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ナイトメアハザード  作者: せっさ 拓馬
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第29話 ガイストの重み

俺がようやく自分の部屋に戻った時だった。

携帯にメールが届いた。

送り主の名は、『都』。

都リーダーからの呼び出しだ。


普段なら驚きつつも喜んで返事を返すが、さすがに今回は帰って来たばかりでちょっとしんどい。

ようやく検査から解放されたか、と安堵のため息をついたところだったのに。

いっそのこと、無視するという手もあるのだが、後でねちねちと笑顔でいたずらでもされそうだ。


俺は身震いした。

余計なことは考えず、あきらめて従うに限る。

よくできた飼い犬が主人の前で腹を見せ恭順の意を示す姿を自分に重ねながら、俺はメールを開いた。


内容はいたって簡単だった。


「検査結果が出た。カプリース号の私の部屋に来るように」


検査結果が出たことはいいとして、カプリース号の部屋で、というのは普通ではない。

夢幻界に関する秘密は、夢幻界でのみ伝達できる、という極秘項目に触れる内容だということだ。

俺は早速睡眠観察室の使用許可を申請した。

「今日の夕方八時にダイヴ可能」という知らせを受け取り、その旨を都リーダーに伝えた。


すぐに「待ってるわ」という本文の後にハートマークのイラストがついているメールが配信されてきた。

どこまで本気にしたらいいのか、判断に迷うところだ。


そして午後八時。

俺は夕食をすまし、念のためシャワーを浴び、体をきれいにして睡眠観察室へと向かった。

体を清潔にすることが何か意味があるのかと思ったが、気持ちの問題だ。

現実とは違うんだし。

いつものように準備を終えると、俺は寝台の上に横たわった。

看護婦さんがいつものように電極やパットを体に取り付ける。

いろいろ検査があって疲れていたのか、すぐに眠りに落ちた。


カプリース号は愛ちゃんの夢と夢幻界の接続点の同調域(シントニー)内部で静止していた。

任務外の時はここで停泊している。


不思議に思ったが、愛ちゃんが起きているときはカプリース号はどうなっているのだろうか?

消えてしまうのだろうか、それとも愛ちゃんが起きていてもこの中で存在しているのだろうか?

