第33話 新型夢魔キマイラ
新型夢魔と言ってもやることは変わらない。
和泉は弓を引き絞って、矢を放っている。
眉間に突き刺さるとキマイラは頭をのけ反らせながら消え去っていく。
日向もキマイラこそ猿顔インプコウモリと戦っている。
大きさは小さいが胴体ごと切り裂いて霧に変えている。
俺にとってはついに実戦だ。
前やったように敵を倒すイメージを練り上げる。
拳で倒すには相手を勢いで圧倒して頭をぶち抜くしかない。
まずは近くのインプもどきが拳の雨を食らう姿を想像する。
うん、完了だ。
俺はインプロードにしたように、いきなりの拳の嵐を繰り出した。
顔から身体がひしゃげ、ボロくずのようになったところで、頭に頭上から拳を振り下ろした。そのまま頭が身体にめり込んだところで、インプの姿が消えていく。
なんとかうまくいっている。
俺は強くイメージを浮かべると、相手をそのまま同じ姿に出来ることに気づいた。
もっとも正確にイメージどおりに体を動かす必要があるが、それさえ集中力を途切れさせずに何とかすれば、インプ程度なら消せることに気づいた。
新型は日向と和泉に任し、俺は残りのインプどもを倒すことに集中した。
幸い同じ敵なのでイメージも同じことをリピートするだけでいい。
繰り返し頭に画像を流すことで同じタイプの敵は、拳の連打で消えていった。
まさに映像のコピー&ペイストだな。
十分もすれば、大半の夢魔が姿を消していた。
「グゲゲ、これで勝ったと思うなよ。これからが本番だ」
俺たちは単なるウゴスの負け惜しみだと思っていた。
新型夢魔キマイラもあっという間に半数以下で、十匹もいない。
言うほどすごくないじゃないかというのが、俺たちの正直な感想だった。
「俺の命令で動け、キマイラども。三体ずつ一人を狙え。そうすれば攻撃は当たる」
「ギギギーーーッ」
数が多いときは好き勝手襲いかかってきたので、一匹ずつ狙い撃ちにできたが今度はそうはいかない。
三匹ずつが協力して集中攻撃してきた。
「くそっ、一体集中攻撃はゲームでは禁止だろうが」
日向がいまいましげにグチった。
ここは夢幻界なんだから、敵さんにそんなルール通じるかよ。
俺はそう心の中で突っ込んでしまったが、確かに三匹を相手にするのは苦しい。
しかも、ウゴスは三体ずつなら指示できるらしい。
それぞれがうまいコンビネーションで俺たちを翻弄してくる。
さっそく和泉が短刀でかわしているが、うまく反撃できていない。
これがキマイラの強みか。
指示に従うぐらいの頭脳はあるから二体以上で協力しながら、集中して攻撃できる。
ウゴスが扱えるのは三体までだから、その数で一人を取り囲んでなぶり殺しにするという実に汚いが効率のいい方法だ。
だったら、俺の力を見せてやる。
俺は一体のキマイラを目につけた。
そいつの足を取るシーンをイメージする。
そのまま足からもって大回転。
周りのキマイラをなぎ倒し、和泉のそばにいるキマイラごと叩き付けてやる。
よし、イメージ完了。
後は実行に移すだけだ。
しゃがんでそのままスライディング。
キマイラが翻弄されて俺の姿を一瞬見失った。
その間に俺は敵の背後に回る。
すり抜けざまに右足を掴んだ。
いきなり足を持たれて、バランスを崩したキマイラが転倒する。
素早くキマイラの両足をつかんで、大きくジャイアントスイング。
たちまち周りにいた二匹がボーリングのピンと化し、そのままなぎ倒される。
和泉に棍棒を振りおろそうとしているキマイラ目がけて、スイングしている敵を投げ飛ばした。
そのまま二匹は派手に激突。
両方とも霧と化した。
和泉は体勢を整え、両手に持った短刀で目の前の敵を一閃した。
キマイラが瞬時に喉を掻っ切られて消滅する。
最後の一匹は逃げようとして、和泉からのとどめの一打で後ろから頸部を切られ、消え去った。
俺が和泉のほうを見ると、軽くウィンクしてくれた。
残るは日向だけだ。
「日向!」
俺は叫んで注意を向けた。
キマイラが俺のほうに注目する。
その隙を和泉は逃さなかった。
手にした和弓を引き絞り、矢を放った。
狙い違わず、キマイラの頭に深々と突き刺さり消滅していった。
俺もそばにいたキマイラに拳のマシンガン攻撃をプレゼントしてやった。
全身をぼこぼこにされたキマイラは、最後の俺の顔面パンチがさく裂して、輪郭が薄れ赤黒い霧になっていった。
日向の目の前にいた敵も、剣の一閃で胴体もろとも切られて消滅した。
