第28話 見舞い
俺の意識が回復して事を聞いて、日向もやって来た。
まだ、病室で伏せている俺を見て、日向も心配そうに俺を見ている。
「和泉が無事だって言ってたけど、大丈夫かよ?」
「なんとかな。意識はあるんだけど体が動かない。ひどい筋肉痛みたいだ」
言っていて気付いたが、寝ていたのに筋肉痛とは妙な話だ。
「ああ、確かにな。俺だって初めての能力発動時は大変だったよ。意識はあるのに体が動かないんだから、金縛りにあったかと思った」
日向にとっては初めのうちは夢幻界で動くだけでも大変だったようだ。
どうやら人によって夢幻界での活動状況にかなり差があるようだ。
俺のように能力発動時に反動が出る場合もあれば、入るときに動けない日向のようなケースもある。
「しかたないな。いい機会だからゆっくり休んだらどうだ?」
「動けないのに休めって、拷問かよ。上を向いてボォ~とすることしかないぞ」
俺はそう言って、日向のほうを向いた。
「痛てててて、首を動かすだけでもこの有様だ。なあ、日向?」
「なんだ?」
「今日の予定、何かあるのか?」
「うーん、別にこれと言ってないし」
「だったら、何か話してくれ。暇でしょうがない」
俺はこんな状態になって、初めて病室で病人が何を考えているのか、わかった気がした。
動けない状態で寝ているだけって、つらいよなあ。
無性に心細くなるし、退屈でしょうがない。
だれか見舞いに来てくれるだけでも気がまぎれる。
「そうだなあ。何の話したらいいかな? 急に言われてもなァ」
日向も話をするのがうまくなさそうだ。
俺は何かホッとするものを感じた。
口下手の者どおしの連帯感ってやつだ。
と言っても、黙ってしまうのも間が悪い。
俺が聞きたいことをたずねることにした。
「なあ、『能力者』ってどうなんだろう? すでに能力発現している日向に、改めてちょっと聞いてみたいと思ってさ」
日向は「うーーーん」と言いながら天井を向いた。
「まあ、そのォ。一言でどうこう言えるもんじゃないよな。大体『能力者』ってのが人それぞれだ。俺の場合は剣をイメージして相手をぶった切れるだけだから」
「他の人は違うのかな?」
「攻撃属性なのは、俺と和泉さんぐらいか。わかっているとは思うけど和泉さんは弓矢を使える能力がある。関係者からは『射手』(いて)って呼ばれているけどな。ちなみに俺は『ソードマスター』だ」
「『ソードマスター』ねえ……」
「今、合ってねえとか、名前負けしてるとか思っただろ?」
すげえ、よくわかったな?
それとも顔に出たか?
俺の驚いた顔を見て、日向はやれやれといった呆れ顔になった。
「みんなそう思うんだよなァ。もともと俺の場合は『ファイター』だったんだが、あまりに単純すぎるって抗議したんだ。どういう名前で呼ばれたい、って逆に聞かれたので『ソードマスター』にしてもらったんだ」
自称かよ、とつっこむと、剣を使えるのは今のところ俺一人しかいないんだからいいんじゃないか、と返された。
「日向は英語、和泉は日本語って、どういう基準なんだよ?」
俺はそうたずねたところ、日向は苦笑いをした。
「これも和泉さんの希望を取り入れたからだよ。最初は『シューター』とか『アーチャー』とかコードネームを付けられたんだけど、当の和泉さんが『西洋弓術とは違います』って言ったらしい。それで『射手』って日本語がそのまま使われているのさ」
「じゃあ、攻撃属性以外では、何があるんだろ?」
日向はうーん、と少し考えた後、答えた。
「まず、信濃さんだけど夢魔を見つけだす能力があるって聞いてるな。だから『サーチャー』って呼ばれてる」
「『サーチャー』って『索敵者』とか意味だよな。ああ、そう言えばどこに敵がいるか、いつも報告してくれるからなあ」
「それと神在月さんもそうだ。この人は『バリアー』、船のダメージコントロールとメンテナンスを担当している」
以前聞いたことがあるよな。
どこだったっけ?
「ほら、前の緊急招集の時だよ。武蔵が胸ばっかり見てて、和泉さんにひんしゅく買っただろ」
うわわわわ!
