第21話 緊急召集
その日の午後、俺たちガイストは特別に伝えたいことがあるということで、全員が召集をかけられた。
場所はカプリース号後部視聴覚室だ。
愛ちゃんの処理能力を上回るため、召集は三回に分けられ、最初は斥候部隊、次に探索部隊、最後に俺たちとなった。
そのこともあって、今回のダイヴは普段よりはるかに多い10人ぐらいのメンバーがリンクアップしていた。
これほどまでの多くの人数を夢幻界で見たのは、講義では何回かあったが、実技演習では俺にとって初めてだ。
その中にはもちろん日向、和泉も入っていた。
二人を見つけ俺もその中に加わる。
「さすがにこれだけのガイストメンバーと一緒に行動するのは、ちょっと緊張するな」
「今回は特別よ。きっと何かあったのね」
「セミナーでは一回あったんだけどなァ」
俺たちがそんなことを話すると、和泉がアラッと声を出した。
「日向君、あの人・・・・・・?」
「あれっ、久しぶりに見たなあ」
「ん? 誰のこと?」
俺も二人の見ている方を向いた。
そこには一人の女性がいた。
優しそうな顔をした20代後半ぐらいの人だ。
年上でも綺麗というより好感の持てるかわいらしい顔だ。
すでに結婚しているのか、指には指輪がはめられていた。ちょっとぽっちゃりしていて、そのせいかふくよかな胸に目が引きつけられてしまう。
大きい。
すごいよな、あれは・・・・・・。
「武蔵君、そんなにじろじろ見て、あの人のこと気に入ったの?」
和泉が責めるような口調でたずねてきた。
「い、いや。そういうわけじゃ・・・・・・」
「武蔵は年上好きらしいからなァ」
「ちょっと待て。誰がそんなこと言った?!」
「言ってただろォ。都リーダーに興味あるって」
「た、確かに言ったけど、誰でも年上がいいってわけじゃないぞ」
「ふーーん、そうなんだ」
何だろうか、妙に和泉の視線が痛い。
「そ、それはそうと一体誰なんだ?」
「神在月さんって言って、俺たちと何回か行動を共にしたことがあるんだ。最近では探索部隊勤務が多いせいか、こっちに来てなかったんだけど」
日向は普段と変わりなく答えた。
「へー、そうか」
俺は改めて神在月さんを見た。
なんか、どっかで見たことがあるような気がする。
どこだろう?
俺は漠然とそんな印象を受けた。
しかし、それが誰なのか見当がつかなかった。
「みんなリンクアップしてる? そろそろ始めてもいいかしら?」
都リーダーが黒板のあるステージ台で声を張り上げた。
「今回ガイストのみんなを召還したのは、敵の拠点が判明したからよ」
おおっ、と言うどよめきが起きた。
「ついに見つかったか」とか「やりやがったな」とか声が聞こえてくる。
「でも問題もあるわ。私たちの方も敵に見つけられた」
盛り上がっていた隊員の表情から喜びの色が消えた。
敵の拠点を見つけられても、こっちの本拠が見つかっては何にもならない。
「敵はこっちに向かって来ているわ。私たちガイストは緊急に何らかの対策を取らなければならない」
都リーダーが祈るように精神力を集中させた。
正面の黒板モニター画面がぼんやりと光った。
画面上の中央には円形の記号が浮かび上がり、そこを中心に均等の円が波紋のように広がっている画像が表示されている。
「ここの中心が愛ちゃんの夢と夢幻界の接続点の同調域よ。今回の任務は彼らをここに近づけないこと。詳しい状況は信濃さんに説明お願いするわ」
横に立っていた信濃さんが続けた。
「俺の索敵によって夢魔の群がシントニー付近に接近したことが分かった。このままではこの偽装は遅かれ早かれ見つけられてしまうだろう」
信濃さんは夢魔の形を模したマークを表示させた。時計にたとえると、九時のあたりから向かってきている。
「そこで、今回の作戦だ。奴らがこちらを見つける前に奇襲をかける。その要になるのがココだ」
都リーダーが新しい画像をイメージした。
そこには渦を巻いた巨大な円錐型の空洞があった。
「これが今回見つかった『キッペルの門』と呼ばれている場所だ。空間がくびれて狭い門のような空域になっている」
巨大な砂時計の上から砂が落ちるところを見おろしているような感じだ。
その砂が落ちるところに隙間がある。
