第62話 ガーベンVS武蔵
ガーベンが立ち上がるやいなや、圧倒的な気の流れが伝わってくる。
自分の意思まで吹き消されそうなプレッシャーを気合で持ちこたえる。
「たった二人で乗り込んできたか。お前たちの乗り物が上の方でうろうろしていると思って油断していた」
ガーベンは口を開いていない。
直接俺の脳の中へ語りかけてきている。
和泉の方を見ると、驚いた表情をしている。
どうやら、和泉にも同じメッセージが聞こえているらしい。
「この杭を抜いて、ナイトメアハザードを止めろ」
「ナイトメアハザードとは、何か?」
「石柱に刺さった杭のせいで、私たちの世界では多くの人たちが寝たきりになっている。それをやめてほしいのよ」
和泉が俺の言葉では分かりにくいと思ったのか、補足してくれた。
「ふむ。やはりそうか。そういう影響があるのか」
ガーベンは人銀河を見ながら言った。
「これはお前たちの光か?」
「そうだよ。分かっているなら、早くしろ」
俺の言葉にガーベンが頭をこっちに向けた。
相変わらず目を開けずにこちらを見た。
「命令できる立場か? 我はお前たちより格が上だ。お前たち下賤の者に言うことを聞く気はない」
「俺たちが下賤だと。言ってくれるな。なぜそう言いきれる?」
俺はこの上から目線のいけ好かない異星人に、思わずけんか腰で聞いた。
「我は夢を自在に操る者。この世界を自由に動かし、望むものはすべて思いのままだ。お前たちより遙かに意識レベルが高いからだ」
「気をつけて。こいつもあなたと同じドリームリンカーの能力者よ」
和泉が俺に警告する。
「それは違うだろ。俺と一緒にされたら困る」
驚く和泉に俺は言った。
「俺の能力は奴みたいに人に迷惑をかけるものじゃないだろ?」
「そ、それは・・・・・・」
「だから、奴と俺は違う。あんな悪夢を操る奴なんかの言いなりになるか!」
俺がそう言うと、和泉は微笑んでうなずいてくれた。
俺は改めてガーベンの姿を正面から見つめて言った。
「奇遇だな。俺もお前と同じ、夢を操る能力者だよ。だから同じ立場だ」
「ならば、それを示せ!」
ガーベンは持っていた大槍を振りかざした。
あのとき、都リーダーを貫いた槍だ。
もし、あのとき俺が側にいたなら、狙いが俺だったなら、都リーダーは死なずにすんだはずだった。
「ガーベン! その槍は二度と使わさねえ!」
ガーベンは俺めがけて槍を投げた。
槍は一直線に俺に向かって飛んできた。
「おりゃあああああああああああ!!」
気合いとともに俺は両手を前に掲げた。
あんなものは只のイメージだ。
ガーベンの殺意という意識の産物だ。
俺は槍が砕け散る状況をイメージした。
ガラスのように砕けよ!
俺のイメージが槍を捕らえる。
その瞬間、俺に突き刺さろうとした槍が金色に輝き、爆発して四散した。
「貴様は・・・・・・」
ガーベンが絶句した。
「馬鹿な! そんなことなどありえん!」
「なら、もっと証拠を見せてやる」
俺はガーベンの黒色の鎧を見据えた。
装甲板のような板金でできた、いかにも頑丈そうなプレートアーマーを、俺は粘土に見立てた。
こんなものは見かけ倒しだ。
奴の鎧など、とろけてしまえ!
そのとたん、ガーベンの黒い鎧から蜜が滴り落ちるように、黒い汁が表面に流れ出した。
ガーベンが驚いて体を動かすと、鎧はグニャリと歪みガーベンの体から溶け落ちた。
呆然としていたガーベンの表情が、仏像の仁王像のような憤怒の表情に変わった。
「き、貴様あああっ!」
「これでわかったろう! 俺もお前と同じ立場だ。さあ、言うことを聞け!」
怒りの表情でこちらを睨みつけていたガーベンだったが、同じ立場という言葉を聞くと、かろうじて怒りを静めた。
ほう、大した精神力じゃないか。
怒りに我を忘れて襲いかかってくると思っていたのに。
「いいだろう。お前を対等の能力者と認め、それなりの敬意を払おう。何を望む?」
「さっきも言ったはずだ。俺たちの世界の人たちを元に戻せ!」
ガーベンは不敵な笑みを浮かべた。
「その要求の対価は何か?」
「対価だと!?」
「そうだ。対等なのは認めよう。だからこそ、話だけは応じる。しかし、それに従うにはそれなりのモノを差し出せ」
「なら、お前は何を望むんだ?」
俺の問いにガーベンは上を指さした。
「お前たちの乗り物だ」
「カプリース号ですって?」
和泉が思わず口に出して言う。
「そうだ。お前たちの乗り物が欲しい」
「何のために?」
「この夢幻界を旅するために。我の人銀河を見いだすためだ」
「人銀河? 何のために?」
「お前たちも知っておろう。人銀河はその世界の人々が眠りについたときに集まる意識の集合体だということを。それは夢幻界のある特定の場所に集まり、渦となり塊を形成する。それが人銀河と呼ばれるものの正体だ」