ちょっと興味を覚えたが、極秘項目に触れる質問なのは明らかだから答えてもらえないだろうなあ。

愛ちゃんに聞いても、「えー、わかんないよ~」なんて返事が返ってきそうだ。

それはともかく早く都リーダーのいる個室へ向かおう。


部屋は男隊員とは通路を挟んだ反対側で別の区画になり、俺は一度も行ったことはなかった。

上司だし、女性の部屋なのだから当然だろう。

ちなみに女性隊員の部屋もこの区画になり、和泉の部屋もここにあるらしい。


部屋の位置を確認すると、目的のドアの前に立つ。

ネームプレートには「都千鶴」とあるから、間違いなくここだ。

俺は覚悟を決めて、ドアをノックした。

「はーい」との聞き慣れた声が聞こえ、ドアのロックがはずれる音がする。


「合い言葉は?」

「はいはい、山ですか、海ですか?」


俺がそんなやりとりをしていると、ドアが開いた。

Tシャツで短いスカート姿の都リーダーが姿を見せた。

胸の膨らみがはっきりと分かるうえに、スカート下には長いすらっとした脚が伸び、素足のままだった。


正直、どこに目をやったらいいのか困る。

上を見たらいいのか、下を見たらいいのか。

ご尊顔ばかりをじろじろ見るわけにもいかないし。


「気楽にして。私も自分の部屋の中にいるときは、リラックスムードだから薄着だし」

「ど、どうしてそんな格好なんですか?」

「余計な精神力を使って負担をかけないようにするためじゃない。さすがに裸になれないから、このぐらいにしてるけど。そう言えば武蔵君は大丈夫なの?」


そんな事意識したこともなかった。

俺にとって服装はそのままイメージしたらすぐに浮かぶぐらいのささいなことだったから。


「そうか。さすが武蔵君ね」


変なことで感心されてしまった。

俺がそう思っていると、都リーダーは俺の怪訝な顔を見て付け加えた。


「みんな服装を想像するだけでも大変なのよ。だから、ANHDの制服は単純な構造で、色も黒と白だけなんだから。そうしないとみんな色すら一致できないのよ」


なるほど、道理で地味な白黒の制服なのか。

確かに単純に「青」っていうだけでも人によってイメージする色が異なる。

空のような青もあれば、群青色まである。

ばらばらの色になっては制服の意味がない。


「私の知ってる限り、夢幻界で想像力と精神力に不自由なく過ごせているのは、愛ちゃんと君だけよ。和泉さんなんか相当苦労しているはず」


和泉は服を着ているだけでも苦労しているなんて。

一人で部屋居るとき、どんな格好してるんだろ?

ヤバそうだから、聞かない方が無難だな。

俺は頭を振って余計な想像を打ち消した。


俺は丸椅子に座った。

座って、と言われてから座るのが礼儀だが、このまま立っていたら、前屈みになってしまいそうだ。

そんな俺の悩ましい気持ちも知らず、都リーダーは「何か飲む」とたずねてきた。


「ウーロン茶でいいです」


俺はそう言うと少し身をそらした。


「検査結果はもう少ししたら詳しく言えると思う。今の地点では肉体的にあまり変化はないみたい。ただ、ちょっと気になることがあってね」


そう言うと都リーダーは、俺のほうに近づいてきた。

女性特有の甘い香りが鼻腔をくすぐる。

はっきり言って困ります、上司様。


都リーダーは俺にウーロン茶のペットボトルを持ってきた。

そのまま俺の前に椅子を持ってくると、それに座って俺をじぃーと見た。

都リーダーにじろじろ見られるってのは、正直言って不快ではないが、落ち着かないことこの上ない。


「うーん、一見したところ普通なんだけどね」


都リーダーはやっと気が済んだのか、視姦プレイから解放してくれた。

助かった……。


「あれから何か変わったことはない?」

「あれからって、能力発動してからですか? 別にこれと言ったことはないです」


俺は視線を直接見ないようにして、答えた。


「あのくせはなおったの?」

「へっ?」


俺は思わず聞き返した。


「言いにくいだろうと思って、わざわざあなたをここへ呼んだのよ。他の人には知られたくないでしょ?」


ああ、あのことか。


「いえ、まだです」

「はいているんでしょ? おむつ」

「はい・・・・・・」


今度は羞恥プレイか。

正直、勘弁してほしい。

俺は思わず天井を見上げた。


「分かっているわ。何も言わなくていい。それはあなたが『夢と現実の区別がつけられない』ほど、夢の世界に入る能力を持っているから起こっていることよ。だからこそ、私はあなたが能力者じゃないかって確信できた」

「今となっては見事にだまされましたけどね」

「他の隊員さんのこと?」

「俺以外にも同じこと言って勧誘していたでしょう? 純真な男の子の気持ちを傷つけておいて」

「気持ちは本当よ」

「そりゃ、都リーダーからすれば嬉しいでしょう。新しい隊員が増えることになりますからね」

「まあね。ここはいつでも人手不足だし、ましてや能力者なんて、日本中を探しても数えるほどしかいない。あなたのような存在は、喉から手がでるほど欲しいわ」


都リーダーに欲しいと言われると、複雑な気分になるが、これは俺の能力が欲しいという意味であり、それ以上でもそれ以下でもないだろう。

残念なような、ホッとしたような。


「今回の結果を見て、あなたが本当に能力者だということが判明したわ。これであなたも見習いじゃなく正式にガイストの一員よ。それがはっきりしたから、正直嬉しいと同時に気の毒でもあるわ」


そう言うと都リーダーは、憂いを帯びた表情を見せた。


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