第15話 実技演習開始
カプリース号は川から少し離れた地面の上に着陸した。
「船なのに川に着水しないんですね」
俺がそう言うと都リーダーが笑った。
「ちょっとあの上には降りられない訳があるのよ」
「で、そんなところで実技訓練ですかァ?」
日向の質問にもちょっと毒が入っている。
「気をつければ大丈夫。ちゃんと信濃さんの指示に従ってね」
そう言うと都リーダーは右手を振った。
嫌な予感しかしない…。
俺と日向がカプリース号から縄ばしごで降り立つと、反対側のはしごからは和泉と信濃さんが降りていた。
とりあえず、みんなが信濃さんのいる所に集まった。
「さて、訓練だが、まずは日向は武器を手にしてみてくれ」
指示通りに日向が念じると長剣バスタードソードが具現化した。
右手に持ち、軽く剣を振るう。
リアルでは鉄でできているので相当重いはずだが、夢幻界では重量を感じさせない。
やすやすと扱っているように見える。
「ほう。練習しているな」
腰に手を当てた信濃さんが、満足げに言った。
「はい。毎日のように持って歩いてますから。もう相棒みたいなものですよ」
確かに外に出る時も剣と一緒、飯食う時も剣と一緒、この分だと風呂まで一緒に入っているんじゃないかのラブラブぶりだ。
「なるほど、イメージも強化されるはずだ」
「そりゃ、もう。愛剣ですから。自分の手足みたいなものですよォ」
ほめられてちょっと調子に乗ってるな、日向のやつ。
「では、ちょっと試してみるか。日向、川に向かってみてくれ」
「は、はい、わかりました」
怪訝な顔の日向が川に近寄った。
川のそばには小石が多く転がっていて、水がゆるやかに流れている。
一見したところ何の異常もなさそうだ。
これといった生き物が潜んでいたり、川の中を泳いでいる気配は感じられない。
川まで行った日向は、周りを見回した。
「これでいいですか?」
「もっと、川のそばだ」
日向が川べりまで進んだ。その姿が水面に映っている。
「別に何の異常もありませんけどォ?」
日向がそう言った時だった。
水に写った日向の姿がぶれた。
ゆらりと動いたかと思うと、水面に写った日向が水から立ち上がったのだ。
そいつはゆっくりと後ろから日向に近寄ってくる。
「日向! 後ろ! 後ろ!」
「えっ、後ろって別に何も……」
振り返った日向は、目の前にもう一人の自分がいることに気づいた。
「な、な、なんじゃこりゃあァ?!」
大声で叫んだ。
「早くこっちへ逃げろ」
信濃さんの声に反応して、四つんばいになりながらも日向は必至でこっちに戻ってきた。
あわてて戻ってきた日向は真っ青な顔で信濃さんに文句を言った。
「こんなの聞いてませんよ!」
「戦闘ではどんなアクシデントがあるかわからん。いざっていうときにも冷静に対処するのが、一流の戦士だ」
「そりゃあ、そうですけどォ」
「まあ、腰を抜かして動けなくならないだけでもマシだ」
信濃さんはそう言うと、右手を下におろして合図をした。
それを見て和泉が弓で川から出て迫ってきているニセ日向を撃った。
矢が命中したとたんに、ニセ日向はバチャと音とともに崩れ落ちた。
あたりには水たまりだけが残っていた。
あっけにとられて俺と日向はニセ日向のなれの果てを見つめた。
「一打でもダメージを与えたら、このように元の水に戻る。だが、あんまり近寄り過ぎると、偽者によって川に引きずり込まれてしまう。だから誰ともなしに『呪いの川』と呼ぶようになったのさ」
まだ、呆然としている俺たちに、信濃さんは両手を強くたたいて注意を向けさせた。
「さあ、それじゃ。実技訓練開始だ。日向は離れたところから自分自身と打ち合いの練習だ」
「わ、わかりました」
日向は河原に走って行った。
「さてと武蔵、君はどうしたほうがいいかな」
日向さんは俺を見ると考え込んでいた。
「あのう、都リーダーは何と?」
「とりあえず話はしたのだが、まだ能力が判明していないので実技練習は後回しだ。君にはイメージトレーニングをしてもらう」
「イメージトレーニング、ですか?」
「そうだ。とりあえず、自分の思ったものを形にしてみろ」
「思ったものですか? なんでもいいんですか」
「ああ、変に指示するより君が思ったもののほうがやりやすいだろう」
「それじゃ、俺も武器を……」
俺は日向の剣を試しにイメージしてみた。
大きさと形は見ていたので、具体的に思い浮かべることができる。
後は質感だけど鉄だからかなり強いし重いはずだ。
これは鉄棒を例にイメージする。
あとはアニメなんかに出てくる剣の装飾なんかを元にすれば…。
俺はイメージを創り上げていく。
集中力と気力が高ぶるとともに俺の目の前にぼんやりした剣の姿が浮かび上がってきた。
まだまだ、もう少し力を込めてはっきりと。
俺はイメージから剣を浮かび上がらせて、それをそのまま取り出すように具現化しようとした。
さて、できあがったのは……。
俺の手には剣があった。
ただ、サイズが小さかった。
和泉の持っている短剣よりも小さい剣だ。
これでは、ちょっと。
「あの~、こんなん出ましたけど」
俺はおずおずと目の前にイメージしたものを出した。
信濃さんが複雑な顔をしている。
やっぱりだめだったか。
「うーん、確かに武器には違いないが、どうしたものか」
