第42話 緊急招集再び
神在月さんの衝撃の発言から、数日が過ぎた。
あれ以来、俺は注意深く仲間の言葉や行動を観察するように心がけていた。
仲間たちの様子には全く変わりはない。
あんなこと言われなかったら、俺にしても全然気がつかないで、いつものように日々を過ごしていただろう。
俺たち特務部隊にもいろいろ変化があった。
第一に正式にメグが仲間に加わったことだ。
メグはカプリース号に乗ってから、みんなのマスコットとなっていた。
そのおかげで俺がみんなの様子をうかがっている態度が表に出ているかと不安だったのだが、そんな懸念を打ち消してくれるぐらい、船内は和気あいあいとした雰囲気に包まれていた。
メグは何か敵の気配らしきものを感じ取れるらしい。
急にフゥーと毛を逆立てる時があり、その後すぐにインプどもが襲ってきたりした。
能力者である信濃さんを差し置いて、反応することもあった。
面白がった和泉や日向が抱き上げて四方を向かせ、何か反応がないか確かめるようになっていった。
最初は何気なくやった行為だったが、その成功率の高さから、しだいにメグはみんなの中でネコレーダーみたいに扱われるようになった。
普段はおとなしく腕の中でちょこんと座っているが、ときおりフゥーと鳴くと、今では警戒態勢に入るぐらいに正確だと評判になっている。
そう言えば、イヨカンも普段から勘が鋭いって言ってたしな。
ネコになって警戒本能がより強く感じ取れるようになっているのかも。
都リーダーも半信半疑だったが、みんなの意見を尊重したのか、もう何も言わなかった。
第二に神在月さんも正式に特務部隊配属が決まったことだ。
激しくなる敵の攻撃に備えて特務部隊の底上げというのが名目だった。
都リーダー曰く、神在月さんが乗ると船の防御力が上げるから、何らかの能力を持っているのだろうということだった。
後で知ったのだが、念物『キッペルの門』でインプロードの攻撃を受けた時もこっそりと乗船していたらしい。
そのせいでカプリース号の損害が少なくなり、破壊を免れていたということだった。
みんなはこれでより戦力アップできると素直に喜んだ。
でも、俺にはむしろこの人が特務部隊へ正式に入るということは、より仲間への監視を厳しくするための手段としか思えなかった。
それから俺と神在月さんは、毎日連絡を取り合い大隅教授の指示を受けることになった。
今や仲間を信じられない俺にとっては、神在月さんと愛ちゃんだけが正直に物事を打ち明けられる存在となっていた。
みんなが新しい仲間の加入で勢いづいている中、俺も正直言ってこの中で盛り上がれたらどれほど気が楽だっただろうか。
そう思わずにはいられなかった。
愛ちゃんがあまり接触してこないのも、今となってはよくわかる。
愛ちゃんも神在月さんから話は聞いているらしく、俺に対してはいつものように気さくに話をしてきた。
だから、俺は一人になったとき、ことあるごとに愛ちゃんを呼んで、二人でいる時間を作るようにした。
仲間を信じたいのに信じられない、そんな愛ちゃんのジレンマが俺には痛いぐらいよくわかったから。
俺たち特務部隊の再編と同時に、ANHDは着々と準備を進めつつあった。
ウゴスの支配していた念物が消滅したことで、より広い範囲が観測できるようになった。
その間、調査部隊と斥候部隊は、周囲の観察と索敵を続けていた。
こちら側の前線が敵の陣営に近づいたこともあって、様々な情報が分かるようになっていた。
その努力がようやく実を結び、新たな敵の拠点らしきものを発見するに至った。
ウゴスのいた念物と敵の逃げる方向の延長させた先に、浮かぶ念物が見つかったのだ。
「状況から見て、ウゴスたち上級夢魔の拠点と考えられるわね」
報告を受けて腕を組んでいた都リーダーは、ただちに全隊員にむけて第二回目の緊急招集を行った。
翌日すべての隊員が時間を置きながら、次々とカプリース号の大視聴覚室にリンクアップさせられた。
特務部隊は例によって一番最後だった。
これはこの後作戦行動を控えているということだ。
「様々な調査の結果、我々ANHA隊員たちは、夢魔の発生源とされる場所を割り出しました」
作戦会議室と化した視聴覚室に、都リーダーの声が響いた。
集まった隊員の面々を見渡しながら、おもむろに告げた。
ちょっとしたどよめきと歓声が起こる。
今まで夢魔の拠点は不明とされていたから、これは快挙だ。
「いよいよ来るべき時が来たかってわけさ。で、どこにあるんですか?」
物事にあまり頓着のない日向でさえ、今回は興味津々だ。
「敵の拠点っていうからには、相当に警戒厳重なはずよ」
普段クールな和泉でさえ、ちょっと興奮気味だ。
俺よりも長くここにいる二人にとっては、敵の拠点発見は思い入れもひとしおなのだろう。
「すでに斥候部隊は敵の拠点で戦闘状態に入りました。その時の映像が記録されています。そちらに送信します」
オペレーターの声とともに、カプリース号のスクリーンに映像が写し出された。
投影された物体を見て、乗組員は当惑した。
そこに写っていたのは、ちょっと予想外のものだった。
土の塊、それが俺がその映像を見たときの第一印象だった。
ところどころ凹凸がある、単なる泥の集まりが丸くなっているものにしか見えない。
敵の拠点というからには、SF映画に出てくるような大宇宙要塞とかメカニック満載の戦艦クラスとかを予想していたのだが、なんだこのしょぼい姿は?!
