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『世界が大変だけど、念のため備えていたら家族と生き残れました ~通信障害から始まる終末サバイバル~』  作者: バックドロップ
第四章 地域共同拠点編

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第58話 扉を開けるな



 遠くから聞こえた音に、悠真と美咲は同時に動きを止めた。


 コン。


 少し間を置いて、もう一度。


 コン、コン。


 硬い何かで、木の扉を叩いているような音だった。


「今の……」


 美咲が悠真の腕をつかむ。


「ああ」


 二人が縁側から居間へ戻ると、誠たちもすでに異変に気づいていた。


 英樹は窓のそばに立ち、カーテンの隙間から外の暗闇を確認している。恒一は左腕を吊ったまま立ち上がり、壁へ置かれた木刀に手を伸ばしていた。


「恒一さん」


 真由美の鋭い声が飛ぶ。


「動かないでください」


「いや、今の音はさすがに――」


「まだ何が起きたかも分かっていません」


 真由美は木刀へ伸びていた恒一の手を止めた。


「傷が開いたら、いざという時に本当に動けなくなります」


「今が、その『いざという時』じゃないんですか?」


「違います。今は、状況を確認する時です」


 恒一は納得していない顔をしていたが、しぶしぶ木刀から手を離した。


「音は南側からだった」


 誠が声を落とす。


「お前たちも聞いたか?」


「うん」


 悠真は頷いた。


「扉か、板みたいなものを叩いてた」


 居間にいた全員の表情が硬くなる。


 南側の住宅地。


 自衛隊が、小型人型生物の足跡を確認した場所と同じ方角だった。


「ゴブリンでしょうか」


 美咲が尋ねる。


「まだ決めつけない方がいい」


 誠は答えた。


「風で何かが揺れている可能性もある」


 そう言いながらも、声には警戒が滲んでいた。


 偶然にしては、音の間隔が不自然だった。


 風に煽られた看板や雨戸なら、もっと不規則に鳴るはずだ。


「外を見てくる」


 英樹がバールを手にする。


「駄目だよ」


 美咲が即座に止めた。


「お父さんまで何を言ってるの」


「見に行くとは言ってない。二階から確認するだけだ」


「弓を持ってるんだぞ」


 恒一が言う。


「窓から顔を出すのも危ない」


 大森たちの証言では、ゴブリンの中には簡素な弓を使う個体もいた。


 威力や射程は分からない。


 だが、窓の前へ無防備に立つべきではない。


「カーテンを全部閉めよう」


 誠が指示を出す。


「ランタンも、外から見えない場所へ移す」


 由紀と美咲がすぐに動く。


 テーブルの上に置いていたランタンを廊下側へ移し、光量を最低まで落とす。


 家の中が一気に暗くなった。


 窓の外は、それ以上に暗い。


 街灯も。


 家々の明かりも。


 車の走る光もない。


 世界全体が闇の中へ沈んでいるようだった。


「翔太は?」


 悠真が尋ねる。


「奥の部屋にいるわ」


 三浦恵が答えた。


 恵の背後から、不安そうな翔太が顔を覗かせている。


「悠真兄ちゃん」


「大丈夫だ」


 そう答えながらも、悠真は確かな根拠を持っていなかった。


「お母さんと一緒にいてくれ」


「僕も戦えるよ」


「戦わなくていい」


 悠真は翔太の目を見て、はっきりと言った。


「翔太の仕事は、お母さんから離れないことだ」


「でも……」


「それが一番大事なんだ」


 翔太は少し迷った後、小さく頷いた。


 恵が息子の肩を抱き、家の中央にある和室へ連れていく。


 窓が少なく、玄関や裏口から距離がある。


 何かが起きた場合、戦えない者たちはそこへ集まることになっていた。


 コン。


 再び音が鳴る。


 今度は先ほどより近く聞こえた。


 コン、コン。


 誰も声を出さない。


 音の後には、長い静寂が続いた。


「少し移動してるな」


 英樹が呟く。


