第14話 実技演習の時間
俺と日向がガイストになったことで、カプリース号での講習と実技の授業が新たに付け加えられた。
夢幻界での実践に備えて、俺たちがどこまで異世界で自分の能力を発揮できるかが試されることになる。
と、言ってもなあ、俺まだ自分にどんな能力があるかわかってないのだが……。
日向は前回のガイスト試験で自分の武器を剣にすると決めて練習してたみたいだから、後はそれを伸ばしていけばいい。
問題は俺だ。
俺が使えるような武器は何だろうか?
和泉の話からすると、武器使用にはかなりの経験とその武器に対するリアリティが感じられなければ、具現化することは難しいらしい。
俺もそれがわかっていたら、日向みたいに何か武器を持ってきたのに……。
俺はそのことを相談するために、都リーダーにアポを取った。
話題が夢幻界に関することなので、カプリース号での講習が終了後、リンクアウトせずに都リーダーが来るのを待っていたのだ。
一人でカプリース号の後部視聴覚教室で待っていると、ようやく都リーダーが姿を見せた。
「お待たせ」
そう言った都リーダーは、相変わらずの白黒の制服姿だ。
袴姿の和泉や、カラフルな無敵戦士衣装の日向と違って、コスプレ姿ではない。
まあ、コスプレと言うなら都リーダーの制服姿もけっこういいのだけど。
「今日は忙しいところをお呼び立てしてしまい、すみませんでした」
とりあえず礼を言っておこう。
うん、一応社会人を経験した者はこうでなくては。
「そんなに固くならなくてもいいのに。でも、やっぱり学生とは違うわね」
そうでしょ、そうでしょ。
ここは大人の付き合いってやつだ。
これで掴みはオッケーと。
「それで、質問は何?」
いきなり直球だな。
もう少し会話を楽しみたかったのに。
うーん、せっかちな。
まあ、いろいろ忙しい人だから、仕方がないよな。
俺は本題を切り出した。
「俺の能力についてお聞きしたいのですが、都リーダーはどう見ていますか?」
「武蔵君の能力ねえ……」
都リーダーは首を傾げて目を泳がせた。
「正直、私もどうアドバイスすべきか、困っているのよ」
ええっ、ちょっとそれはあまりに無責任なんじゃ。
俺の驚いた表情を読んだのか、都リーダーはあわてて手を振った。
「別に考えてないっていうわけじゃないのよ。ただ、武蔵君の場合、和泉さんや日向君とは能力の発現そのものが違うみたいなの」
「違うというと?」
「武蔵君はちょっと分類に当てはまりにくいのよ。攻撃にしても防御にしても」
「あの、何のことかわからないんですけど?」
俺の困惑した表情を見て、ごめんなさいね、説明不足で、とフォローを入れる。
いいですよ。
都リーダーのあせった戸惑い顔を見てるだけでも、俺は幸せになれます。
「ガイストは発現した能力によって主に三種類に分類されるの。和泉さんや日向君は攻撃特化型。特有の武器を使いこなし、その能力を生かし夢魔を倒す。次に防御型。これはカプリース号や能力者をサポートするもの。最後に索敵や分析型。敵の存在に気づいたり、周りの違和感などを感じ取れる能力よ」
「……俺はどこになりそうですか?」
「いちおう和泉さんの報告や船からの観察ログを参考にしたんだけどね。まだ、武蔵君の場合は判別がつきにくいのよ」
「和泉さんと協力して夢魔を倒したのだから、サポートじゃないんですか?」
「うーん……」
考え込んだきり動かない都リーダーは、やっと結論が出たのか、俺のほうを向いた。
「もう少し見てからのほうがはっきりすると思うの。今は保留ってことで」
「ええっ、それじゃ、何を練習していいのかわからないんですけど」
「ごめんね。しばらくは夢幻界に慣れることを念頭において訓練してほしいの」
そうは言われてもあまりに抽象的すぎるし、俺はどうしたらいいのだろう。
「武蔵君のことは信濃さんにも相談しているわ。その指示に従って。後はもう少ししたらこちらから連絡するわ」
「それじゃ、そういうことでお任せします」
「うん、任された」
そう言うと、都リーダーはいつものように安心させる笑顔を浮かべた。