そう思ったのは、二人も同じらしく、ちょっと拍子抜けた表情を浮かべている。
「ホントに、これ、なんですか?」
「おいおい、マジかよォ? 何の変哲もない泥の塊じゃないか?」
都リーダーは困惑した表情など微塵も見せず、みんなを前に解説し始めた。
「間違いありません。先行した調査隊がここから夢魔が飛んでいくところを確認してます」
「だとしても、敵はどこにいるんですか?」
俺は思わず聞いてしまった。
「疑問に思うのも無理ありません。そこでこの念物を拡大投影した映像が入っています。その中で怪しいと思われる所を発見しました」
都リーダーは泥の塊の中央より左下あたりの所を軽くタップした。
その地域が四角く切り出されて画面いっぱいに広がった。
そこの一画に丸く見えるものがある。
さらにそこを指で触れると、丸い物体が明らかになった。
「卵なの?」
和泉が言うように、鶏の卵の巨大版のようだ。
ただ、ちょっと違うのは色は赤茶けていて、殻はない。
代わりに表面が丈夫な筋肉のように弾力がありそうに見える。
それよりも気になるのは、卵全体に触手らしきツタが絡み付いていることだった。
網の中に入っている一個のミカンを思い起こされる光景だ。
「ツタに絡まった卵っていったところかしら?」
神在月さんが和泉と同じような感想をもらす。
「これが念物の中心核と思われます」
都リーダーの演説が続いた。
「これが、ですか?」
俺は反射的に問い返していた。
ちょっと妙だと思い、そのまま質問する。
「核だったら、中心にあるはずじゃないですか? それが今回はなんでこんな目立つ表面なんかにあるんですか?」
俺の質問に都リーダーも頷いた。
「私もそう思います。でも、この周りから夢魔が湧き出したと報告にはあります。夢魔の発生源であることは間違いありません」
「夢魔が出てくるときだけ、上に出てくる・・・とか?」
和泉が首を傾げながら、不安げに言った。
「映像はこれで終わりです。斥候部隊は敵からの攻撃を受け、退却しました」
「ここから先は、直接行って見てみないと分からないってことか」
俺はじっと画面を見続けた。
都リーダーはまた隊員みんなの顔を見た。
全員の顔をつぎつぎ見て、見終わると全体を見渡すように視線の位置を変えた。
「今の地点では分かるのはこれだけです。今回の任務はこの敵の拠点である念物に上陸して、夢魔の発生を止めること。おそらく厳しい任務になると予想されます」
「厳しくないミッションなんてあったかしら?」
和泉が腕を組んで、相変わらずの厳しい突っ込みだ。
「違いないさ。だから、やるだけのことをやる、それだけだろ」
日向もすでに真剣な顔になっていた。
「今回の作戦はこれまでの戦線の流れを変える重要なものとなるでしょう。この拠点を無力化できれば、敵の大きな戦力ダウンとなります。さらに上級夢魔を捕縛できれば、ナイトメアハザード事件解決に大きな一歩となることは間違いありません。よって今回の作戦にはコードネームをつけることにします。作戦名は……」
都リーダーは一息ここで置いた。
みんなの視線が集まる。
「作戦名は『オペレーション・ドーン』。『夜明け』を意味します。ここで今まで守勢に回ってきた私たちが、一気に攻勢に打って出ます。そのための切り札もすでに用意されています。武蔵尊くんです」
いきなり俺の名が読み上げられて、俺は息をのんだ。
都リーダー、何でここで俺の名を出すの?
俺だけじゃない、和泉も日向も驚いてこっちを見ている。
「武蔵君は私たちANHDが待ち望んでいた能力者『ドリームリンカー』であるということが、判明しました。これまでもその能力を生かし、戦ってくれましたが、今回正式にこれを認め、特務部隊の筆頭としてその役割を務めてもらえるものと確信しています。これで戦力的にも決して劣るということはないと、私は確信しました。隊員の皆さん、今回の戦いに勝ち、ナイトメアハザードの悪夢からの夜明けを迎えるように、これまで以上の奮起を期待します」
都リーダーの高揚演説で、会議は最高潮に達した。
多くの人たちの歓声と声援を受け、「よーし、やるぞ」とか「ここで逆転だ」とかの声が聞こえてくる。
「おい、すごいな!」
日向が肩を叩いた。
「『ドリームリンカー』って言ったら、思ったことを自由自在に創造できるって言われている最強の能力者だろ。伝説か噂だと思っていたけどな。まさか武蔵がそうだとはな」
「本当なの? これって?」
和泉も半信半疑で俺を見ている。
「ま、まあ、俺には分からないけどな。勝手に都リーダーがそう言っているだけで……」
そう言って俺はお茶を濁した。
信濃さん、神在月さんは予想していたのか、あまり驚いたそぶりは見せていない。
それにしてもここでこの話をするって、あらかじめ言ってくれないと、心の準備ってのがあるんだが……。
俺は周りから期待と疑惑の視線を受けつつ、早くここから帰りたい気持ちになっていた。




