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ナイトメアハザード  作者: せっさ 拓馬
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第40話 密航者

やっと要望がとどいたのか、俺が待機していた個室はさらに広くなっており、ベッドはダブルサイズに交換されていた。

以前小さいと言ったから改善してくれたのはいいとして、布団カバーはハートマーク付きのかなり痛た恥ずかしいものにパワーアップされている。

さらに犬やネコ、タヌキにフェレットのぬいぐるみの数が以前より二倍増しだった。

そんなものまでサービスしなくていいのに。


俺は部屋の窓際に立った。

何気なく外を見てみる。

もう夢幻界から出て、シントニーに戻ってきていた。

薄紅色の空は暗く変わり、何も見えない。

俺は船の方に視線を移した。


あれ?

下の船室の方で何か動いている。

人影か? 

そう言えば下の部分にはまだ行ったことなかったよな。

何かあるのだろうか?


俺は気になって、注意深く観察しようとしたが、その覗いているガラス窓にいきなり愛ちゃんのアップ顔が写った。


「おわわわわゎ!」


俺は思わず仰け反って、そのまま床に腰を抜かしてしまった。


「ねえねえ、何見てたの?」


そのままガラス画面から、にゅ~と出てくる愛ちゃん。

ホラー映画ですか、あんたは。

テレビから出てくる人に襲われた心境がよく分かった。


ショックでどきどきした心臓を抑えている間に、愛ちゃんは目の前にパジャマ姿で実体化して立っていた。

両手を膝に、前屈みで俺を見つめている。


「どう? 面白かったでしょ?」 

「びっくりしたよ! もうこんな登場の仕方はしないでくれ!」

「そう? 今はやりの妖怪みたいで面白いと思ったのに」


愛ちゃんはしてやったりの満面の笑みだ。

あの楽しそうな笑顔を見てると少しは怒りが治まってはきたが、もう一つ言っておかなければいけないことがある。


「愛ちゃん、この部屋はなんとかならないのか?」

「えっ? 気に入らなかった? 大きい部屋がいいって言うからサイズを大きくしたよ」


愛ちゃんは不思議そうにたずねてきた。 


「いや、そうじゃなくて、ベッドの模様が」

「うん。かわいいでしょ。ネットでいいのがないか見て、このハートマークにしたんだ。まずかった?」

「いや、まあ、その。少し派手すぎるし・・・」


俺が困ったように言うと、愛ちゃんはしゅんとうなだれた。


「ゴメンね。喜んでくれるかなって思って・・・」

「あーっ、いやいや。別に悪いっていってる訳じゃないぞ。ただ、ちょっと、もうちょっと地味な方がいいかと」


俺はあわてて言い換えた。


「うーん、お兄ちゃんは地味な方が好きなのかあ。覚えておこ」


愛ちゃんはぶつぶつ言いながら、布団の上にちょこんと座っていた。


「でも、今から変えると、また部屋を一から作り直さないといけないから・・・」

「わ、わかったよ。今日はこのままでいいから」


俺がそう言うと愛ちゃんは、お兄ちゃん、今度はもっといいのを作るからねと気合いの入った顔で宣言されてしまった。

うつ伏せになって、素足をぱたぱたと前後に動かしている。


「それはそうと、愛ちゃん。どうしてパジャマ姿なんだ?」

「えっ、前に寝坊して遅刻したから起こすって約束したじゃない」


そう言えば、そんなこと言っていたような。

まだ覚醒前のことだから、きれいに忘れていたぞ。


「だから、愛が起きるときに一緒に起こそうと思って」

「起こすって、まさかここで寝るのかよ?」

「うん、そうだよ。じゃ、お休みなさい」

「ちょ、ちょっと、愛ちゃん!」


そう言うと、眠たいのを我慢していたのか、すでに愛ちゃんは眠っていた。



俺は呆れてため息をもらした。

やれやれ、いそがしいよな。

俺は愛ちゃんにハートマークの布団をかぶせた。

すやすや眠っている愛ちゃんの横顔を見た。

なんか小動物みたいで、見てるだけで癒されるよな。


俺がのんきにそんな事を思ったときだった。

体の自由が利かなくなって、次第に鈍くなってきた。

なんか、意識がぼんやりしてくる。


あれっ、急に体が重くなって・・・。

思考がままならないまま、俺はなんとか知恵を振り絞る。

そうか、愛ちゃんの夢に同調しているから、俺もその影響が出ているんだ。

俺はそのままベッドに突っ伏して眠ってしまった。



ふと気がつくと、俺と愛ちゃんは同じベッドで眠っていた。

愛ちゃんはまだ完全に熟睡中だ。

いくら何でも、男女が同じベッドで寝てるのはちょっとまずい。

起こさないように静かにベッドから出て、俺は部屋をこっそり出た。

出る間際に愛ちゃんがうう~んと寝返りをうつ音が聞こえてきた。


俺はカプリース号の下の区画に入ってみた。

授業の時は後方に視聴覚室があるため、ここで隊員が集まることが多い。

前方は操縦室兼台所だ。

真ん中は個室になっているが大半は空き部屋だったはず。

和泉か日向でもいるんだったら、今のうちに会っておいた方がいいなとも思った俺は、下の方へ向かった。


カプリース号下部は薄暗く、船室というよりは荷物置き場のようだ。

俺はさっき人影があった部屋あたりを覗いてみた。


やっぱり誰か居る。

変な気配があり、動いているのだ。


「誰か居るのか?」


俺はたずねたが、返事は帰ってこなかった。


おかしい。

和泉や日向、都リーダーなら間違いなく返事するはずだ。

俺は一瞬ためらったが、思い切ってドアを開けた。


ドアの中には一人の女性が驚いた表情を浮かべて俺を見た。

俺もかなり驚いた表情をしていたのだと思う。

