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ナイトメアハザード  作者: せっさ 拓馬
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第27話 能力覚醒

武器、武器、何かこいつに立ち向かうモノを。

そうでないと、和泉はこのままなぶり殺しにされてしまう。

夢幻界だからといっても、致命傷を与えられたら夢魔と同じように俺たちも死んでしまう。


でも、俺が思い浮かべられる武器なんてあるのか?

日向みたいにのめり込むほどゲームしてないから、剣なんか具現化できない。

和泉のように小さいときから弓道なんかしてもない。

俺がはっきりとイメージできる武器があるのか?


どうしたらいいんだ?

俺は自分のみじめさに立ち尽くした。

俺がイメージできるのは、自分自身ぐらいじゃないか。

この世界に自分が存在できる程度のことしか、想像ができない。

情けなさすぎて涙があふれた。

俺にあるのはこの体しかないのだ。


・・・・・・俺のからだ?

俺は少なくとも自分だけはイメージできる。

だったら、自分自身の攻撃ならはっきり具現化できるじゃないか。

おもっきり、殴ってやる。

蹴ってやる。

噛みついてやる。

今の俺にできるのは、これしかない。


インプロードは和泉を上から容赦なく足で踏みつけていた。

和泉は両手で頭をかばいながら、攻撃に耐えていた。

聞くのも痛々しい和泉の悲鳴があがっている。

俺はインプロードの前に立ちふさがった。


「はやく・・・逃げ・・・」


片足を失い、血と砂まみれになった姿にもかかわらず、俺を心配する和泉の声が下から聞こえた。


「俺は逃げない! ここで和泉を見殺しにしたら一生後悔するからな!」

「む、さ、し…くん…」


和泉は小さな声で俺の名を呼んだ。


たとえここで死ぬんだとしても、ただじゃ死なねえ。

こいつも道連れだ!


俺は自分の拳を強くイメージした。

こいつの体に俺の拳がめり込むこと。

それだけを強く念じる。


インプロードは俺の姿を見ても、意にも介していない。

敵だとすら感じてない。

いいだろう。

その思い上がりを後悔させてやる。


インプロードの赤黒い小悪魔の姿、筋肉質の体、臭い汗、したたり落ちる血、それらを具体的に自分のイメージとして取り込む。

次に俺の拳、これがやつの体に当たる。

くぼむ顔面、抜け落ちる前歯、飛び散る汗、吹き出す血、吹き飛ばされる胴体、驚愕の表情を浮かべ倒れる姿までをシュミレートする。

これらがスローモーションのように俺の頭の中で再現される。

録画した映像を再生するイメージで、俺の全集中力を集め、明確に具現化する。


・・・・・・捉えた。



俺は自分の拳を突き出した。

グチャっと鈍い音がして、俺の拳がインプロードの右頬に食い込んだ。

組み立てた映像を再生しながら、俺のイメージのまま次々と拳を敵に向かって打ち込んだ。

現実ではできないぐらい素早い動きで俺の攻撃が命中していく。

相手の反撃を許す前に勝負をつける。

そう思い俺は、死にものぐるいで殴りかかった。


インプロードの全身に先ほど思い浮かべたイメージが再現され、淡々とその光景が流れていく。

パンチを同時に5発受け顔面がひしげ、前歯が飛び散った。

肩から腹にかけて連続で18発の拳痕がついた。

汗が、血が吹き出した。

相手が為すすべもないまま、倒れるまで殴るシーンを次へ次へと再現する。

とにかく相手が吹き飛ばされるまで繰り返した。

驚愕の表情を浮かべ倒れる姿になるまで。


俺の必死の攻撃を受けて、インプロードはゆっくりと崩れ折れる。

ついにドウッという音とともに、地面に横倒しになった。


「やった!」


武器がなくとも、攻撃を具現化できるじゃないか!