「グゲゲゲゲゲェーーーーーーッ」
当てが外れたウゴスは驚きの悲鳴を上げた。
自らの不利を悟ったと見える。
後ろに向くと逃げ出した。
「逃がすかあっ!」
俺は追いかけようとしたが、頭上へ逃げてしまったウゴスはそのまま二時の方向へと飛び去って行った。
「都リーダー、敵夢魔が逃げました」
「こっちで監視しているわ」
スピーカーから声がした。
何とか三人で協力したから、新型夢魔キマイラを撃退することができた。
それにしても数体で連携されるだけで、これほどやっかいな敵になるとは。
俺はコンビネーションの恐ろしさを身をもって知った。
俺たちは船内に戻り、改めてウゴスの逃げた方向を確認した。
しばらくして愛ちゃんが「さっきの敵が逃げていった方に念物が見えるよ」と知らせた。
カプリース号がしばらく進むと、不気味な念物が見えてきた。
人型を模しているものの、異様な形状だ。
頭髪はなく、額と思えるところには目が左右上下に二つずつ、計四つの目がある。
代わりに鼻はなく、口らしきところには大きな空間があった。
まるで鍾乳洞の入り口のようにぽっかりと穴が開いている。
角張った胴体に筋肉質の手が四本突き出ていて、上の両手は構えの姿勢を取っている。
下の両手は足を折り曲げたところで組んでいた。
いわゆる体操座りしている状態で、空間を漂っている。
「何だァ、この異様な石像みたいなのは?」
「どうやらここにウゴスが潜んでいるみたいね」
和泉が腕組みして言った。
「周りには敵の夢魔はいない。だが、注意するに越したことはないな」
と信濃さんが警告する。
「どうしますか?」
俺は都リーダーにたずねた。
「ここがあのウゴスとかいう上級夢魔の隠れ家なのは明らかだけど、罠ということも考えられるわね」
「その可能性は高いな」
信濃さんも同意した。
「でもみすみす見逃すわけにもいかないし。どっちにしても偵察することにはなるわ。ウゴスがいるから戦いになるのは避けられない」
「結局、どうなったとしても、俺たちが行くことになりそうだよなあ」
日向がのんびりした口調で言った。
「いつも荒事を押しつけるようでごめんね」
「今更でしょ、都リーダー」
俺の台詞に都リーダーは、苦笑した。
「上層部には、あなたたちがよく頑張っているって報告しておくわ」
「程々にしてよ。また、よけいな仕事を押しつけられそうだから」
和泉がしかめっ面で言った。
都リーダーは改めて指示を出した。
「カプリース号は高速でこの念物に近づき、特別攻撃隊を降ろす。その間に敵が出たら、夢魔をできるだけ引き付けて離脱。あとは特別隊の連絡を待つ」
「すごいアバウトな作戦だな」と日向が突っ込む。
「今の状態では何も分かってないから、作戦の立てようがない。とにかく一撃離脱しかないでしょう。攻撃隊も無理はしないでいいの。様子を見ることを第一に。ただ、私が思うにそれほど敵の数は中にはいないと思われるわ」
「どうしてそこまで言い切れるんですか?」
和泉が目を丸くして聞いた。
「敵は私たちが攻勢にでるとは思っていない。いつものように偵察だけだと見ているはず。今までいきなり攻撃したことはないから。でも、そこに付け入る隙がある。慎重に攻撃隊が奥に入り込めば、いい線いけると思うわ」
「確かに意表をつけるのは間違いないですね。罠としても逆に返り討ちにできれば、出鼻をくじくことが出来ます。まだ、俺達が攻め込んでこないと高を括っているでしょうから」
それまで黙って話を聞いていた信濃さんが、会話に付け加えた。
「信濃さんにそう言ってもらえると心強いわね。特別隊は信濃さんをリーダーに和泉さん、日向君、そして武蔵君の四人で出撃。ただし、実行できるかどうかは、私が判断します。では、作戦開始」
「了解!」
都リーダーの指示の元、念物攻略作戦が決行された。
「当たらないように降下。目的地には障害物はないわね?」
「大丈夫。まだ、夢魔たちも出てきてないみたい」
少し不安げな愛ちゃんの声がした。
「予想通りね。特別隊は先に出た信濃さんの指揮の元、甲板で待機」
都リーダーは俺たちに向かって、そう呼びかけた。
「任せて下さい」
日向が都リーダーに親指を突き上げた。
「何、ぐずぐずしてるの。行くわよ」
和泉が俺の腕をつかむと引っ張った。
「日向君、和泉さん、武蔵君。グッドラック」
都リーダーは操縦室を出て行く俺たちを笑顔で送り出した。




