第22話 愛ちゃんのプレゼント
俺が操舵室、と言うか車のハンドルだから操縦室と言うべきか、に着くと、すでに都リーダー、信濃さん、和泉がそろっていた。
「遅いわよ。時間の概念がないとはいえ、ノンレム睡眠時が終わればこっちに来てよ」
都リーダーから注意の言葉がかけられた。
すみません、と謝る。
「ゴメンね。愛が起こしたらよかったかな?」
いきなり前にあった大型テレビに愛ちゃんの顔が映った。
俺は思わず仰け反った。
「び、びっくりした! そんなとこから顔出すなよ」
「ここは愛の夢だよ。その気になったらどこでも顔出せるよ、部屋でもトイレでも」
「止めてくれ。心臓に悪い」
愛ちゃんはえへへと、笑いながら舌を出した。
テヘペロですか。まあ、子供の行為だから許されるけど・・・。
「普段控えめな愛ちゃんが珍しい。今日はどうしたの?」
和泉が首を傾げながら聞いてきた。
愛ちゃんはパンパカパーンと変なファンファーレを鳴らした。
「今日は武蔵お兄ちゃんと日向お兄ちゃんにプレゼントがあるの」
「プレゼントぉ?」
「プレゼントォ?」
俺たちの声が思わずハモった。
愛ちゃんはちょっと出てきた胸を張って、偉そうにのけぞった。
「そうよ。愛からお兄ちゃんに、愛を込めて」
「はいはい、親父ギャグはいいから」
「…やっぱり今日は止めようかなあ」
頬を膨らませた愛ちゃんが横を向いた。
「武蔵ィ、せっかくくれるって言ってるのに、余計なことをォ」
俺と日向はあわてて平謝りした。
五分ほど拝み倒して、ようやく機嫌を戻した愛ちゃんから、プレゼントって何という話題まで持っていくことに成功した。
「で、プレゼントなんだけど、武蔵お兄ちゃんも日向お兄ちゃんも、ここの一員になったからイスを出します」
「ええっ!?」
和泉が驚いたように聞き返した。
「何、そんなに驚いてるんだよォ?」
「私なんか椅子もらうのに二ヶ月かかったのよ。それをこんなすぐにもらえるなんて。どういうこと?」
和泉が口をとがらせた。
「人徳の差だろ。俺の行いがよかったということだ」
「……まさか、お金?」
おいおい、和泉。
賄賂で釣るなんて、そこまではしないぞ。
食べ物はあるけど。
「そんなことしてないよ。ただ、お兄ちゃんと少し一緒に過ごしたぐらいかな」
「過ごしたって、ひょっとしてあの時のこと? あれってデートだったの?」
和泉がびっくりして俺を見た。
「デートだと? お前、子供相手に手が早すぎるだろ!」
「いや、その・・・・・・」
口ごもる俺を見て、頭を抑えていた都リーダーが助け船を出した。
「私が愛ちゃんに武蔵君と親睦を深めなさいって言ったんだけどね。あの時のことは武蔵君も反省してちょうだい」
「はい・・・・・・」
俺は下を向いた。
理由はどうあれ、愛ちゃんを危険な目に遭わせたことについては、弁解の余地はない。
「まあまあ、愛は楽しかったから、そのくらいにしてあげて。お兄ちゃん責められてかわいそうだよ」
愛ちゃんの優しさが身にしみます。
そして、周りの視線が刺さります。
後でどう説明しようか。
今のうちにうまい説得方法を考えておかないと。
俺は日向、和泉の不機嫌そうな顔を見ながら、そう思った。
「で、そろそろ椅子を出したらどうだい」
とうとう信濃さんまで待ちくたびれたのか、急かしてきた。
「そうだね。じゃあ、なった順に日向お兄ちゃんから」
「うーん、急に言われてもなあ。どんな椅子でもいいのかい?」
「もちろん」
「じゃ、じゃあ社長さんが座っているのなんかどうかな。両脇に手もたれがあって回転できるやつ」
「いいよ」
そう言った途端に日向の前にドカンと貫録のある椅子が現れた。
「おおッ! すげえええっ! 一度でいいからこんな椅子に座ってみたかったんだァ」
日向は有頂天になって椅子にどっかり座った。
腕組みをして足を偉そうに組んでこっちを見た。
「どうだァ? 似合っているか?」