信濃さん、困っているよ。
まずかったか。
「ちょっと見せてくれ」
信濃さんは俺のミニサイズの剣を受け取った。
ミニというよりベイビーサイズだな。
「たしかに剣だ。材質も質感もしっかり鉄だな。ただ、これでは役に立たないだけで。だが……」
信濃さんはどうしたものかと考え込んでいる。
「あのう、どうでしょうか?」
「……君には何かイメージする力があるのは確かだが、まだどう伸ばすべきか俺にも判断がつかないのだ。とりあえずだな」
「はい」
「和泉か日向のそばについて、いろいろ教えてもらえ。夢幻界の活動を体験していけば、何かが見えてくるかもしれない」
「…は、はあ」
うーん、なんかさじを投げられた気分だ。
もう一度信濃さんを見ると、何か考え込んだ顔をしていた。
悪いなら悪い、いいならいいって言ってくれないと。
こういう中途半端なリアクションが一番困るんだけどな。
信濃さんのアドバイスもあって、俺は和泉か日向のサポートにつくことになった。
と言っても、日向は自分相手に戦っているので、協力できることは応援するぐらいだし・・・。
チア・ボーイの低い声の声援なんて、あまり嬉しくないよな。
だったら、むしろ和泉の側に行っておいた方がいいか。
そう思った俺は、和泉の隣に立った。
「何か手伝うことはないか?」
「別に。邪魔しないで見てて」
取りつく島もない。
そりゃないぜ、和泉さん。
さっきまでのやり取り見ていたでしょうが。
この行き場のない俺に愛の手を・・・。
仕方なく、日向の戦いぶりを見ながら和泉の様子をうかがうことにする。
日向は必死になって戦っているし、その様子を和泉は真剣に見ているから、何か口を挟むのもちょっと気兼ねする。
俺は黙って二人の様子を見ていた。
日向はこの水の妖怪(?)に手こずっていた。
自分のコピーみたいなものだから、実力も攻撃方法もほぼ同じ。
だから、攻撃してもうまく返してくるし、相手も弱点を狙ってくる。
「大丈夫かな。なんか押されているぞ」
「一撃で殺されることはないから、なんとかなるはず。もし危なくなったら、その時は私が何とかする」
確かに日向のクリーンヒットが一回でも決まれば元の水に戻るんだから、条件は圧倒的に日向の方が有利だ。
「しかし、単に水なのになんか強いな」
「水じゃないわ。相手は自分の影。この念物はその人の持つ意志の力を読みとり、その力を使って、中に引きずり込もうとする」
「そうなんだ。水みたいに見えるのに」
「きっと沼か小川で死んだ人の念が、他者を呼び込もうとしているのね」
そう考えると、けっこうホラーな話だな。
それにしても、全然ビビらずに平然とこんな話する和泉は、なかなか肝がすわっているというか。
ちょっと他の女の子みたいに、お化けぇー、キャーってのは想像つかないな。
「和泉さんはここへ来たことがあるの?」
「ええ。何度か。でも私はこの練習はしていない」
「どうして?」
「勝負にならないからよ。私なら一撃で片が付く」
確かに弓使いの和泉は、シュート1発ーっで元の水に返せるからな。
はなっから戦闘にならないか。
そう考えると飛び道具持っているのは、断然有利だ。
俺は改めて和泉のすごさを認識した。
「おりゃあああァ!」
いきなり気合いの入った一撃が、水妖怪の体に入ったかと思うと、ニセ日向ははじけた。
飛び散った水を全身に浴びて、日向はびしょぬれになってしまった。
「やったぜ! 倒したァ!」
「よし、次は一撃で相手の弱点を攻撃するように練習しろ。実戦では急所を狙わないと倒せないからな」
「は、はい!」
信濃さんの言葉を聞いて、日向はうなずき、川へと走っていった。
ちょっと緊張した表情を緩めた和泉は、ホッと息をついた。
「ご苦労さん」
俺のねぎらいの言葉に和泉は、ハッとした表情で改めて俺を見た。
「あ、ありがと」
和泉はちょっと照れた表情をした。
訓練中の凛々しい表情もいいが、ちょっと気がゆるんだときのあせった表情がプライベートな部分が表に出てきているので新鮮でいい。
こうしてみると、やっぱり高校生ではあるんだよな。
俺はふと思い立って、精神を集中させた。
あの色、あの形、そしてあの味。
俺の手には青いペットボトルのスポーツ飲料が、浮かんでいた。
よく飲んでいるから、イメージするのもそんなに難しくなかった。
後は味が再現されているかだが、こればっかりは飲んでみないと。
「和泉さん、これ」
俺の手に握られているスポーツドリンクを見て、和泉が驚いて俺をまじまじと見た。
「こ、これって?」
「俺が試しに創ってみた。どうぞ飲んでみて」
「いいの?」
「もちろん。初めてなので味は保証できないけど」
そう聞かされた和泉の顔が渋い表情になった。
「それって私が実験台ってこと?」
「俺が先に飲んで回したら、その・・・ちょっとまずいだろ」
「・・・・・・」
赤くなって戸惑っている和泉は、俺からスポーツドリンクを奪い取ると一気に飲んだ。
俺が見守るなか、和泉はペットボトルを完全にボトムアップして飲みきってしまった。
「・・・どうだった?」
和泉は俺をチラッと見ると言った。
「次からは●カリスエット風にして。あっちの方がよく飲んでいるから馴染みがあるの」
どうやら、うまくいったようらしい。
抜き打ち小テストより緊張した。