そこまでひどくなかったと思う。
……たぶん。
「調査部隊の一人で俺たちとは別のチームの人だ。少し遅れて夢に入ってくることが多いから、意外と気づかれないんだよなァ。前の訓練航海の時には居たそうだよ」
そうだったんだ。
全く気付かなかった。
次にダイヴするとき、注意してみておこう。
「あとはこの船自体を創っている愛ちゃんが能力者だ。夢幻界へみんなまとめて連れていけるから、『キャリアー』って呼んでる」
「『キャリアー』ってどんな意味だったっけ?」
「『運び手』だと。なんでも能力としては最重要クラスでSランクに位置づけられているらしいぞ。まあ、愛ちゃんしか入る方法を知らないんだから当然かもな」
「なんでそんなことできるんだろうな?」
「さあな。どうしてかはまだ分かっていないそうだ。ただ、能力者だからこそ船で動けるってことができることしか、俺たちには知らされていないからなァ」
「都リーダーは?」
「あの人は特別らしい。能力はないって聞いているな」
「ふーん」
まあ、ああ見えても結構有能そうだから抜擢されたのかな。
人徳ありそうだし。
官僚にしては珍しいタイプなのは、傍から見ても分かる。
「俺も攻撃属性になるんだよな?」
「そうだろうけど、結論を下すにはまだ早いぜ」
「どういうことだよ? 確かに俺はあのときインプロードって言ってたっけ? あのでかい夢魔を素手で倒したんだけど?」
日向は我が意を得たりと言わんばかりに、手で膝を打った。
「そこだよ。体が使える能力者ってのは、今まで誰もいなかったんだ。だから、本当にそれだけかと思ってさァ」
日向は俺の体をじろじろと見た。
「もっと他にも能力があるのかもしれないぜ。体を使うことができる以外は何も分かっていないんだろ?」
「・・・・・・冗談じゃないぞ。まさか、今から人体実験されるんじゃないだろうな!」
「可能性がないとは言えないけどな。ANHDでも未知の能力について知りたいだろうし。まあ、どっちにしても体については詳しく調べられるんじゃないかな」
「実験用モルモットになった気分だ・・・・・・」
俺はうえ~とため息をついた。
あんまり想像したくないな。
「俺たち隊員は利用価値があるんだから、無茶なことはされないだろうと思うぞ。それに調べてみて、なんかさらなる特殊能力が見つかったら面白そうだ」
「他人事だと思いやがって」
俺は痛みをこらえながら天井のほうを向いた。
「だってさ、あのときインプロードを倒した技なんて、どう見ても『●ょおぉ~~りゅう~~けん』だろ、いやアッパーの前にボコボコにしていたから『●虎乱舞』に近いかな」
「えーい、オールドゲーマーのような発言を」
「だったら、 『●ど~~~けん』出したり、『秘●』とか突けそうじゃないか。いいよなあ、俺もあんな技使ってみたかったァ」
「かあああぁーーーーっ! アニメやマンガじゃないっての! できるわけがない! 俺がそんな技使えるんだったら、剣使いのお前は『●ミットブレイク』使っても不思議じゃないだろうが!」
俺の言葉を聞いて、衝撃を受けたように日向は固まった。
「そ、そうか! その手があったか! 今度、必殺技の特訓してみようかな。気合いを入れたら出せるかもしれねえ」
「はいはい、好きにしてくれ」
俺は●テリアだの●ンビットだの、つぶやいている日向の声をあきれながら聞いていた。
予想通り、翌日には俺は検査のために別な区画に移された。
ANHDの職員たちに取り囲まれ、こまごまとした能力チェックを行なわされた。
血液検査、レントゲン、CGなどの身体検査は言うに及ばず、日本でもまだあまり普及してないPETを使っての検診まであった。
さらにジムへ連れていかれてバーベルを上げさせられたり、前回りなどのマット運動、果ては跳び箱まで挑戦させられて、俺の体が固くなっていることを否が応でも認めざるえなかった。
いかん、このままでは運動不足のおっさんにまっしぐらか、と気が滅入りそうになる。
俺が人体実験まがいの精密検査を受けている間に、探査は着々と進んでいた。
日向のメールによると『キッペルの門』を抜けて新たなる調査地域に入ったカプリース号は、さらにいくつかの念物を発見したようだ。
和泉たちも俺がいない間に調査部隊とともに今回見つかった宙域を探検中とのことだった。
だが、俺は参加することができず、病室のベッドで白い検査着に身を包み、連日のチェック項目をやらされてうんざりしている状態だった。
やっと結果が出たのか、俺の検査は訳も分からないうちに終了した。
結果内容は俺には知らされず、健康面に関しては問題ありません、とだけ知らされた。
一週間ぶりに、仲間たちのいるドーム内へ戻ることを許された。




