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ナイトメアハザード  作者: せっさ 拓馬
31/68

第31話 能力発現記念宴会

俺は都リーダーとの極秘会談を終えて、ようやく現実世界に帰ってきた。

正直言って今聞かされた内容が、本当のことだとは信じられない。

ドリームリンカーだ、最強の能力者だ、世界の危機だとか。

まるで雲をつかむような話だ。

それでもあんなに真剣に都リーダーがいうのだから、真実なのだろう。


本音を言えば、リンクアウトの時に「冗談でした、テヘペロ」とかしてくれることを期待していたぐらいだ。

でも、都リーダーの表情は最後まで真剣そのものだった。

やっぱり冗談じゃないんだなと、今になって改めて実感できる。


「このことは他言無用よ」と都リーダーは言っていたが、言えるような内容じゃない。

日向や和泉が聞いたら、腰を抜かすぐらい驚くのは間違いない。

とりあえず、このことは胸の内に秘めておこう。

時が来れば、都リーダー自身が発表するだろうし。

それもあと二ヵ月以内に。


正直検査より、今聞かされた内容のほうがよっぽどショッキングだったな。

俺は改めて部屋を見回した。

スマホを見ると、日向や和泉からメールが入っている。

戻ってきてるの、とかの内容だ。


正直疲れた。

肉体的にも疲れたが、精神的にはそれ以上だ。

明日だ、明日。

疲れているので翌日会う、との簡単なメールを送り、ベッドにもぐりこんだ。


翌朝、俺がメールで戻ってきたことを知らすと、すぐに日向、和泉が会いに来るという。

俺は食堂で待っているとメッセージを送った。


食堂で昨日言われたことについてあらためて考えていると、二人の姿が見えた。

日向が笑顔で出迎えた。

和泉も少し照れながらうれしそうだ。

この二人の顔を見るとやっと帰ってきたと実感がわいた。


「大変そうだったみたいだな。聞いたぜ、モルモットにされてたとか」

「私のときもそうだったから、わからなくはないけどね」


和泉はその時のことを思い出したのか、肩をすくめた。


「とりあえず、ついに帰ってきたんだ。今日はパーッと騒ぐかァ」

「ええっ? ちょっと大げさじゃないか?」


俺は言ったが、すでに日向は乗り気だし、和泉も反対はしない。


「武蔵の能力発現記念とガイストになったときには忙しくてそんな余裕なかったから、今回それも含めてってことで。いいですよね? 和泉さん」

「え、ええ」


和泉は戸惑いながらもうなずいた。

和泉を誘うことが目的じゃないのかい、日向くん。

何はともあれ、俺のためにパーティーを開いてくれるんだ。

ここは素直に喜ぼう。


「そう言えば、イヨカンにも帰ったってメールを送ったんだけど、どうしてるんだろうな?」

「まだ、授業中だよ。イヨカンかなり必死になって勉強してるらしいぜ」

「そうか。それで姿が見えないのか」

「ああ、次の実技試験がもうすぐだからなァ。すでに三回落ちているんだ。もう後がないし」

「・・・・・・受かるといいのにな」


あまり何度も落ちていると、才能なしと判断されてANHDの施設から出て行かなくてはならなくなる。

四回も落ちれば、相当立場的に辛いだろう。


「二人の友達なんだ。うまくいけばいいのにね」


和泉が同情して言った。


「和泉のことだから、一発で合格したんだろ?」


俺の問いに和泉は首を振った。


「私は四回目よ。何度も失敗したわ」


意外だった。

すんなり受かったイメージだったんだが。


「私も想像力不足で苦労したわ。なかなか思ったようにイメージが浮かばなくて。弓をずっとやっていたからガイストになれたようなものよ」

「へ~ェ、和泉さんでもねえ」


日向もちょっと予想外だったようだ。

想像力不足……、いかん、変なことを思い出しそうだ。

俺は首を振って余計な煩悩を打ち消すと、わざとうれしそうに大声で提案した。


「イヨカンのことは仕方がないとして、今晩でもパーティーしようか。ただ、いつ召集かかるか分からないから、ここで、ってことになるだろうけど」

「よっしゃあ!」


俺たちはピークタイムを避けて、八時から行うことに決めた。



そして、午後八時。

人が少なくなったゲスト側食堂で俺の能力発動と帰還、すでにガイストになってからだいぶ経ったが、昇進パーティーが開かれることになった。

残念ながらイヨカンの姿はなかった。

メールには何とか出るようにするとは言っていたが。


和泉はケーキでも用意しようか、ときいてきたが、俺や日向からすれば唐揚げの方が嬉しい。

それを聞いて和泉は、「やっぱり男の子よねえ」と納得したようにうなずいたのだった。


