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ナイトメアハザード  作者: せっさ 拓馬
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第53話 オペレーション・ドーン再開

いよいよ、その時が来た。

俺は身支度をして自分の個室を出た。

これから、少なくとも三日間はここへ戻ることはない。

食事もトイレも済ませた。

後は憂いなく決戦の場へと向かうだけだ。


俺は睡眠観察室へと入室した。

すでに中には俺のケアをしてくれる看護婦さんが待っていた。


「今日もお願いします」


俺がそう言うと、看護婦さんは「任せておいて」と笑顔で答えた。

手際よく服を全部脱ぐ。

今更裸を見られても恥ずかしいと言える立場でないし。


「いつも思うけど、オムツ穿いてきてくれるのは助かるわ~。他の人だと恥ずかしがってもめる人もいるのに」

「俺の場合は毎日のことだから・・・。気持ちは分かるけどな」


看護婦さんは「結構、結構」と言って、俺の体に電気コードの付いたパッチを張り付けていった。


「今日が最後らしいわね」

「はい」

「大丈夫、きっとうまく行くわ。成功を祈っているわよ。私もここで世話しながら応援しているからね」


看護婦さんはそう言うと、俺に睡眠薬を渡した。

俺はすんなり寝られる体質だから、ベッドに横になったら五分で眠れる自信がある。

和泉は寝るだけでも大変らしく、いつも麻酔して強制的に眠らされていると聞いた。


和泉、どうしてるんだろう。

俺はそんなことを考えながら、眠りに付いていった。


俺たちの夢はすべてモニタリングされ、その状況は一括して地下の作戦センターに集められている。

各人寝ている夢は脳波を同調させられ、出雲愛の夢に一致させられることにより、同一の夢に収束させられる。

本来ならこのようなことは不可能だが、それを可能にしているのが、愛ちゃんの能力である。

全員の夢をまとめて、夢幻界へと移転させるのだ。

その後は船の夢、カプリース号になってみんなを運ぶ。

まさに運び手・キャリアーと呼ばれるゆえんだ。



俺が目覚めたときには船の中にいた。

すでに神有月さん、日向も指定席に座っていた。


「神有月さん、今日もよろしくお願いします」


俺の方から彼女に挨拶に行った。

神有月さんは「こちらこそ」と微笑んで軽く礼をした。


いいよなあ、年上の美人未亡人。

こんないい人なら、もっと早めに知っておけばよかった。

俺がそんな下心のある感想を思い浮かべていると、いきなり上のスクリーンに愛ちゃんの顔が大写しになった。


「おかえり~」


愛ちゃんが声をかけてくる。


「ただいまって、ここは家じゃないだろ」

「でも、愛のいるところだからね。おかえりだよ」

「今日も頼むよ」

「うん!」


愛ちゃんはそう言うと、スクリーンに自分の全体像を写して、周りを見回している。


日向も声をかけてきた。


「まあ、その、なんだ。今日が泣いても笑っても最後だな」

「ああ、戦闘は任せた」


俺がそう言うと日向がジトッとした目で見た。


「俺だけに任せてないで、武蔵も活躍してくれよ」

「言われなくとも」

「にぃ~」

「おっ、メグもいるな。今日もレーダー役頼むぞ」


メグの頭をなでた。

嬉しそうに身体をすり付けてくる。


後は・・・・・・。

俺は和泉の席を見た。

まだ、来ていないようだ。

もっとも和泉は寝付きが悪いせいで、最後辺りに来ることも多い。


「まだ、来てないよな」


俺の言葉に日向も心配そうに席を見つめた。


「大丈夫、お姉ちゃんなら必ず来るよ」


スクリーンの愛ちゃんが会話に加わった。


「ホントか? 脳波反応あったか?」

「・・・まだないけど。でも、お姉ちゃんいつも大事なときには来てくれたから。今日は必ず来る」


愛ちゃんがそう言ったすぐ後に、台所に霧が舞った。

霧は次第に人の姿を取り、和泉が黙ってそこに立っていた。


「和泉!」

「和泉さん!」


俺たちが声をかけても、和泉は目を伏せて自分の席に崩れるように座った。


「おかえり」


俺もつい愛ちゃんみたいに声をかけてしまった。

