第32話 ウゴス
操縦室に顔を見せると、都リーダー、信濃さん、和泉、日向といつものメンバーが、振り返って俺を見た。
「久しぶりです。戻りました」
「お帰りなさい」
都リーダーが満面の笑みでそう言った。
「よっ。やっと帰ってきたか」とは、信濃さん。
「来た来たっ。愛も寂しかったよ」とコタツでくつろいでいる愛ちゃん。
たった一週間だったのに、何かみんなの見る目が変わった気がする。
ようやく一員に成れたとでも言うか。
それまでは見習い扱いだったのが、能力発動で正式にガイストとして認められたということか。
俺はようやく仲間として打ち解けられたと、改めて思った。
「とりあえず、そこに座って」
都リーダーの勧めるまま、俺はテーブルのイスに腰を下ろした。
隣に日向と和泉、愛ちゃんと都リーダーが向かい合わせに座っている。
「さてとようやく全員が集まったところで、今までの状況を説明するわ」
早速、都リーダーが切り出した。
「現在カプリース号は『キッペルの門』を抜け、夢幻界を航行中よ。ようやく敵のテリトリーに入りつつあるといったとこね」
「何か強い敵が現れているそうですよね」
俺の問いに都リーダーはうなずいた。
「ええ、複数の魔物を集めた姿をした夢魔が出て来始めたの。従来までのインプと区別するために、私たちはキマイラと呼んでいるわ」
「キマイラか・・・・・・」
確かゲームにもいろいろ出たような、合成獣だったよな。
変な翼をつけて鳥のように空飛んでいるようなイメージだった気が・・・・・・。
「確認されているのは、キマイラAが豚の身体にインプの手足、鶏の羽、犬のしっぽの形態です。キマイラBはインプ形態にコウモリの羽、さらに腹にもう二本の腕を持ったものなどです」
あんまり想像していたのと違って怖くないような・・・・・・。
俺の拍子抜けした顔を見て、都リーダーは真剣な表情で諭した。
「私が思うに、これは過渡形態ね。つまり、まだ完全じゃない実験体ってことよ。だから、インプをベースにした合成夢魔になっているわ」
「えっと、どういうことでしょうか?」
「つまり、ますます強くなる恐れがあるってことよ」
代わりに和泉が説明する。
「これまでのインプだけと違って、敵も本格的にパワーアップを始めていると見て間違いないわね。だから、今は出来損ないクラスでも、将来的には驚異になりえるわ」
「そ、そんなものですかね?」
「甘いぞ、武蔵。強い魔物同士を組み合わせたらとんでもない怪物になってしまうからな。カードゲームで魔物合成するときは、両方の利点を生かした強敵モンスターになってたりするしな」
ゲームと夢幻界とは違うと思うが、まあ、確かに一理あるな。
「愛が見たのも、すごい怖いのがいたよ。でも逃げるだけだったからはっきりとはわからなかったけど」
そうか、愛ちゃんは一度ここから逃げ出してきてるんだった。
だったら、奥へ進むほど、そんな恐ろしいやつが出てくる危険があるってことか。
俺は新たに気持ちを引き締めた。
「だから、新生夢魔にはよりいっそうの注意が必要よ。みんな、心してね」
「はい」と俺たちは答えた。
「質問は何かない?」
「ちょっと思ったんですけど、夢魔が強くなるってことは、それをコントロールする奴はどうなんでしょうか? インプロードみたいな奴がみんなを従えているのでしょうか?」
俺の質問に都リーダーは困った表情を見せた。
「いい質問ね。というか、質問された方がどう答えるか困る質問が、俗に言う『いい質問』ってことなんでしょうけど・・・」
そう前置きすると、都リーダーは考えながら言った。
「私が思うに、まだ新型夢魔はうまくコントロールが出来ていない状態だと見ているわ。だから、インプベースがまだ主体だと思うの。でも、今後は理性のある上級夢魔が出てくるはずよ。もしくは、こいつに従う形で現れるかもしれないわね」
「上級夢魔・・・、ですか?」
「ええ、今までのは大した頭もなく、ただ騒いで数で押してきたインプどもだけど、知性を持った夢魔が現れてきても不思議でないわ。そうでないとナイトメアハザードなんか起こせないでしょう」
