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ナイトメアハザード  作者: せっさ 拓馬
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第35話 核の魔物

俺たちはどこへ繋がるか分からない通路を延々と歩き回った。

まるで敵のでないループダンジョンを攻略しているような錯覚に陥る。

道は変に曲がりくねったかと思えば、上に登ったり下に降りたりして、いくつもの分かれ道や十字路を通る羽目になった。


同じ道を通っているのかとも思ったが、横で通路のマッピングを担当していた和泉が言うには、次第に下の中央部、人型念物の文字通り心臓の部分へ向かっているらしい。


しだいに道は広くなり始めた。

初めて入ったときは人二人分の広さの通路が、今では五人以上が並んで歩けるようになっていた。

それに伴って天井も高くなり、鍾乳石のつららが垂れ下がっていたのが、遙か上に見えるようになっている。


俺たちは一度休憩を取ることにした。

通路の端に目立たないように腰を下ろす。

夢幻界では食べたり飲んだりする必要はない。

なぜなら、空腹を感じても、おなかが一杯になるイメージを思い浮かべれば、それだけで腹が満たされるからだ。

効率がいいような、食べ物を食べる楽しみがなくて残念なような。


それは疲労についても同じで、疲れているからといって休んでも、十分休んだとイメージできれば疲れは取れているのだ。

本当の自分の体は夢を見ながらベッドに横たわっているのだから、疲れることはないはずなのだが、長時間の緊張を要求される行動は夢の中といえど、かなりストレスになっているのかもしれない。


俺がそんなことを思いながらぼんやり過ごしていると、信濃さんが「ちょっといいかな」と全員を見ながら話し出した。


「おそらく、もう少し進めば、何かしら見つかると思う」

「カンですか?」と日向。

「いや、大分中心にきたと思ってな。和泉さん、中で場所を検索していたはずだよな。ここはどこにあたる?」

「はい、人間で言えばこのあたりは心臓の裏側あたりになります」

「この生物がどういう体の構造をしているのかは解らんが、このあたりが中心部近くというのは間違いない。その証拠に道がこんなに広くなった」


信濃さんは黄土色タイル張りの床を示しながら言った。


「気になるのはこの念物には、何があるのかはっきりしないことだ。一番奥には、念物を形作る念の根元となったモノ、言わば中心核があると言われている」

「中心核? それはどんなものなのですか?」


和泉が不思議そうにたずねた。


「一概に言えない。形が念物によって違うように、その核も異なるからな。だが、中心核を破壊してしまえば念物は機能を失う。問題はこの念物がどういう理由で念物になったということだ」

