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ナイトメアハザード  作者: せっさ 拓馬
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第52話 日向の思い

「皆も聞いていると思うが、いよいよナイトメアハザード犠牲者電源失効まであと四日に迫った」


講堂の教壇に立った大隅教授が、マイクで集まった隊員たちに呼びかけた。

大隅教授はあまり表舞台に立ちたくないからと言う理由で、演説は都リーダーがすることが多かった。

もう、そんなことは言ってられないだろうけど。

俺は都リーダーが説明をユーモアと愛嬌たっぷりに俺たち隊員に行っていた姿が思い起こされて唇をかみしめた。


そんな俺の感傷とは関係なく、淡々と事実が読み上げられていた。


「政府筋からの情報で、電源失効後に大規模な反対運動が日本中で引き起こされる可能性が極めて高いという報告が入っている」


「やばいんじゃないのかァ。町中が暴動騒ぎになるってのは」


日向がぼそりとつぶやいた。


「しかも、これに乗じて央華帝国が動くという兆しが見られる。すでに州合国の人工衛星から、基地に多くの艦隊が配備されているとの証拠写真も得られている。これらのことから日本国内で暴動が引き起こされた場合、彼らの進軍という事態も予想されるのだ」


「じゃあ、日本国内の暴動を機に侵攻もありうる、と?」


他の隊員の言葉に今まで感情を表に見せなかった教授の顔が少しゆがんだ。


「そうなる可能性は大いに考えられる」


隊員たちからどよめきとささやき声が漏れる。

大隅教授は事実を述べるだけなので、あまり演説には向いていない。

どう見ても士気が落ちている。


これじゃ、ダメだ。

戦う前から隊員たちが落ち込んでいるのでは意味がない。

これじゃ、都リーダーの思いは伝わらない。


俺はざわめいている隊員たちに向かって大声を上げた。


「みんな、聞いてくれ!」


俺の声に隊員たちが注目した。


「ドリームリンカーだ」「あいつかよ」などの声が聞こえてくる。

この際だ。

このあだ名を十二分に利用させてもらおう。


「大隅教授、状況はよくわかりました。困難なことはみんな十分承知しています。それでもここで引き下がるわけにはいかない、そうじゃないですか?」


大隅教授は俺の突然の飛び入りに驚いた表情を浮かべた。


「無論だ。ここで終わりにするつもりはない」

「せっかくドリームリンカーとして覚醒したのに、このまま終わりじゃやりきれません。その気持ちは俺も、いやすべての隊員たちにとっても同じです」


俺はそう大声で言った。

あたりのざわめきは収まり、沈黙が講堂内に広がっていった。


おい、黙らないでくれ。

みんな、そう思ってないのか?

これって俺の独りよがりなのか?

『笛吹けど踊らず』を実践してしまったのか?