確かに、そうだよな。
「新型夢魔はコントロールできるかどうか未知数よ。なら知性を持った上級夢魔の指示の元で動いてくる可能性があるわ。そうなったときは私たちにとって本当の驚異になる。これまでとは全然違う戦い方を要求されるようになるわ」
都リーダーは「他に質問は?」と聞いた。
全員が押し黙る中、話はそこで終わりとなった。
都リーダーが席を外すと、俺たちはフウーと緊張を解いた。
「俺がいなくなってから、さらに問題が起きているみたいだよな」
「核心に向かっているんだもの。いずれこうなることは分かっていたわ」
「でも、新型夢魔キマイラか。俺はまだ当たったことがないけど、戦うのは時間の問題だよなァ」
「俺はそいつ等より上級夢魔の方が厄介だと思うぞ。どんな手段で来るか想像もつかない」
「上級ねえ、知性のある夢魔か。どんな連中やら?」
俺たちがそんな話をしているときだった。
いきなり愛ちゃんが叫んだ。
「気をつけて。何か来てる!」
俺たちは全員モニターに駆け寄った。
画面を見ると、遠くから何か馬らしいものが近寄ってきていた。
「なんだ、ありゃあ?」
「馬? それにしては、おかしいわよ。翼があるし人みたいにも見える」
「前が人、下半身が馬。ケンタウロスじゃないのか?」
俺たちが口々に言っているうちにケンタウロスらしき夢魔は、どんどん近寄ってきた。
その上には赤銅色の夢魔がいた。
腕全体が翼になっている人型だが、その腕の下には膜があり、これが鳥の翼の下羽に似た構造になっている。
頭は尖り、鋭いくちばしがそのまま顔から突き出ていた。
人の皮をかぶったカラスといった容貌が俺の浮かんだイメージだった。
カラス顔夢魔は俺たちに気づくと、口元が大きくつり上がった。
赤いつり上がった目がこっちを睨みつけた。
そのとたん、いきなり両手を水平に伸ばした。
「グゲゲゲゲーーーーーーッ」という奇声とともに、ケンタウロス夢魔から飛び上がった。
十メートルほど離れた頭上から俺たちを見下し、しゃがれた大声で怒鳴った。
「お前たちは何者だ?」
「質問の前に名を名乗ったらどう?」
和泉が澄んだ大声で文句を言う。
船内でも操縦室の声は外に響かせることが出来る。
和泉の声は外のカラス夢魔にも聞こえているはずだ。
それにしても気にくわなかったら、容赦しない。
敵でも味方でもこの態度は、さすがだとしか言いようがない。
俺はそのクソ度胸に少し和泉を尊敬した。
カラスの出来損ない夢魔は、グゲゲゲゲっと笑い声ともうなり声ともとれる声を上げた。
「俺の名はウゴス。ここを治める夢魔だ」
「私は和泉瑞穂。これでいいわね」
ウゴスと名乗ったカラス怪人は、目を細めてこっちを見た。
「お前は俺たちを襲っている夢魔の一味か?」
席を外している都リーダーの代わりに、信濃さんは操縦室から立ち上がり、冷静に聞いた。
「だとしたらどうする?」
ウゴスはそう挑発すると、グゲゲゲゲッと声を上げた。
「ならこれ以上邪魔をするな。人間への干渉を止めて、ここから立ち去れ」
信濃さんはウゴスを見据えて、そう命令した。
「大きく出たな。非力なお前たちが俺様に命令できるとでも思っているのか?」
ウゴスは空中で羽ばたきながら、挑発してきた。
「どうしても止める気はないんだな?」
信濃さんはドスの利いた声でたずねた。
ウゴスは両手を上げた。
降参の印かと思ったが、そうではなかった。
後ろからキマイラの群がこっちへ向かってくる。
その数は五十以上だ。
「この船を攻撃しろ!」
ウゴスはそう言うと、二時の方向へ逃げていく。
「ここは一時退却よ。敵を振り払って、数を少なくしてから反撃するわ」
都リーダーが戻ってきて指示を出した。
「了解!」
信濃さんは運転席に座り直して、カプリース号を90度回転させ敵の夢魔を引き離し始めた。
「和泉さん、日向君、武蔵君、三人とも甲板で敵を撃退して」
「わかりました!」
俺は気合いを込めて答えた。
初めて都リーダーが俺を戦力として認めてくれた。
それが嬉しかった。