「理由って、それは作った人じゃないと分からないのでは?」


和泉の問いに信濃さんはうなずく。


「それはそうだが、悪意のある理由なら厄介だ。夢魔同様に襲いかかって来かねない。もっとも夢魔も襲われるだろうから、そんな念物を根城にするのは危険かもしれないが」


そう言うと信濃さんは考えを打ち消すように両手を振った。


「とにかく考え始めたらきりがない。その時になって対処しよう。では、そろそろ行くか」


俺たちはおもむろに立ち上がり、広くなった道を歩き始めた。



信濃さんの予想通り、数分もしないうちに道は大きな空洞へとつながっていた。

四階ぐらいのビルの吹き抜けを思い起こさせるような高い空間があり、二十メーターぐらいの広間になっている。

側面の壁には異形の魔物のレリーフが彫り込まれている。

床にはびっしりタイルが張られており、奥の方は突き当たりの同じ黄土色の壁になっていた。


壁の前は階段状になっており、その一番上に大理石の玉座が設置されていた。

その玉座のはるか上の壁には緑色の水晶玉が埋め込まれており、中の緑の部分は水でも入っているかのように揺らいでいた。

相撲取りでも十分余裕で座れる幅の王座には、一匹の夢魔の姿をした石像が座っていた。


「あいつだ。ウゴスだ」


日向が憎々しげにつぶやいた。


日向の言葉に玉座の赤銅色の石像を凝視する。

石像に見えた夢魔は俺たちに気づくと首をゆっくりと動かした。

切られていたスイッチを入れたら作動した。

そんな動きだ。


尖った耳が立ち、

赤い目が俺たちを捉えた。

そのとたん、いきなり両手を水平に伸ばした。

俺たちは驚いて固まった。


「うげげげーーーーーーーっ」


という奇声を前と同じように上げた。

玉座から飛び上がり、十メートルほど離れた頭上から俺たちを見ている。

こいつは常に飛び上がって上から見下すのが、基本パターンになっているようだな。

文字通り上から目線で話をするというわけか。


ウゴスは空中で羽ばたきながら、挑発してきた。


「こんなとこまで、のこのこ出向いてくるとは、バカな奴らだ」


ウゴスはそう言うと信濃さんめがけて飛びかかってきた。

とっさに信濃さんが体をひねって地面に倒れ込む。

その上でウゴスの足の鉤爪が空を切った。


「奇襲か! この卑怯者め!」


日向が剣を鋭く振りかざした。

それを難なくウゴスは飛んでかわす。


「和泉」


俺が叫ぶと和泉が弓に矢をつがえると同時だった。

和泉の放った矢はウゴスの背に命中した。

ウゴスはバランスを失い、地面に叩きつけられた。


「やったぜ!」


日向の歓声に和泉は静かに返した。


「あれじゃ致命傷じゃないわ」


地面でもがいているウゴスに、和泉は弓を引き、頭に狙いを付けた。


「これは警告。次に攻撃してきたら容赦しないわ」


ウゴスに向かって厳かに宣言した。


「ぐげげげげげ・・・・・・」


ウゴスからうめき声が漏れる。


「少し油断した。お前らを本気で敵を見なす」


ウゴスはそう言うと、素早く身体を丸め、回転しながら離れた。

和泉が矢を放つが、胴に当たっただけで命に関わる怪我ではない。

ウゴスは飛び上がると、後ろの壁の緑の水晶玉の所にへばりついた。

鉤爪で水晶をつかみ取ると、下に向かって投げつけた。

地面に落ちた水晶玉はパチーンと四散し、中の緑色の液体が流れ出した。

みるみる間に液体が蒸発して緑の霧になった。

霧はしだいに形をとって、手足が緑の鋭い爪を持った骸骨霊体の姿になった。


「な、なんだこりゃあ!」


日向が驚いて退いた。


「こいつはこの念物の核だ。すべての生物に憎しみを持ち、生あるものすべてに襲いかかってくる邪悪な恨みを持った魔物の成れの果てだ。俺が来たときに封じ込められ、そのままお前たちが来たときの切り札としてとって置いたのだ」


ウゴスがうげげげと、また声を上げる。今度は嘲笑しているように聞こえた。


「こんなものぉーーーーっ!」


日向が剣で緑の霊体を切り裂いた。

しかし、切ったところだけが少し隙間ができただけで、すぐに元の形を取り戻した。


「も、戻りやがった!」


日向が剣を二度三度と振り回したが、霧が払われるだけで上に舞った霧は渦巻いて再び元の鉤爪を持った霊体に戻った。


「私がやるわ」


和泉は弓を引き絞り矢を放ったが、そのまま霊体の体を通り過ぎていく。

剣も弓も通用しない相手にさすがの和泉も呆然としている。


「うげげげげえぇぇぇーーーーーっ」


上空で愉快そうに声を上げているウゴスは、再び俺たちを見下ろしている。


「せいぜいこの霧の霊体と遊んでいるんだな。俺は上に報告しないといけないからな。なんせ監視者(ウォッチャー)の名前を与えられたものでな」


「監視者(ウォッチャー)だと?」


信濃さんが驚いた顔で聞いた。


「そうさ、それが俺の別名だ。言わばお前たちの観察するのが役目ってわけだ。あんまりおしゃべりしてると、よけいなことまで言って怒られそうだからこれぐらいにしてやる」


そうウゴスは言うと、羽ばたきながら上空へと飛んでいった。


「待ちやがれ!」


俺は叫んだが、すでにウゴスの姿は消えていた。


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