「それは知っている。なら、どうしてお前はそれを欲しがるんだ?」
「知れたこと。我の世界の人銀河を見つけだし、世界に君臨する。すべての者たちが我の言うがままになるのだ」
「ゲスだわ」
和泉が心底軽蔑したかのようにつぶやいた。
「独裁者を目指すってわけね。この狂人」
こいつは人じゃないから、狂宇宙人だな。
和泉の台詞につっこみを心の中で入れる。
「世界の支配を求めて何が悪い。世界が我が意志の元で統一されるのだ。生物としてはごく自然の働きだ。弱き者は死に、強き者こそ生き残る。それが生物の掟であり、万物を問わずの本能だ」
「だからって、すべての人間を殺していいっていう理由にはならないはずだぜ」
「もちろんだ。我とてすべての者を殺そうとは思っておらぬ。我が意にそまぬ者を殺すだけのこと。もっとも全種族が私を抹殺しようとするなら、そのようになるかも知れぬがな」
こいつは本気だ。
すべての人間、生物を下に見て、軽蔑してやがる。
だからこそ、人を殺すことを当たり前と思い、何のためらいもない。
夢を操れることで、自分を特別な存在だと勘違いし、他者に何をやっても当然だと思ってやがる。
「なぜ、そこまで残酷になれるの?」
和泉が哀れみの表情を浮かべて聞いた。
「我はこのような能力を持ったことで、周りの人間は我を忌むべき存在として扱った。我は虐げられた。その恨み、憎しみを決して忘れはせぬ。いつか、我をそう扱かった者たちに復讐する。そう思って今まで生きてきたのだ」
ガーベンは目を閉じた。
「今ですら、我が身は牢獄の中だ。決して外へは出られず、終身この檻の中で過ごすのだろう。だからこそ、我は同じ罪状のウゴスを味方に引き入れて夢幻界を旅することに決めたのだ。時が来れば、我が楔は引きちぎられ、我を貶めた者すべてには死が訪れるだろう。我に刃向かう者にも今までの恨みのすべてをはらしてやる」
「あなた、惨めすぎるわね」
和泉はむしろ同情する目で見た。
「あなたの考え方、分からなくもないわ。私だって周りから下に見下されてきたもの。なまじ良い家系に生まれてきたから、私みたいな落ちこぼれは決して認められなかった」
和泉が良いところの出身だというのは、夢で見当はついていたけど、落ちこぼれだとは思えなかったな。
どこか気品があるけど、なんか俗っぽいのは、そういうことか。
「私はみんなに認められるために自分を封じた。みんなの言うなりになり、みんなの意のままに動いたわ。精一杯の努力もした。でも、無駄だった。力及ばない私は意に添わない子として、見捨てられた」
夢で和泉は両親やみんなから責められていた。
あれはそういう意味だったのか。
「結局、どう人は努力してもできないこともある。目の前の壁が高すぎて、他者を恨むしかできないことがあるって事は私も知ってる。それでも私たちにできることを精一杯することしかない。他人をねたみ引きずりおろし、ウソをついて貶めるのは卑怯者のやり方よ。あなたは他者に負けたんじゃない。自分に負けたのよ」
和泉はガーベンに面と向かって言った。
「黙れ! このゲスが! お前のような弱者が我に意見できる立場だと思っているのか!」
ガーベンは和泉を睨みつけた。
その目から真っ赤な光線が放たれた。
和泉はとっさに身をよじったので、直撃だけは避けられた。
それでも、左腕が吹き飛ばされ切断面が真っ赤に染まっていた。
「和泉!」
俺が呼びかけると、和泉は倒れた姿勢で腕を押さえていた。
「大丈夫よ。すぐ元に戻るわ。ただ、泣きたいぐらい痛いけど」
和泉は気丈にもニヤリと笑った。
かつての和泉のように。
「交渉決裂だ! お前の言うことには従わない。俺たちは実力でお前を倒して目的を果たす!」
俺はそう言うとガーベンに向かって走り出した。
ガーベンは再び槍を創り出し、俺に向かって投げてくる。
次から次へと飛んでくる槍は、ことごとく俺の目の前で方向を変えられはね飛ばされるか、俺の目の前で消滅した。
「そんな子供だましが通用するか!」
俺はそう言うと、ガーベンが持っている槍に力を込めた。
槍はいきなり破裂して、ガーベンの右腕が吹き飛んでいた。
「お前が和泉にやったことだ。お返しさせてもらうぜ」
ガーベンは瞬時に手を元に戻した。
もうさっきのように怒りに身を任せることはなく、持っているすべての槍や武器を地面に落とした。
「やはり同じ能力者同士の戦いでは、埒があかないか」
そう言うと、俺を見据えた。
「こい! ここからは武器や鎧はなしだ。互いの力を出し切って勝負を決めよう」
「そういうことになるよな」
俺はガーベンに対峙した。