「同じ家を叩いてる音じゃない」


「家を一軒ずつ調べてるってこと?」


 彩乃が金属棒を握る。


「その可能性はある」


 悠真は答えた。


 ゴブリンが何を考えているのかは分からない。


 だが、南町で確認された襲撃では、扉を叩いて住人を外へ誘い出したという。


 人の気配があるか確かめているのか。


 扉を叩けば、中から獲物が現れると学習したのか。


 高度な作戦ではなくても、狩りの方法として身につけている可能性があった。


「近所の人が出てきたら危ない」


 恒一が低い声で言う。


「知らせた方がいいんじゃないか」


「どうやって?」


 真由美が問い返す。


「外へ出て、一軒ずつ声を掛けるんですか?」


「それは……」


「私たちが襲われます」


 通信は使えない。


 大声を出せば、ゴブリンへ自分たちの位置を知らせることになる。


 近所を助けたい。


 だが、そのために家族全員を危険へ晒すことはできない。


 誰も答えを出せないまま、時間だけが過ぎていく。


 やがて。


 家の前の道路から、低いエンジン音が近づいてきた。


 全員が一斉に顔を上げる。


「車だ」


 英樹が窓から離れた位置で耳を澄ませる。


 一般の車とは違う、重い駆動音。


 光を抑えた車両が、ゆっくりと住宅地を進んでくる。


「自衛隊かもしれない」


 悠真が言った。


 直後。


 拡声器を通した声が、静かな住宅地へ響いた。


『周辺住民へ連絡します』


『小型人型生物の侵入痕跡が確認されました』


『扉や窓を叩く音がしても、絶対に外へ出ないでください』


 日本語。


 明確な文章。


 ゴブリンが真似できるようなものではない。


 それでも、誠はすぐに玄関を開けようとはしなかった。


『家の中で待機してください』


『窓から顔を出さないでください』


『自衛隊が周辺を巡回しています』


 車両は藤堂家の前で止まった。


 複数の足音。


 装備の擦れる音。


「藤堂さん!」


 玄関の外から声を掛けられる。


「自衛隊です! 高橋三曹の指示で警告に回っています!」


 誠は扉へ近づいたが、鍵には触れなかった。


「所属と名前をお願いします!」


「第○普通科連隊、高木士長です!」


 外の男が即座に答える。


「扉は開けなくて構いません!」


 誠は玄関扉から距離を取ったまま、会話を続ける。


「ゴブリンを確認したんですか?」


「姿は確認できていません!」


「南西の空き家周辺で、複数の足跡が見つかりました!」


「数は?」


「少なくとも四体です!」


 四体。


 大森たちを襲った群れの一部なのか。


 別の群れなのかは分からない。


「先ほどから、扉を叩くような音が聞こえています!」


 誠が伝える。


「こちらでも確認しています!」


「音のする方角へは絶対に向かわないでください!」


 玄関の外では、自衛隊員たちが周囲を警戒している。


 微かに無線の音も聞こえた。


「ホームセンターへは?」


 悠真が扉越しに尋ねる。


「別班が向かっています!」


「今夜は巡回を続けますが、すべての住宅へ隊員を配置することはできません!」


 当然だった。


 自衛隊にも限界がある。


 この家だけを守るために、部隊を残すことはできない。


「扉や窓を施錠してください!」


「人の声が聞こえても、すぐには開けないでください!」


「人の声?」


 英樹が反応する。


「ゴブリンが人間の言葉を話すんですか?」


「そのような報告はありません!」


 高木が答える。


「ですが、ゴブリンに追われた住民が助けを求めて来る可能性があります!」


「その後ろに敵がいる場合も考えてください!」


 人間の声そのものを疑えという意味ではない。


 助けを求める人間を追って、ゴブリンが接近している可能性がある。


「誰かが来たら、どうすれば?」


「扉を閉めたまま、名前と人数、負傷の有無を確認してください!」


「追跡されている場合は、中へ入れる前に物陰へ身を隠させてください!」


「可能なら、巡回車両へ知らせてください!」


