第4章 日曜日の出来事
翌朝明るくなるとすぐに、恵美莉は三番刑事のマンションを出た。それは寝起きにもう一戦求められるのを避けたかったから。朝からいい天気だったが、恵美莉の表情は晴れない。
さすがに二晩連続の浮気に、良心が咎めているのだ。スマホに春樹から連絡が来ていたらどうしようかと心配して、その画面をまだ確認できずにいる。
(あああ、あたしダメなやつだな。お酒強いはずなのに、判断力はまともじゃないなぁ。でも西野君(三番刑事)も、あれだけ優しかったら仕方ないじゃない)
自宅に向かって歩き始めるも、朝帰りでは実家の両親もどう反応するか気がかり。しかも今日は日曜日、父親もいる。
(春樹君とこ行こうかな。そのほうがいいや。どうせ今日、コンクール出しに行くから、あたしは部屋で寝てられるし)
Uターンして、駅に向かって歩きながら、ぼーっと自分の変化について考えを巡らせた。
(最近、節操がなくなってきてるけど、それは中学から7年も付き合った颯介と別れた反動だわね。春樹君は淡白だし、物足りないのかな?)
プラモ作りに没頭する春樹のことを考えながら。
(いっそ、西野刑事に乗り換えよっかな。5歳も年上だけどな。・・・ヒデキさんなんか8歳上だから、まだ全然マシかな。・・・そんなこと言ったら桧垣先生は20歳以上離れてるし。・・・でも春樹君可愛いし、別れたくはない。・・・・・・一応連絡しとこ)
そう考えて、スマホのメッセージを確認した。
「あれー? またSMS来てる」
スマホを開くとそこに昨夜の続きで、ヒデキ・マスターからのメッセージが届いていた。春樹からのLINEメッセージはなかった。
SMS
ヒデキさん
09011XX56XX
[羽を伸ばすのもいいけど、たまには
俺んとこに羽を休めに来いよ]
20XX/12/09 23:27
(何? この自信。いい人だけど、女遊び激しいからね)
恵美莉は一瞬考えた。
(確かにヒデキさんはイケメンだわ。前に誘われた時は嬉しかったけど、今はそれほどでもないや。あたしが成長した証しよね)
駅に近づいて、コンビニに寄ってパンでも食べようか迷った挙句、春樹の部屋で一緒に食べるべきだと考えて、そのまま改札を通ると、ホームにはまだ照明が灯っていた。ベンチは冷え冷えなので、立ったまま電車を待った。そして何が食べたいか、春樹にLINEで確認してみることにした。まだきっと寝ているので、電話はやめておいた。
>菅生春樹
6:45[おはよう。起きてる?]
そのまま既読にならなかった。
(やっぱり寝てるのか。あたしも一緒に寝よう・・・あ、しまった着替えがない)
自分の着ている服が合コンの時のままだと気づいて、
(え、ヤバイかな。こんな気合の入った服のままじゃ。そりゃヤバイわね。時間が早すぎるから、家に帰ってないのがバレちゃう)
日曜日の朝早の車内は空いていた。座席に背中で座るように浅く腰掛け、だらしない格好でスマホを見た。ヒデキ・マスターのSMSは開いたままだった。
(忘れてた。削除する前に、一応こっちにも返信入れとこっと)
SMS
ヒデキさん
09011XX56XX
[ごめんなさい。
返信に気づいてませんでした]
✓20XX/12/10 6:47
(さてと、どうしようかな。みのりの家は実家だし、そこに泊まってきたってことにはできないだろうな。それに、みのりは春樹君ともよくしゃべるから、うっかりボロ出す危険も。みのりはおバカだから。・・・じゃ、やっぱり奈美のマンションがいいか。・・・いや待てよ。城西にあるマンションからじゃ、あたしの家に帰ったほうが近いのに、わざわざ春樹君ちに寄るのは不自然じゃないかしら)
電車はもう、大学の最寄り駅に到着しそうだ。恵美莉はコートの襟に、すっぽりと顎をうずめた状態で、向かいの窓の景色を見た。その時、コートの中の自分の匂いに気づいた。それは西野刑事がつけていたコロンの匂いだった。
(シャワー借りればよかった。春樹君が寝てる間に、こっそりシャワー浴びなくちゃ。それで全部誤魔化せるかなぁ? やっぱり行きにくいなぁ)
恵美莉は自分が、結構ヤバイ橋を渡ろうとしてることを認識した。
駅に着いて、春樹のワンルームマンションに向かう前に、コンビニでパンをいくつか買った。そしてその支払いの最中にスマホのバイブが、
( ( ((( Boooon ))) ) )
と、うなった。
(ヒデキさん? 春樹君? どっち?)
そう思って、店を出てすぐ確認すると、
SMS
ヒデキさん
09011XX56XX
[朝帰りか?やるな]
20XX/12/10 7:18
(そりゃそう思うでしょうね。昨日はその気もないのに、羽を伸ばすとかって言っちゃってたもん)
[早いですね。
もう起きてるんですか?]
✓20XX/12/10 7:19
[まだ寝てないんだ。
それよりそっちはどうしてた?]
20XX/12/10 7:20
[聞きたいですか?]
✓20XX/12/10 7:20
[電話してもいいか?]
20XX/12/10 7:20
[OKです]
✓20XX/12/10 7:21
ヒデキからの電話はすぐにかかってきた。恵美莉は歩きながらそれに出た。
「もしもし。おはよう。フフフフ」
[何が可笑しいんだ?]
「ええ? なんだか今、ヒデキさんと電話するのって変に思えて」
[浮気の後だからだな]
「へへへへへへ」
[お前、見かけに寄らずやるな]
「違うの。昨日は本当に家に帰るつもりだったんだから」
[羽伸ばすって話は?]
「あれはー。終電に乗っちゃったら、もう戻れないでしょ。だから捨て台詞のつもりだったのに」
[刑事がいなかったら、戻ってきてくれてた?]
「いや、それはねぇ」
[それはね~って、無いってことかよ]
「酔っぱらってたから分かんないですよ」
[昨日はどこで寝たん?]
「刑事さんのマンション」
[くっそー。俺を振ってそんなとこに行ってやがったのか]
「ごめん。っていうのも変ね」
[お前はもう、店の出入り禁止にする]
「ええー! それはやめてよ(笑)」
[俺はちょっと、ヤキモチ焼いてんだぞ]
「ヤキモチって。ハハハハ」
[マジで気になって、この店で寝れなかったんだ]
「・・・この店? ってことは、まだお店にいるの?」
[ああ毎日、事務所で仮眠してから帰る。お前は今どこ?]
「お店の前・・・」
駅の目と鼻の先。バーのあるビルの3階の窓が開いた。顔を見合わせる恵美莉とヒデキ。
(この状況で、素通りはできないわよね・・・)
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