槍を引き抜くところをイメージするんだ」

「でも……」


和泉は悲しそうな表情になった。


「自分の力を信じて。力だけで抜こうとするんじゃなくて、みんなで引き抜く姿をイメージに重ねるんだ」

「わかった。私だけじゃ無理でも武蔵君がいるから」

「イメージすればいいんだな。その言葉を信じてもう一度全力でやってやるぜ」


和泉と日向が杭をしっかりと掴んだ。

俺の力よ、今ここで奇跡を見せてくれ。

俺はそう念じ、槍に力を込めた。


その瞬間、ずるりとした感覚が手に伝わった。


「今だ!」


俺の声とともに、勢いづいた日向と和泉が有らん限りの力でくびきを引いた。

ひとたび動いた杭は次第にずれ動き、ついに岩から抜けた。

多くの人々を苦しめていたくびきは、そのまま下へ落ちてけたたましい轟音を響かせた。


その振動でモノリスが揺れ出した。


「ごがががががーーーーーーん」という音とともに、今までつなぎ止めていたモノリスは傾き始め、大地へと倒れた。


俺たちは下を見て、神在月さんが巻き込まれていないことを確かめた。

すでに神在月さんは杭が動き出したときに逃げ出しており、無事だった。


逃げおおせた神在月さんが満面の笑みを浮かべていた。


「終わったわ。これで……」


そう言うなり、ポロポロと目から大粒の涙をこぼし、泣いていた。


俺たちは地面に抜け落ちた杭を見て、しばらくの間あっけにとられていた。


「武蔵君……」


和泉が潤んだ瞳で俺を見つめていた。


「やったよ。ついに……」


日向も俺のほうを向いていた。


「成功したんだァ。すべての任務が!」

「ナイトメアハザードがこれで止まったはずよ!」


和泉が日向が俺の手を取った。

二人とも泣きながら手を握りしめていた。


「そうか。やったのか?」


この杭を抜いたことと、それがすなわちナイトメアハザードの終了を意味するという事実に考えが追い付いていなかったのだ。


「終わったんだよな? これで?」

「そうよ!」


和泉が頷いた。


「俺たち、やったんだよな?」

「そうだよ! 武蔵のおかげだよ!」


日向が肩を叩いた。

二人の笑顔を見て、改めて俺は気づいた。

本当にすべてが終わったことを。

俺たちがついに勝利して、ナイトメアハザードを終結させたことに。


「やった。やったんだああああぁーーーーーーーーーーっ!」


俺は大声で叫んだ。

勝利の雄叫びと言うよりは、自分自身で納得させるために……。



安心した俺たちは改めて人銀河を見た。

くびきから離れたことで人銀河は束縛を受けることがなくなり、次第に上へと浮かび上がっていく。

俺たちも翼を羽ばたかせて後を追った。


くびきによって空間になっていた部分は、すぐに新しい光で埋め合わされ、さっきよりもよりいっそう輝きながら光を放った。

前でも十分美しかったが、それでも今と比べるとチカチカ点滅している蛍光灯と太陽の光ぐらいの差があった。


俺は何気なく、人銀河に手を差し伸べた。

一つの飛んできた白い光点が俺の人差し指に触れた。

そのとたん光点は大きくなり、一人の女性の姿を取った。


「都リーダー」


和泉が両手を口に押さえてつぶやいた。

裸体の都リーダーが丸いシャボン玉のような透明な球体内で膝を抱えて座っていた。

俺たちに気づくと、いつもの変わらない笑顔を見せた。


「都リーダー、生きていたんですか?」


日向が目から涙を浮かべて聞いた。


「生きているとも死んでいるとも言えるわね。私は目覚めることはできないから。でも、意識だけはここにあるわ」

「都リーダー、ごめんなさい。私のせいでこんなことに・・・」


涙声の和泉を都リーダーは優しくなだめた。


「私が助けたいから助けたのよ。和泉さんが気に病むことはないわ。謝らないといけないのは私のほう。貴方のことだから、相当自分を責め悩んだでしょう。だから、もう気にしないで」