 簡単ではない。


 扉の外に怪我人がいても、すぐには開けられない。


 助けるために開けた扉から、ゴブリンが押し入ってくるかもしれない。


「明朝、南町周辺の捜索を行います!」


「今夜は外へ出ないでください!」


「分かりました!」


 高木たちは次の家へ向かう。


 軽装甲機動車が再び動き始め、暗い道路をゆっくり進んでいった。


 拡声器の警告が、少しずつ遠ざかっていく。


 自衛隊が近くにいる。


 だが、それだけで安全になったわけではない。


 巡回車両が通り過ぎた後には、再び深い闇が残された。



「家の中を固めよう」


 誠が居間へ戻る。


「今夜は誰も外へ出ない」


「家も確認できないな」


 英樹が悔しそうに言う。


 朝倉家は藤堂家から車で数分ほど離れている。


 現在は家族全員が藤堂家へ集まっているため、向こうには誰もいない。


 家財を荒らされる可能性はある。


 だが、今から様子を見に行くわけにはいかなかった。


「家は直せるわ」


 由紀が夫へ言う。


「あなたが無事なら、また作り直せるでしょう」


「そうだな」


 英樹は短く答えた。


 今優先するべきなのは、空になった自宅ではない。


 ここにいる人間の命だ。


 英樹を中心に、家の防御を見直す。


 雨戸のある窓はすべて閉める。


 小さな窓には、室内側から板を立て掛ける。


 玄関には角材を渡し、扉が内側へ開かないよう補強する。


 裏口の前には棚を移動させた。


「窓を全部塞いだら、逃げ道がなくならない?」


 彩乃が尋ねる。


「二階の西側を残す」


 英樹は簡単な間取り図を指さす。


「裏手の屋根へ出られる。火を付けられた場合は、そこから隣の敷地へ移る」


「火を使うかもしれないの?」


 美咲が不安そうに尋ねる。


「分からない」


 英樹は正直に答えた。


「だが、相手は道具を使う。できないと決めつけるのは危険だ」


 家を守るだけでは足りない。


 破られた時。


 火が出た時。


 逃げる時。


 それぞれの動きを決めておく必要がある。


「見張りは二人一組にしよう」


 誠が言う。


「一人は外の音を聞く。もう一人は家の中を確認する」


「外へ出るのは禁止」


 美咲が続ける。


 視線は悠真へ向いていた。


「どうして俺を見るんだよ」


「一番勝手に行きそうだから」


「行かないよ」


「本当に?」


「約束したばかりだろ」


 悠真は、美咲へ《鑑定》の秘密を話した夜のことを思い出す。


 一人で決めない。


 危険なことも話す。


 そう約束した。


「心配でも、一人では行かない」


 悠真が改めて言うと、美咲はようやく頷いた。


「ならいい」


「武器も分けて置こう」


 恒一が壁にもたれながら口を挟む。


「玄関に全部集めたら、反対側から入られた時に使えない」


「居間、台所、二階だな」


 英樹が配置を決める。


 居間には悠真の金属バットと誠のハンマー。


 台所にはバールと長い柄の道具。


 二階には金属棒と木刀。


 子供が触れない高さへ置き、使う時にすぐ取れるようにする。


「恒一さんは、今夜も休んでください」


 真由美が言う。


「この状況で寝られると思います?」


「寝られなくても、横になってください」


「見張りくらいなら」


「駄目です」


「片腕は動きます」


「もう片方を悪化させたいんですか?」


「……分かりました」


 恒一が折れると、彩乃が小さく笑った。


「恒一先輩、魔獣よりお母さんの方が怖そう」


「否定できないな」


「聞こえていますよ」


 真由美の声に、二人は同時に口を閉じた。


 緊張の中に、わずかな笑いが生まれる。


 それだけでも、張り詰めていた呼吸が少しだけ楽になった。



 最初の見張りは、誠と英樹。


 次に悠真と彩乃。


 女性たちと翔太は、家の中央にある和室で休むことになった。


 ランタンは布で光を絞り、廊下の床近くに置く。


 外からは、ほとんど光が見えないはずだった。