これだけダメージを与えたら、もう戦えないはずだ。


だが、インプロードは起き上がり、膝をついた体勢のまま回復しつつあった。


「くそっ、致命傷じゃなかったら意味がないんだった」


ならば、こうだ。


「あああああああーーーーーーーっ!!」


俺は雄叫びを上げ、インプロードに飛びかかった。

頭、顔、胸、肩、右腕、左腕、腰、右脚、左脚、足。

すべての場所に殴りかかった。


インプロードの顔が醜く歪む。

体中が拳の痕でへっこんでいく。

全身を殴られたインプロードは、なすすべもなくその場で立ち尽くしていた。

最後に俺は渾身の力を込め、顎にアッパーカットを食らわした。

拳が見事にあご下を捉え、首が上にあがる。

ゴキッと骨のきしむ音。

これだ。

このまま、上に貫けば首の骨ごと破壊できる。

そのまま、俺は右手を天高く打ち抜いた。

全身全霊を込めて。


変な方向に首が傾き、インプロードが上に跳ね上がった。

その不自然な向きのまま、停止した。

その瞬間、輪郭が崩れ、赤黒い霧になり消えていった。


それと同時に周りを取り囲んでいたインプどもが恐慌状態に陥った。

無様にギャアギャアわめきだした。

そのとたん、インプどもが一斉に薄れ始めた。

羽ばたいて逃げ出そうとする奴らもことごとく霧と化していった。


インプどもの霧はすぐに蒸発して、辺りは元の砂漠の地へと戻っていった。

俺は荒く息を吐き出し、地面に崩れおれた。


「むさ…し…くん…」


和泉が地面を這い寄り、俺のそばに来た。


「だ、大丈夫なのか?」


俺の声は敵を倒した興奮と和泉が消えてしまうかもしれないという恐れで震えていた。


「な、なん…とか…。まだ…死んで…ない…わ…」

「俺も、まだ、死んでないみたいだ」


かすれ声を出すのがやっとだった。


なんとか、二人とも助かったのか。

地面に大の字になり、空を見た。

空は薄紅色に輝き、細かい霧がきらめきながら流れていった。


「見て…、あれ…」


和泉の指さした先には、カプリース号が上空から急いで降下してくるのが見えた。

これでもう大丈夫だ。

安心した俺は次第に意識が薄れていった。

日向が和泉と俺を呼ぶ声を聞きながら・・・。



俺が目を覚めたのは、ベッドの上だった。

しかし、今度のベッドは木ではなく病室の寝台の上だった。

周りを見回すと、俺付き添いの看護婦さんや、体調の様子を見守る医者たちにまじって、涙目の和泉が俺の方を心配そうに見つめていた。


「ここは?」

「元の世界よ」


みんなを代表して和泉が答えた。


「・・・そうか、現実の方の・・・・・・、・・・俺はどのくらい寝てた?」

「三時間ぐらいかな。あの後、非常事態ということで、急いで脱出したの。でも、武蔵君は目を覚まさないから」

「授業で聞いたことがあるよ。能力を使いすぎたら気を失うって」


和泉はうなずいた。


「初めて能力を使うと、しばらくの間は精神力を使い果たしてしまうから。私の時はそれほどでもなかったんだけどね。武蔵君は自分の体全体を使って能力が発現したから」

「そうか」

「都リーダーが驚いていたわ。武器もない君がインプの親玉を倒したんだから。おかげで敵はすべていなくなって、連絡が取れたのよ」

「じゃあ、なんとか任務完了(ミッションクリア)ってわけか」


俺は頭を掻きながら言った。

和泉は黙って俺を見ていたが、突然目つきが険しくなった。


「あなた、バカよ! こんな勝ち方じゃ命がいくつあっても足りないわよ!」

「でも、何事もないからよかったじゃないか。それに俺の能力も発現したし。終わりよければすべて良しってやつだ」

「あのねえ、あれがあなたの能力だったら、いっつも戦闘ごとに肉弾戦するわけ?」

「そうなるんだろうなあ」


俺はインプロードとの死闘を思い浮かべながら答えた。


「ああーっ、もぅっ」


和泉は俺を呆れたように見た。


「こんな命知らずの奴の面倒なんか見きれないわよ。いっつもこれじゃ、こっちの身が持たないわ」


和泉は怒りながら、背を向けた。


「じゃあ、私は行くわね。みんなに報告しないと」

「和泉」


肩を揺らしながら部屋を出ていく背中に声をかけた。


「何よ?」

「今日は助かったよ。ありがとう」


和泉は半分怒り、半分困惑した顔でこっちを向いた。


「わ、私のほうこそ、助かったわよ!」


そう言うなり、和泉は足音も荒く部屋を出ていった。


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