この向こうからインプたちがやってくるのだろう。
「我々は夢幻界における地理を把握できていない。そのため、いくつか点在している念物を目標として移動することになる。それは敵も同じなため、戦略的重要地点にある念物は拠点になりうるということだ。そのため、ここで強襲をかける。『キッペルの門』を先に叩くことで、こちらの居場所を悟られることを防ぎ、夢魔に対して陽動を行う」
そう言うと信濃さんはいったん口を切って、隊員たちを見回した。
「俺の観る限り、調査部隊で夢魔に対して攻撃できるほどの能力を持っている者は、数人しかいない。『和泉』『日向』」
「はい!」
名指しされた二人はあわてて立ち上がった。
「この二人は調査部隊の中でも攻撃力に秀でているものとして、攻撃専門に特化する予定だ。後は追って指示する。二人を除き、それ以外の隊員は接続を解除して解散だ」
「了解です」
「了解」
和泉は引き締まった表情になり、日向は驚きつつも真剣な顔になった。
二人とも大したものだ。
それに比べて俺はまだまだ出番なしだろうな。
信濃さんの言葉を受けて、他の隊員たちが次々とリンクアウトして消えていく。
現実に戻っているのだろう。
俺も接続を切られるのを待っていたが、いつまで経ってもその様子がない。
「武蔵」
突然、信濃さんが俺の方を見て言った。
「はい」
「君も二人に続いてダイヴだ。君の能力は判明していないので、引き続きモニターする必要があるとの指示が出ている」
「わかりました」
「もうすぐしたら、出雲がノンレム睡眠期に入る。その間は船室で待機。ノンレム睡眠終了とともに作戦開始だ。君は彼らとともに戦況を見ておいてほしい」
俺たちはわかりました、と返答した後、カプリース号船室に移動した。
乗船するガイストには出発前まで待機するための個室が用意される。
ここであてがわれた部屋に移動し、次のサイクルのレム睡眠時まで休む。
俺の入った部屋は愛ちゃんの趣味満点だった。
小学生用のデスクはかわいいシールが貼られている。
カレンダーにはあちこち赤だ黄色だの蛍光ペンで書かれた予定が書き付けられていた。
ベッドにはかわいいクマのぬいぐるみが置いてある。
しかも、困ったことにベッドは愛ちゃん用のため、ちょっと小さい。
足が布団から出るし、頭から足先の長さに余裕がない。
「愛ちゃんらしいと言うか。まあ、夢なんだから気にしても仕方がないか」
俺はそう開き直ると窮屈なベッドに寝転がった。
夢の中なのに寝るのも変だが、俺の意識はゆっくりと薄れていった。
遠くで誰かがドアを叩いている音がする。
俺はぼんやりしながら、体を伸ばした。
手がベッドの板に当たった。何でこんなに狭いんだよ、とぼんやり思った。
何だかうるさいなあ、と次第に頭がはっきりしていく。
そうか。
俺は夢の中にいたんだ。
すると、これは愛ちゃんの夢で目覚めたとこか。
実際はまだ寝ているから、夢の夢から目覚めたことになる。
小説や映画などでありがちな夢か現実か分からなくなるシーンだな。
そんな訳ないだろ。
夢は夢なんだから、すぐ分かるはずじゃないかと普通の人は思うだろう。
だが、俺にとっては夢と現実の違いが、今でもトラウマになっている。
それはともかく、今ドアを叩いているのは誰だ?
俺は起きるとドアまで歩き、開けた。
無敵戦士の姿をした日向が、開けたドアを叩こうとしてバランスを崩して部屋に倒れ込んだ。
「いきなり開けるなよ。イメージが急に変わるから対処できないだろ!」
「日向かよ。すまんすまん。で、何のようだ?」
「集合の時間だよ。操縦室に集まれってさ」
「そうか。じゃあ、今から出る。それはそうと、日向」
「ん、なんだァ?」
「さっきの授業の時もその姿だろ。何で、いつもその格好なんだよ?」
日向は困ったように頭をかいた。
「この姿がここでのデフォなんだよ」
「他の格好が出来ない、とか?」
俺の質問に日向は不機嫌になった。
「いいだろォ、別に。このほうが気合い入るんだし。変に精神力に負担をかけて、よけいなものをイメージしなくて済む」
イメージするのが面倒くさいということらしい。
「さあ、行くぞ」
日向はそう言うと先頭に立って歩き出した。
俺も後に続いた。