 悠真は眠ることができず、居間の壁へ背を預けて座っていた。


 膝の上には金属バット。


 隣には美咲がいる。


「寝なくていいの?」


 悠真が小声で尋ねる。


「悠真も寝てないでしょ」


「次の見張りがあるから」


「だったら、なおさら休んだ方がいいよ」


「分かってるけど」


 目を閉じれば、外の音が余計に大きく聞こえる。


 遠くの犬の鳴き声。


 風に揺れる木の枝。


 どこかで物が倒れた音。


 そのすべてが、ゴブリンの気配に思えた。


「佐伯さんたち、大丈夫かな」


 美咲が呟く。


「ホームセンターなら、家よりは守りやすい」


「でも、今いる人だけで夜を守ってるんだよね」


「ああ」


 佐伯。


 田島一家。


 老夫婦。


 元警備員の老人。


 大森たち。


 人数は増えたが、戦いに慣れている者は少ない。


「明日になったら、必ず確認しに行こう」


「うん」


 美咲の手が、悠真の手へ重なる。


「今夜は行かない」


 先回りするように、悠真が言った。


「分かってるならいいの」


「信用ないな」


「今までの行動を振り返って」


 反論できなかった。


 悠真は苦笑しながら、美咲の手を握り返した。


 コン。


 二人の手に力が入る。


 今度の音は。


 遠くではなかった。


 家の正面。


 玄関の方向から聞こえた。


 コン。


 間を置いて。


 コン、コン。


 居間にいた誠と英樹も、同時に立ち上がる。


 誰も声を出さない。


 奥の和室から、由紀と恵が顔を出した。


 誠が人差し指を口元へ当てる。


 静かに。


 反応するな。


 玄関の外からは、人間の声が聞こえない。


 助けを求める言葉も。


 名前を呼ぶ声も。


 ただ、硬い物で扉を叩く音だけが続く。


 コン。


 コン。


 まるで、中に何かいるか確かめるように。


 悠真は玄関へ意識を向けた。


 扉と壁に遮られ、姿は見えない。


 それでも《鑑定》を使おうと集中する。


 視界に明確な情報は現れなかった。


 しかし。


 玄関のすぐ外。


 低い位置に、微かな魔素の反応がある。


 一つ。


 さらに、庭の塀の向こうにも。


 もう一つ。


「一匹じゃない」


 悠真は誠の耳元で囁いた。


 誠の表情が硬くなる。


「何匹だ?」


「正確には分からない。少なくとも二匹」


 玄関にいる一匹だけを見てはいけない。


 ほかの個体が、家の側面や裏へ回っている可能性がある。


 英樹はすぐに台所側へ移動する。


 彩乃も金属棒を持って後を追おうとしたが、誠が手で止めた。


 音を立てるな。


 まだ侵入されたわけではない。


 玄関の外で、何かが鳴いた。


「ギィ……」


 甲高く、喉が潰れたような声。


 人間のものではない。


 翔太が息を呑む音が聞こえた。


 恵が息子を抱き締める。


「ギャッ」


 別の方向から鳴き声が返る。


 会話なのか。


 合図なのか。


 分からない。


 ガリッ。


 玄関扉を引っ掻く音がした。


 続いて、取っ手が僅かに動く。


 ガチャ。


 ガチャガチャ。


 偶然触れたのではない。


 扉を開けようとしている。


 鍵の仕組みを理解しているのかは分からないが、取っ手を動かせば開くことは知っているらしい。


 悠真は金属バットを強く握った。


 扉を壊されれば戦うしかない。


 だが、今は動いてはいけない。


 家の中に人間がいると悟らせない方がいい。


 ガチャ。


 取っ手がもう一度動く。


 扉は開かない。


 内側から掛けた鍵と角材が、侵入を防いでいる。


「ギィッ」


 苛立ったような鳴き声。


 玄関を叩く音が強くなる。


 ドン。


 ドン。


 しかし、人間が体当たりするほどの力はない。


 ゴブリンの体は小さい。


 一匹だけなら、大人の人間より弱いという話も本当なのだろう。


 それでも。


 一匹ではない。


 闇に紛れ。


 家を囲み。