どう見ても坊ちゃん社長がコネに任せて地位を手に入れた感がありありだ。
みんなもそう思っているらしく冷ややかな視線が投げかけられている。
「すみません、図に乗りました」
日向は椅子から立って頭をペコペコ下げた。
「いいよ。そのイスに座りたかったんでしょ。だったら、これからこのイスは日向お兄ちゃんのだよ」
愛ちゃんはにこにこして言った。
「もらっておきなさい。似合わなくても、まずは気分からっていうわよ」
都リーダー言うなあ。
その通りだけど。
「うん、まあ、確かにいい座りごごちだから、悪くはないけど……」
日向は困ったように頭をかいたが、真面目な顔になって愛ちゃんを見た。
「ありがとう、愛ちゃん。これから大切に使わせてもらうな」
「うん!」
愛ちゃんもうれしそうに返事をした。
「じゃ、次は武蔵おにいちゃんの分。どんなイスがいい?」
「どんなイスでもいいのかい?」
「うん。わからないなら、てきとーにイメージ言ってくれたらいいから」
愛ちゃんはそう言うが、これといって欲しいイスがない。
どっちかと言えば、イスよりリラックスできるものがいいなあ。
俺が考え込んでいるのを見て、愛ちゃんが画面から手招きした。
「もし、うまく言えないんだったら、愛にイメージ見せて」
「じゃ、じゃあ」
俺は画面まで近づいた。
「どうしたらいいんだい?」
「画面に手を触れて。そしたらイメージしたの見れるから」
俺は言われたとおりに、画面に手を置いた。
愛ちゃんに自分のイメージしたものを頭の中に強く思い浮かべた。
「うーん。こんなのあるのかあ。じゃあ、お兄ちゃんに任せるから自由にイメージして見せて。愛、それをそっくりそのまま創るから」
俺は言われたとおりに、自分の欲しいモノを具現化しようとした。
四つの足があって、毛布があって、座布団も付けて。
俺がイメージしたモノが目の前に浮かび上がってきた。
コタツだ。
上にはみかんの入ったザルまで置いてある。
座椅子が添えられてあり、背中をつけてのんびり座ることが出来るようになっていた。
「おおっ、コタツとは。ナイスアイディア!」
日向が目を輝かせた。
和泉でさえ、顔がほころんでいる。
「それだけじゃないぞ。入ってみたら分かる」
和泉と日向が左右から入ってきて、驚いた表情を見せた。
「これって、掘りごたつじゃないの!」
「すげえ、これだったら長く入っていても足を伸ばせるからいいんだよなァ」
俺の座っている座椅子の反対側の所から、愛ちゃんがぬっと顔を出した。
「こんなコタツあったんだ。愛、初めて見たよ」
「うわっ、愛ちゃんまで出たよ」
びっくりして日向が叫んだ。
「愛だって、入ってみたいもん。う~ん、いいよお」
ネコのようにコタツにしがみついている。
様子を見ていた都リーダーと信濃さんは、呆然とその光景を見つめていた。
「さっそくメンツがそろったことだし、麻雀できるな」
「変な遊びを愛ちゃんに教えない」
和泉が俺をキッとにらんだ。
「おっ、そう言うからには、やり方知ってるんじゃないか?」
「やったことはあるけど」
「頭の回転良くなるって聞いているから、愛ちゃんにも教えてもいいんじゃないか?」
「早すぎるわよ」
「賭けないって」
「当たり前でしょ」
俺と和泉が麻雀が青少年に及ぼす影響を議論している間、満を持して都リーダーが愛ちゃんの横に入ってきた。
「ホントにオコタなのねえ。それはともかく、出発しないといけないんだけど」
「ちょっと待って下さい。まだ、インプどもがうろうろしている。もう少しした後のほうがいいと思いますよ」
上の運転席の信濃さんが、周りを確認しながら言った。
「だったら、少し経ってからでいいわね。ちょっとゆっくりしましょう」
そう言うと、都リーダーは掘りごたつに座ってまったりしている。
何だかんだ言っても、堪能しているじゃないか。
俺はそう思ったが、思うだけで口に出さないほうが賢明なのは言うまでもない。