都リーダーは優しく手を差し伸べた。

和泉はその手をしっかりと自分の頬にこすりつけた。


都リーダーは俺の方を向いた。


「私が思ったとおりになったわね。いえ、想像以上だったわ。あなたがいなかったらみんなを助けることも、ナイトメアハザードの惨劇が終わることもなかった」

「都リーダー、おれ、俺は、あなたの言葉を信じてここまで来たんです。あなたが俺の背中を押してくれなければ、ここまでなれなかった」

「うん、うん。立派になったわ。もう私があなたに教えることは何もないぐらいにね」


都リーダーは満足げにうなずいた。


「日向君も成長したわね。ゲーマーだった頃と比べると、見違えたわよ。少しは人と協力することに自信が持てたかしら?」

「よけいなお世話だよ」


自分のあまり触れられたくないことを言われたせいか、日向は少しブスッとして横を向いた。


「あら、ごめんなさい。でも、私があなたたちのことを心から思っていたことは信じてほしいわね。正直に言うとね、私はあなたたちに済まないって思っていたのよ。少年少女だけを戦いの中に追いやって、自分はぬくぬくと安全な所で指示だけ出している。しかも能力がないから手伝うことすらできなかったからね」

「そんなことはないです。都リーダーもいつも最前線で俺たちのことを気にしてくれました」

「武蔵君にそう言ってもらえると、少し楽になったわ」


そう言うと都リーダーは言葉を切った。

ちょっと目が潤み、何かを言おうとして、首を振った。


「あなたたちは私の誇りよ。だから私のことはもう嘆かないで。これからの世界はあなたたちのものよ。だから、みんなで助け合って、この世界を守っていって」

「都リーダー・・・・・・」

「さあ、もう行きなさい。多くの人たちがあなたたちの帰りを待ち望んでいるわ」

「はい」


俺たちは敬礼して都リーダーを見送った。

都リーダーは微笑むと、再び光の玉になって人銀河の中に戻っていった。


「・・・行っちゃったね」


しばらくしてから、絞り出すように和泉が言った。


「ああ、でもここで都リーダーに会えてよかった」

「また、会えるかな?」


日向の問いに俺は答えた。


「もちろんだろ。俺たちがここに来れば、な」


俺たちはゆっくりと離れていく人銀河をいつまでも見つめていた。




カプリース号の船内に戻ると、すでに用意のできた神在月さんと愛ちゃんが待っていた。

モニター内の愛ちゃんはあくびをしている最中だったが、俺たちが帰ってきたのを見て、あわてて口を押さえた。


「お待たせ。じゃあ、戻ろうか」


俺がそう言うと、愛ちゃんはにこにこしながらたずねてきた。


「ねえねえ、一体何があったの? 話してよぉ」

「いろいろね。帰るまでにゆっくり聞かせるよ」

「さてと、ゆっくり船室で寝たいとこなんだけど、ないんだよなあ」


日向が後ろを振り向きながら言った。


「ゆっくり寝るのはリアルに戻ってからにしたら。もっとも、もう悪夢はこりごりだけどね」


和泉が相変わらずの冷静なつっこみを入れた。


「じゃあ、難破船じゃなくて超特急で帰るとするか。愛ちゃん、用意はいいかい?」

「オッケー、いつでもいいよぉ」


俺はまた前と同じく、スクリーン前の壁に手をつけた。


「カプリース号、発進!」


俺がイメージを浮かべる。

それを受けてカプリース号が光り輝いた。


美しい七色の光の筋を後ろに残しながら、白い彗星と化したカプリース号は、一直線に夢幻界の暗闇の中から、薄紅色の光の世界へと向かって飛び去っていった。




2018年7月31日、午後11時46分。

103万831人のナイトメアハザードの昏睡者が徐々に起床していった。



悪夢は終わったのだ。



(了)


これで、この話は終わりです。

今までお読みくださり、ありがとうございました。

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