 中の人間が出てくるのを待っている。


 それが何より恐ろしかった。


 悠真の耳へ、微かな音が届いた。


 カリカリ。


 玄関ではない。


 家の北側。


 台所の窓付近から聞こえる。


 英樹も気づいたらしく、暗い廊下の奥から悠真へ合図を送る。


 裏にもいる。


 玄関の個体が音を出している間に、別の個体が侵入口を探している。


 偶然ではない。


 群れで狩りをしている。


 美咲が悠真の服を握った。


 怖いのだろう。


 だが、声は出さない。


 悠真も彼女の手へ触れた。


 大丈夫とは言えなかった。


 今はただ、静かに待つしかない。


 その時。


 遠くからエンジン音が聞こえた。


 巡回車両。


 玄関の外にいた何かが、急に鳴き声を上げる。


「ギャッ!」


 庭側からも、短い声が返った。


 小さな足音が一斉に動き出す。


 砂利を蹴り。


 塀の向こうへ走り。


 暗闇の中へ消えていく。


 直後。


 自衛隊車両の前照灯が、家の前の道路を照らした。


『周辺を捜索中です!』


『住民は外へ出ないでください!』


 拡声器の声。


 悠真たちは、それでも扉を開けなかった。


 しばらくして、玄関の外から自衛隊員が声を掛ける。


「藤堂さん!」


「家の前に小型人型生物の足跡があります!」


「内部に異常はありませんか!」


 誠が扉越しに答える。


「侵入はされていません!」


「玄関と家の裏側に、複数いました!」


「外へは出ないでください!」


「周辺を確認します!」


 迷彩服姿の隊員たちが、家の外を移動する音が聞こえる。


 数分後。


「少なくとも三体分の足跡を確認!」


「南側へ逃走した形跡があります!」


「追跡はしません!」


 夜間。


 住宅地。


 狭い道と家々の死角。


 そんな場所で追えば、待ち伏せを受ける危険がある。


「夜が明けるまで、扉は開けないでください!」


「分かりました!」


 自衛隊員たちは、しばらく藤堂家の周辺を警戒した後、再び巡回へ戻っていった。


 エンジン音が遠ざかる。


 家の中に、重い沈黙が残る。


「行ったの?」


 奥の部屋から、翔太が小さな声で尋ねた。


「今はな」


 英樹が答える。


「でも、朝までは油断できない」


 悠真は玄関扉を見つめた。


 外側には、石か刃物で付けられた細い傷が残っている。


 取っ手にも、泥の付いた小さな指の跡。


 ゴブリンは確かに、ここまで来た。


 藤堂家を見つけ。


 扉を叩き。


 入口を探した。


 今夜は、自衛隊の車両に驚いて逃げただけだ。


 次も同じように逃げるとは限らない。


「明日、ホームセンターへ移ることも考えた方がいいかもしれない」


 誠が言った。


「この家だけで守り続けるのは難しい」


 誰もすぐには答えなかった。


 家族が過ごしてきた家。


 悠真たちが、これまで守ってきた場所。


 ここを離れることは簡単ではない。


 だが。


 守るべき人が増え。


 敵が群れで動き始めた今。


 家族だけで閉じこもる生活には、限界が近づいていた。


 悠真は美咲の手を握ったまま、暗い玄関を見つめる。


 魔獣は、力で扉を壊そうとした。


 人間は、言葉や脅しで扉を開けさせようとした。


 そしてゴブリンは。


 中に人がいると知りながら。


 獲物が自分から出てくるまで、闇の中で静かに待っていた。


 今夜。


 扉を開けなかったことだけが。


 悠真たちと、外にいた異形を隔てていた。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

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皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


これからもよろしくお願いします。

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