しばらくあっけにとられて目の前の女性を見ていたからだ。


「あなたは武蔵さんですね?」


女性の方から声をかけてきた。

この人は俺を知っているらしい。


いや、俺も確かどっかで見たことがあるような。

・・・・・・そうだ、前の緊急集合の時だ。

あのときの胸の大きな人だ。

和泉と日向に冷やかされた時のことを思い出した。


俺は改めて女性を見た。

よくよく見ると、知っている人のような印象を受けるんだが、何か違うような感じもする。

年の頃は20歳後半から30歳ぐらいか。

落ち着いた大人の女性のようだ。

俺を見ても驚いているみたいだが、逃げ出したり取り乱したりはしていない。

むしろ俺を観察しているかのような素振りだった。


「私は『神在月(かみありづき) 静(しず)』と申します。この船の乗組員です。あなたと直接会うのは初めてですよね」


俺も自己紹介をした。

すでに知っているみたいだけど、何もしないのは変だと思ったからだ。


「ところで武蔵さん。一つお願いがあるのですが?」

「な、何でしょうか?」

「私が今この船に乗っていることを誰にも言わないで欲しいのです」


俺はちょっと呆気に取られた。

乗組員と自分から言っているのに、他人に自分が乗っていることを知られたくない。

それってどういう意味なのだろう?


「あの? あなたはこの船の乗組員だと自分から言ったはずですよね。それなのになぜ乗っていることが知られるのがまずいのですか?」

「当然ですよね。ですが、今の私には他の人に自分が知られてはまずいわけがあるのです。お願いです。今日は何も言わずに私を見逃してください」

「あの、俺には訳が分かりません。どうしてですか? せめて都リーダーに報告するのはダメなのですか?」

「都リーダーでもです。私がここにいることは本来なら知られてはいけないことなんです。お願いします」


怪しい。

どう見たって変だ。

自分から乗組員と言いながら、他人に乗っていることを知らせないで欲しいと言うことからして、怪しさが爆発している。

まるで密航者じゃないか。


俺はどうすべきか迷った、が、このままほっておくこともできない。


「俺にはあなたの指示に従うことは規則違反になってしまいます。すみませんが、報告させていただきます」


俺がそう告げると、神在月さんの表情がこわばった。


「どうしてもダメなのですか?」

「すみません」


俺がそう言うと神在月さんはナイフを取り出した。


「無茶な手段を取りたくありません。お願いします」


俺は凶器を見てひるんだ。

いくら夢でも当たりどころが悪ければ死んでしまう。

俺はあわてて逃げ出そうとした。


「すみませんが、あなたには一時的に眠ってもらいます」


神在月さんはそう言うと、ナイフを投げつけた。

ナイフは俺の右足の太ももに命中した。

鋭い痛みともに俺は刺さったところを見た。

急所ではないから死ぬことはないと思う。

だが、急激に意識が失われていく。


「ごめんなさい、武蔵さん。あなたはこのことは覚えていないはずです。次に会うときはもっと素晴らしい出会いになればいいですね」


神在月さんは俺に向かって深く頭を下げた。

そのまま、俺の目の前は白い光で包まれていった。



俺が目を覚ましたのは、睡眠観察室の個人部屋だった。

どうやら強制リンクアウトされたのだ。


だが、変だ。

あのとき神在月さんは、『このことを覚えていない』と言った。

だが、俺はさっきまでの出来事を覚えている。

刺されて強制リンクアウトされたことまでしっかりと。

つまり、俺に施された処置が働いていないということなのだろう。


周りを見回すと横にいるはずの医者たちの姿が見えない。

どうやら体調管理だけでなく、俺の監視の意味合いもあるんだろうから、異常を知らせに行ったに違いない。


ええい、ままよ。

何らかの反応があるはずだ。

まさか、秘密を守るために口封じに危害を加えることまではしないだろう。

俺がそんな事を考えていると、しばらくして俺の病室をノックする音が聞こえた。

「どうぞ」と言って促す。


俺が予想したとおり、そこにいたのは夢に出てきた神在月さんだったが、もう一人予想外の人物がいた。

愛ちゃんだ。

二人が並んで部屋に入ってきたのには驚いた。


「武蔵さん、本当にすみませんでした」


神在月さんは夢の中同様、深々と頭を下げた。


「お兄ちゃん、愛が悪かったの。お願い、許してあげて」

「なんで、愛ちゃんまで謝るんだよ?」


愛ちゃんは困った表情で、俺と神在月さんを交互に見た。


「いいのよ、愛。もうこれ以上隠すことはできないわ。洗いざらい話した上で判断してもらいましょう」


神在月さんはそう言うと、俺の方を向いた。


「少し長い話になります。容態は大丈夫ですか?」


俺はとりあえず時間を開けてから、自分の部屋で話をする旨を伝えた。



食事など用意を終えてから、俺は改めて神在月さんが来るのを待った。

再び扉がノックされ、神在月さんと愛ちゃんが来た。

だが、今回はさらにもう一人ゲストが来た。

なんと、大隅教授その人だ。


日本人離れした長い鷲鼻を持ち、けわしい表情を浮かべている。

背広姿で直立不動の姿勢は、いつものレクチャーの時の姿と変わることはなかった。


しかし、この人まで出てくるとは。

俺は正直言って今回の一件が相当厄介なことだと改めて気づいた。


「武蔵君。今回のことだが、少し秘密裏にしておかないといけない事情がある。よって、臨時ダイヴで話を行いたい。かまわないかな?」


話を夢幻界でしたいというのは、かなり深刻なことだ。

俺はただうなずいた。


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