唐揚げとフライドポテト、野菜サラダ、肉団子などを頼んでささやかながら宴会が始まった。

酒が欲しいところだが、まだ飲むわけにはいかないし、もう少し大人になってからだ。

それでも久しぶりの再会に盛り上がった。


俺も日向も引きこもり組だから、あんまりこういう機会はなかったのだが、気のあった仲間と一緒に過ごすというのは楽しい。

今では和泉も日向も、俺と同じ目的を持つ友達というか。

いや、俺たちだけが、一緒に過ごした経験を共有できる仲間というか。

よく映画で一緒に旅をしてきた仲間が、波瀾万丈の旅の末にようやく故郷に戻ってきたとき、他の人たちから浮いてしまい、仲間内だけ酒場に集まり当時を思い出しながらじっくり酒を飲むというシーンがあるが、あの気分がよく分かる。


今となっては、俺たちは戦友というのが一番近いのだろう。

愛ちゃんや都リーダーがいないのが残念だが、別なメンバーで探索中なのだろう。


俺はいない間に何が起こったかを聞いた。

順調に探索は進んでおり、今や夢幻界では新たなるフロンティアに探索隊が積極的に調査中とのことだ。

なんか喜望峰を乗り越え、インド洋を見つけたバスコ・ダ・ガマ状態のようだ。


新たなる空域に足を踏み入れたカプリース号は、未知なる空間にとまどっていると同時に、ナイトメアハザード解明にむけて新たなる一歩を踏み出したと高く評価されているらしい。

それもこれも武蔵君のおかげと持ち上げられてしまった。


俺だけじゃない、和泉もいたし、カプリース号のみんなのおかげだと思う。

だが、斥候部隊の報告によると、喜んでばかりはいられないようだ。

インプだけでなく、別な夢魔も確認されているという。

だから本拠に近づいたのだと盛り上がる上層部に対して、現場はそう簡単にはいかないという雰囲気になっているらしい。


下の苦労を何も知らずにと、俺も思う。

ただ、今までこれといった成果が上がっていなかったANHDからしては、何かアピールできる実績が必要だったことも理解できる。


都リーダーの言葉が思い出された。

もう時間がない。

ナイトメアハザードの犠牲者は見捨てられる。

それまでに何とかしなければならない。

俺はあの時のことを思い出して、気が沈んだ。


「どうしたの? 何か考え込んでいるみたいだけど?」


和泉が心配そうに俺の顔を見た。


「い、いや。そんなつもりじゃないったら。みんなが俺のためにパーティーしてくれてるのに感動してるだけだよ。やっと戻ってきたんだなって」

「そ、そう?」


和泉もそれ以上は聞かなかったが、嬉しそうだった。


そうだよな。

俺にはもう仲間がいる。

俺の帰還を喜んでくれる人たちがこうしてパーティーを開いてくれている。それはとてもすごいことだと俺は心からありがたく思った。

余計なことは忘れて、この瞬間を楽しもう、と。


俺たちが苦労した話とかで盛り上がっているときに、ふと気がつくとイヨカンがおずおずと入ってきた。


「イヨカンじゃないかァ。授業は終わったのか?」


日向が手を振ったが、イヨカンはもじもじしながら遠巻きにしていた。


「う、うん。一応・・・・・・」


イヨカンが控え目に俺の隣、和泉の前に座った。

それまで盛り上がっていた場が静かになった。


イヨカンはガイストではない。

だから、夢幻界に関することについては話すわけにはいかない。

しかも和泉にしては初対面の相手のため、気さくに話をするようにはならない。

日向はいつもイヨカンがネタを振ってきてそれに答える会話だったため、イヨカンが話しかけないことにはどう切り出したらいいのか分からないようだ。

結果として当たり障りのない話題だけになる。


何を話題にしたらいいのか考えるため、どうしても口数が少なくなった。

俺にしてもあまり話は得意じゃない。

イヨカンが黙ってしまうと、どう話したらいいのか、ちょっと困る。

困ったイヨカンが恐縮してしまい、ますます場が白けてしまうという悪循環だ。


不味いなあ。

どうしたらいいのだろうと思ったとき、急に和泉のスマホが鳴った。

和泉は「はい、はい」と真剣な顔でうなずいている。

会話が終わると、和泉はそのまま真面目な顔で「出撃しないといけないから、ここでお開きよ」と宴会の終了を宣言した。


「あっ、あたしが片づけておきます」


イヨカンがあわてて言う。


「後、頼むな。イヨカン」

「めぐみ、悪い。また今度」


俺と日向は慌ただしく食堂を出た。


和泉はイヨカンに深々と礼をすると、俺たちを追って出ていった。

一人残されたイヨカンは、黙々と俺たちの残していたゴミを片づけていった。

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