俺は狼狽するのを必死でこらえていた。


そのときだった。

パチパチと拍手が起こった。

神在月さんだ。

俺のほうを向いて、手を叩いていた。


日向も手を打った。

続いてイヨカンが、愛ちゃんが、俺に向かって拍手をしてくれた。


それから、パラパラと拍手の音が響き始め、ついに講堂全体にこだまするぐらいの拍手の渦となっていた。


「ありがとう。ありがとう、みんな」


俺は思わず声が上ずった。

俺だけじゃなかった。

みんな、このままあきらめるつもりはないと思っているのだ。


「大隅教授、都リーダーの作戦の続きを行いましょう!」


俺の声に大隅教授は大きくうなずいた。


「もちろんだとも。これより作戦の続行を宣言する。そして、今度こそナイトメアハザードを終わらせる」


淡々としたものだったが、大隅教授の言葉はすべての隊員を奮い立たせるには十分だった。


「具体的指示については追って知らせる。諸君等の成功を祈る」


教授はそう告げると一礼して立ち去っていった。



「さっきは助かったよ。ありがとう」


俺は仲間たちに礼を言った。


「俺も同じだからな。このまま終わってたまるか!」

「愛もがんばるよ」

「このままなんていやだもんね!」

「武蔵さん、これが最後のチャンスです」


仲間たちの励ましの言葉を受け、俺は照れた。


「それはそうと、やれやれ、さらなるプレッシャーだけかけて行きやがって。俺たちの失敗は犠牲者の死だけでなく、日本の混乱と隣国の侵攻まで引き起こすってことかよォ」


日向がこっそりと俺に向かって話しかけた。


「責任重大だな」

「まさに最後の決戦の舞台にふさわしくなったというわけか。ロープレのラスボス戦の前の気分だ」


ゲーマー気質の日向らしい台詞だ。


「困難を乗りこえて、勝利ってのが話の定番だよな」


俺は日向のノリの良さを少しでも預かりたいと思い、軽口を叩いた。


「困難があればあるだけ、燃えるってもんだな。まあ、実際はこんな状況なんか御免被りたかったけど、なっちまったものは仕方がないよなァ」


日向はそう言うと、ふーとため息をついた。


「とにかくやってみるしかありませんね」


神在月さんが穏やかな声で発言した。


都リーダーがいなくなってから、神在月さんがよくしゃべるようになった。

俺たちを少しでも勇気づけたいということだろうか?

俺には神在月さんが敢えて代わりを演じてくれているように思えた。


「そうそう、愛も手伝うから。なんとかなるって」


愛ちゃんも神在月さんの側で元気づけてくれる。

そんな愛ちゃんの頭を神在月さんがよしよしとなでている。


俺は周りを見回して和泉を探したが、姿を見つけることは出来なかった。


「和泉さんならまだ部屋から姿を見せないらしい。当日には顔を見せるって言ってる」


日向が俺がきょろきょろしているのを見て、残念そうにつぶやいた。


和泉はそのまま姿を見せず、この日の集会は終了になった。

俺が会議室を離れようとすると、日向が近寄ってきた。


「ちょっと話があるんだが、いいかな?」

と言うので、食堂までつきあうことになった。


俺がコーヒーアメリカンでミルク砂糖付き、日向がフレンチフライとジンジャーエールを頼んだ。

お互いに向かい合うように座る。

注文した品が運ばれてくると、日向はテーブルの真ん中にフライを置き、俺にも勧めてきた。

俺も言葉に甘えて数本食べていると、日向はドリンクを半分ほど一気に飲んで俺の方を改めて見た。


「話っのは、他でもない。和泉さんについてどう思う?」

「ゲゴホッ!」


いきなりの直球に俺は食べていたフライが気管に入りそうになった。

あわててむせる。


「どうって、いきなり言われてもな・・・・・・、日向こそ、どう思っているんだ?」


質問を質問で返すのは、あんまりいい行為とは言えないが、日向の意図が読めず、俺は逆に聞き返した。


「俺は和泉さんを助けたい」


真剣な表情で俺に向かって言った。

日向は俺よりもはるかに長く和泉と行動を共にしている。

その点では、俺よりも思うところがあるんだろう。

俺は和泉の過去の活動内容のことは全く知らされていないから分からないが、訓練生時代から和泉と日向は協力していたのだろう。


「和泉さんは武蔵と会ってから少し変わったんだ。以前は弱みなんか見せる人じゃなかったよ。常に自分が前に出て、みんなを率いるリーダーみたいな役割を演じていた」

「今でもそうじゃないのか?」


和泉の自信ありげに腰に手を当てて俺に注意する姿が、第一印象で刷り込まれているぐらいだ。


「和泉さんは昔はもっとのんびりした人だったらしいよ。学校ではいつもぽ~としていたらしいって」


うーーん。全然想像がつかない。


「誰がそんなこと言ってたんだよ?」

「和泉さん本人さ」


自称はあてにならないと思うが・・・。


「和泉さんはいっぱいいっぱいの中でやっている。端から見ても無理しているのが分かったけど、ああいう性格だから言えないし、言ったらムキになるだけだったんだ。それが武蔵が来ることで変わってきた。以前よりも肩の荷を降ろしてるみたいに思えるんだよ」

「俺は別に何もしてないけど?」

「それでも、和泉さんにとっては、武蔵は肩肘張らなくてもいい人らしいんだ。なんかいつも怒ったり感情をぶつけているけど、自然に頼りにしているって言うか。・・・だから和泉さんをこれからも一緒に助けてほしい」


いつになく真剣な表情の日向が、俺に向かって頭を下げた。


「わかってるよ。俺だって和泉のことは頼れる仲間だし、かけがえのない戦友だと思っている。もちろん日向もな」


俺は改めてこんなことを言う照れくささを感じながら、それでも頼れる仲間に出会えてよかったと実感していた。


「そうだよな。いよいよ明日だ。明日からの三日間ですべてが決まる。俺たちのやれるだけのことをやろう。戦友」


日向の言葉に、俺は右手を掲げた。


日向も右手で俺の手を強く打った。


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