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ナイトメアハザード  作者: せっさ 拓馬
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第23話 仲間たちの事情

代わりに俺は前にいる都リーダーにたずねた。


「俺は戦うことになるんでしょうか?」


都リーダーは俺の顔を見ると、困惑したように言った。


「戦力になって欲しいけど、さすがに能力が発動してない人を戦うことを許すわけにはいかないわね」

「俺、考えたんですが、このまま船で何もできないでただ見てるだけって言うのも・・・・・・」

「だいたい、船に乗ってすぐに戦闘に参加したいって、常識知らずにもほどがあるわ」


和泉が辛辣に口を挟む。


「だけど、和泉さんだって弓を持って戦っているだろ。俺はてっきり最初のころは、船内で能力を使うものだと思ってたから」

「おしとやかじゃなくて悪かったわね」


そう言うとまた不機嫌そうな表情を浮かべた。


「ちょ、ちょっと誤解するなよ。俺は単にどうしたら戦えるのか、その方法を聞きたいだけだよ」

「だから、それが常識知らずって言ってんのよ。私が夢幻界で弓を使えるようになるまでどれだけ集中力を鍛えたか。並みの精神力では武器どころか物ですら具現化できないのよ」

「まあ、和泉さんの場合は、ずっと弓道をやっていたから。それで武器として弓をイメージするのが自然の成り行きだったのね」


都リーダーが丸くなった愛ちゃんの頭をなでなでしながら、こっちを向いて答えた。


「俺はゲームに夢中になってたからな。武器は剣をイメージしやすかったし」


そう言うと日向は剣を見せた。

柄の部分に握りがついたシンプルだが美しい両刃剣だ。


「本当は背中に背負えるぐらいの大剣を装備したかったんだ。でもそれだと逆に扱いにくくてさ。小回り利かないし、何よりイメージするのも大変なんだ。それで腰に差して片手でも両手でも振り回せる剣にしたってわけだ」


現実はそううまくいかないよな、と笑っている。

ここでも現実じゃないんだが。


「そう言えば、日向君は現実と夢幻界で姿が違っているわよね。それってやっぱりゲームキャラをイメージしてるから?」


和泉がたずねた。


「うん。その方が気合い入るし。もともとは最近発売された実体型VRMMORPG、つまり仮想現実の参加型ロープレのゲーマーだったんだ。そのときに使っていたアバターキャラの姿だよ」


あまりゲームをやったことのない俺でも、そのタイプのゲームは知っていた。

頭にヘルメットみたいな装置をかぶり、仮想世界で冒険するというものだった。

視覚と聴覚が中のキャラクターと一体化して、まさにその世界に入って戦えるようになると、すごい話題になった。


「えっー、確か初期ロットが二万しか発売されなかったやつだろう。よく手に入ったな」

「もちろん、百通近いハガキ出して抽選に申し込んだり、雑誌のアンケート送ったりしてソフトを手に入れようとしたんだから。その甲斐あって何とか初期ロットを手に入れてさ。あのときは連続二日ぐらいアクセスして飯を食う間もなく遊んでいたよ」

「すごいな。俺には真似出来ねえ」

「と言ってもなァ、あの世界ではちょっと……」


意外だな。

ゲーム好きの日向があまり楽しそうに見えなかった。


「……やっぱり俺は一人でやるほうが向いていてな。いろいろあって止めた」


俺はVRMMOはやったことがなかったが、いろいろうわさは聞いていた。

仲間内でのトラブルやアイテム分配のいざこざとか、実生活でも人付き合いで大変なのに仮想現実まで問題を持ち込みたくなかったんじゃないだろうか。


「で、今では元のように一人でゲームやってる。でも、作ったキャラはそのまま残って、それがこの姿になったってわけさ」


袴姿の和泉は黙って日向の話を聞いていた。


「その剣はどうやって手に入れたんだ?」

「抽選で当たったんだよ。前にやってたロープレで『リアルサイズ勇者の剣』とかいう企画があって。実際に作ってみたとかで、ゲームに出てきた剣の懸賞にダメもとで出したら当選した」

「まじかよ!」

「だから、リアルでも剣を振るえるから、ここまでしっかりイメージできるんだよ」


納得だ。

和泉も日向も武器を実際に持っているからこそ、できる芸当ってわけだ。


「じゃ、なんで夢幻界に行くことになったんだ?」

「たまたま募集に応募したんだ。ずっとネトゲしてたら金がなくなって。バーチャルトレードのゲームじゃなかったから、どんなに稼いでもリアルで儲かるわけでなかったし。でもって、都リーダーからのテストで能力者ってわかって。あなたは私が捜していた人だってスカウトされた」


やっぱりか。

都リーダー、決め台詞は俺だけじゃなかったのね。

少し寂しいです。


「VRMMOロープレでは視覚と聴覚だったのが、こっちではフルだからなァ。実体感が全然違うぜ。なんせ、夢だってのにさわれたり、感覚まで感じられるんだぜ。これじゃ実際と何ら変わらないだろ」