さっき家じゃないだろって、つっこんだばかりなのに。


「大丈夫ですか? 和泉さん」


心配そうに日向が声をかける。

久しぶりに俺たちを見ても、和泉はあまり反応がなく無表情な顔でうつむいていた。


心配げに俺たちは、和泉を見守った。

どう声をかけていいか悩んだが、変なことを言ってもますます意気地になる気もする。

とりあえず、俺たちは和泉が来たことだけを素直に喜んだ。


「では、全員そろったところで、作戦を確認する」


頭の中に声が響いてきた。

大隅教授が作戦センターから直接脳に声を届けているのだ。

これが出来るのは俺たちが眠りの浅いレム睡眠時にシントニーにいる時だけだ。


「今回の目的は敵の首領を見つけだし、ナイトメアハザードを中止させることだ。おそらく首領はこの原因を知っていると思われる。隊員は首領と対峙してナイトメアハザード中断を説得してほしい。説得が無理な場合は強制的にあらゆる手段を用い、状況を打破してほしい」

「了解」


和泉以外のすべての隊員が答えた。


「皆も知っていると思うが、作戦時間は三日間、72時間だ。これを過ぎると理由のいかんを問わず失敗と見なし、強制起床させる。それまでに何とか任務を達成してほしい。なお、作戦時間は出雲愛の夢を通して随時表示させる」


そう言うなり、カプリース号のスクリーン下部に左から順に時間:分:秒:百分の一秒が表示された。

右端の百分の一秒表示が勢いよく流れていき、一秒ごとに数字が削られていく。


「前回同様、諸君らの実力を遺憾なく発揮し、全力を持って事に当たってくれ。成功を祈る」


そう言うと、声は切れた。

愛ちゃんが代わりに説明する。


「そろそろ眠りが変わるよ。これから夢幻界に入れるようになるから」

「愛、それじゃ念物『泥の海』に向かって進んで」


神有月さんが席から指示する。

かつては都リーダーの役割だった。

今では神有月さんが代わりに愛ちゃんに指示を出している。


「りょ~かい。今から夢幻界の中にはいるよ」


愛ちゃんはそう言うと、パネル表示を外に切り替える。

すでに夢幻界の入り口の部分で、次第にいつものように薄紅色の空、白い霧の雲が見え始めた。

後ろは丸い雲になっている。


探索はいつもこのシントニーからスタートして、高速で目的地まで移動する。

目的の念物までたどり着くと、そこからじょじょに範囲を広げていく。

まずは以前戦った『泥の海』を中心に検索することにしていた。

あそこに夢魔の本拠地があったのだから、何かの手がかりがあるはずだ。


『ケッペルの門』を越えると、カプリース号は本格的に夢幻界の外洋へと出航する。

カプリース号は全速力で目的地へと向かった。


景色が勢いよく流れ、霧や粘着物が船に当たってはじけると、銀色の細かい結晶状になって飛び去っていく。

七色の光輝くダストが飛行機雲のように、カプリース号の飛行跡を残していった。


航海は何事もなかった。

夢魔たちの姿は全く見えない。


「やっぱ、泥の海が夢魔を生み出していたってのは、本当だったんだなァ」


日向がようやく実感して声をもらした。


「今までの夢魔の襲撃がうそのような静けさだ」


俺もそう感想を付け加えた。


「愛ちゃん、何か変なものとかないか?」


俺がそうたずねると、愛ちゃんの首を傾げている姿がスクリーンに写った。


「うーん、何も見えないよぉ。もう少ししたら前に行った泥のねんぶつがあるけど・・・」


愛ちゃんは周りをキョロキョロしながら言った。


「俺、とりあえず甲板で警備してるよ」


そう言って外に行こうとしたときだった。


「ダメッ!」


突然、和泉が大声を上げた。

みんなが驚いて和泉の方を向いた。


「みんな、またあの泥の所へ行く気なの?」

「そりゃ、あそこに行かないと手がかりが見つからないだろ?」

「でも、あそこは夢魔がいたところだよ。戦いになるかも」


和泉は真剣な顔で訴えた。


「でも、夢魔を見つけないと、ナイトメアハザードが終わらないんだぞ。もう時間がないんだ」

「・・・・・・勝てると思う?」


和泉の問いにみんなが固まった。


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