この笑顔にだまされるんだけどなあ。
「次のダイヴでは演習の授業になると思うの。初めての実技だからマンツーマン授業よ。その時に詳しく説明するわ」
「了解しました」
結局、どうしたらいいのかわからずじまいだったな。
まあ、なるようになるでしょ。
都リーダーが言った通りに、次のダイヴでは俺と日向、和泉の三人だけがカプリース号に残された。
今回はこの三人だけで行うらしい。
教官は都リーダーと信濃さんだ。
俺たちはカプリース号のダイニングキッチンに集まった。
後で聞いたことだが、キッチンになっているのは俺たちがそろった時だけらしい。
他の人がそろった時はもっと真面目なブリッジ仕様だそうだ。
つまり、それだけ愛ちゃんがリラックスしているということだそうだ。
「そう考えるとこれってレアなんですか?」
「愛ちゃんは私たちのことを気に入っているのかもね」と都リーダーは楽しそうに答えた。
キッチンテーブルでみんなが集まって、これからのことについてのブリーフィングが始まった。
まずは信濃さんが俺たちを見回して、説明を始めた。
「夢幻界には『ねんぶつ』と言われるモノが存在する」
『ねんぶつ』って、なむあみだぶつとか、ぎゃ~てい、ぎゃ~てい、はらそうぎゃ~てい、とか祈るときに唱えるあれかな?
俺が怪訝な顔をしたのに気づいたか、信濃さんは話を続けた。
「勘違いしている者が若干名いると思うが、仏様でなく、品物の『物』の字を当てて『念物』だ。これは夢幻界用語で人が強い思念を残した場合、まれにその念が形になって夢幻界に残ることがある。これを『念物』と言い、想いが具現化したものだ。後悔、恨み、憎悪、嫉妬といった負のモノから、希望、喜び、幸福、慈悲、優しさといった素晴らしいモノもある」
初耳だった。
そもそも夢幻界に関する詳しい話は、これが最初なのだから当然なのだが。
「この『念物』は夢幻界に時おり見られる。言わば、夢幻界における星のようなものだ。その形は一定しておらず本当に星のようなもの、機械のようなもの、生物の死骸、人形みたいなもの、美しい女神の姿、自然など様々だ。これらには上陸する事ができ、何らかの助けを受けたり、貴重品が見つかったりすることもある。逆にトラブルに巻き込まれたり、命の危険にさらされる場合もある。対処には厳重な注意が必要だ」
俺は初めて聞く話に、真剣に聞き入っていた。
「今回の実技演習では、念物の一つ『恨みの川』に行くことになる」
「『恨みの川』って……」
さすがの日向もちょっと声が震えてるぞ。
どう考えても禍々しそうな印象しか浮かんでこない。
やっぱり出るんだろうか?
本当に念仏を唱える羽目になるかもしれん。
「『恨みの川』と言っても幽霊や亡霊の類は一切出ない。ただし、出るものは出る」
「どういう意味ですか?」
俺の問いに信濃さんがにやりと笑った。
「それは行ってみてのお楽しみだ」
やはり、そう来たか。
信濃さんの操縦でカプリース号は夢幻界を音もなく飛んだ。
俺は立ってモニターに写る夢幻界の光景を何気なく見ていた。
しかし、ここにいると時間や距離感がつかめないな。
すごいスピードで飛んでいるように感じるけど、実際にはどうなっているんだろう?
そもそも距離なんてここで正確に測れるんだろうか?
時間もそうだ。
ここには時計がない。
だから、何時なのかわからない。
リアルに戻って初めて6時間以上も寝ていたのかと思ったり、場合によっては1サイクル・90分だけのダイヴだったのに驚かされたり、その時によって違う。
だから、俺はあまり意識しないようにしていた。
和泉や都リーダーも気にしていないようだし。
そんなことを考えていたとき、モニターに不気味なモノが見えてきた。
なんじゃ、あれは……?
そこに写ったのは、宇宙を思わす暗い空間に浮かぶ白い川だ。
しかも川の両岸には小さい石がいっぱい落ちている。
この光景はどう見ても、賽の河原だな……。
日向の顔色も青ざめている。
和泉はすでに行ったことがあるのだろう。
仏頂面でその光景を見つめていた。
生きて帰れるのか、不安になってきた。