確かに夢幻界の実感はあまりにもリアルだ。

視覚、聴覚だけのヴァーチャルワールドとは比べ物にならない。

それゆえに現実ほどではないが痛感もあり、死の危険もあるのだが。


「まだ五感使ってのフルダイヴRPGは出そうにないのかな?」

「残念ながらな。いずれは出るんだろうけど。味覚や感覚の計算処理まで行うのが相当難しいらしい。たとえできたとしても、この夢幻界の感覚と比べものにならないからなァ」


日向はそう言いながら、こたつでみかんを食べ始めた。

なるほど。

みんな、いろいろな事情があるってわけか。


「反応なくなった。今が出発のチャンスだぞ」


信濃さんの言葉に全員の表情が変わった。



今までの遠足気分はなくなり、船内に張りつめた緊張がかけぬける。

都リーダーはすぐさまコタツから出ると、立ち上がって信濃さんのいる操縦席を見た。


「『キッペルの門』の方向に敵は?」

「問題なし。ちょうどこの位置から敵の存在は見えない」

「じゃ、急がないとね。カプリース号発進! 愛ちゃんの夢を抜けて夢幻界へと入るわよ!」

「了解。カプリース号発進します」


信濃さんが復誦して、アクセルペダルを踏んだ。


「愛ちゃん、周りの様子をモニターに出して」

「はーい」


一瞬、愛ちゃんの顔が前面のモニターに出た後、周囲の景色が映し出された。

黒い背景が次第に夢幻界の空の色である美しい薄紅色に染まっていった。


「日向君と和泉さんは甲板手前の提督室内で待機して」

「了解!」

「了解です」


二人は操縦室を急いで出て行った。



夢幻界に入ると、カプリース号は一目散に目的地へ向かっていた。

白い霧がかかっていたが、切り裂きながら猛スピードで進んでいく。

俺はモニターで流れる景色を何気なく見つめていた。


「あの、少し不思議に思ったんですけど」

「ん? 何?」


俺の言葉に都リーダーがこっちを振り向いた。


「夢幻界ってどのくらい広いんですか?」


俺の問いに都リーダーも少し考えていた。


「そうねえ、広いとも言えるし、狭いとも言えるわね」

「な、何ですか、それ? 答えになってませんよ」

「実際そうなんだから、そうとしか言えないのよ。一度行った所へは方向と目的地のイメージさえ浮かんでいれば、たどり着けるのよ。でも、問題は行ったことのない所よ。知らない場所にたどり着くのはほとんど不可能と言ってもいいわ」

「ええっ? でも、いくつか念物を見つけているんじゃないですか?」

「ええ、でもそれも偶然の産物がほとんど。相手がわざと見つけるように表示している状態じゃないと、簡単には見つからない。実際、うまく隠し通している念物や物体を見つけるのは、とてつもなく困難よ」


そう言うと都リーダーは笑顔から軽くしかめっ面をした。


「だから、敵の夢魔たちも俺たちのシントニーを見つけられていないんですね?」

「そうよ。おかげでこっちも助かるのだけどね。だからこそ敵は物量作戦で来ているわ。とにかくインプたちをあちこちに配備してやみくもに探し回っている」

「こっちからは何とかできないんでしょうか?」


俺の問いに都リーダーは首を振った。


「したいのはやまやまだけど、私たちは相手を知らなさすぎる。夢魔が何者か? どこから来ているのか? そして最大の目的であるナイトメアハザードの原因は何か? 私たちはまだ何も分かっていないわ。そんな状態でこちらからできる手段は限られている。今はまだこちらの戦力を充実させること。今のままでは反撃なんてままならないわ」


そう言った都リーダーは、いつも見せる笑顔とは全く違う、苦悩に満ちた指揮官の陰りが浮かんでいた。


「まあ、今のところは敵を知ることだな」


上で俺たちの会話を聞いていた信濃さんが言ってきた。


「だからこそ俺たちは夢幻界の探索を全力をあげて調査している。ほんのちょっとした手がかりでさえ、問題解決の糸口になるかもしれないからな」

「信濃さんの言うとおりね。今の私たちには手探りで対抗する方法を探すしかない。例えそれが溺れる者が藁を掴むようなものでもね」


都リーダーはそう言うと俺を見た。


「とんだ職場に来たって、後悔しているんじゃない?」

「今さらですよ。俺は都リーダーに初めて会ったときに、ある程度覚悟してここに入隊しましたから。都リーダーは初めて・・・・・・」


俺はいったんここで言葉を切った。


「俺を認めてくれた人でしたから」

「・・・・・・」


俺の言葉を聞いた都リーダーはただ黙っていた。

それがどういう意味をもっているのか、今の俺には知るすべもなかった。


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