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『世界が大変だけど、念のため備えていたら家族と生き残れました ~通信障害から始まる終末サバイバル~』  作者: バックドロップ
第三章 黒牙

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間話 魔素



 重苦しい沈黙が部屋を包む。


 やがて橘玲司が、ゆっくりと口を開いた。


「エレシア。」


「はい。」


「一つ、確認したいことがあります。」


 橘は真っ直ぐ彼女を見据える。


「魔素とは、一体何ですか。」


 その問いに、エレシアは少しだけ考えるように目を閉じた。


「難しい質問ですね。」


 広瀬はすぐに手帳を開く。


 エレシアは静かに話し始めた。


「あなた方は空気を説明できますか。」


 二人は顔を見合わせた。


「空気、ですか。」


「ええ。」


「普段、意識することはありません。」


「ですが、失えば生きていけない。」


「魔素も、それに近い存在です。」


 広瀬が尋ねる。


「生命維持に必要という意味ですか。」


「いいえ。」


 エレシアは首を横に振る。


「生命そのものではありません。」


「ですが、生物も植物も、大地も、川も、風も。」


「世界を構成するあらゆるものが魔素と関わっています。」


 広瀬は夢中で書き留めていく。


「つまり……。」


「エネルギー。」


 橘が呟く。


 エレシアは頷いた。


「その表現が一番近いでしょう。」


「魔素はエネルギーです。」


「ですが、それだけではありません。」


「生命であり、情報であり、世界を循環する流れでもあります。」


 広瀬の手が止まる。


「情報……?」


「ええ。」


「世界は魔素を通じて、多くの情報を記録しています。」


 その一言に、橘は僅かに眉を動かした。


「記録?」


「はい。」


「山も。」


「森も。」


「生き物も。」


「長い年月の中で、多くの情報を蓄えています。」


「それを読み取れる者もいます。」


 広瀬は興奮を抑えきれない。


「それは魔法ですか。」


「魔法だけではありません。」


「才能です。」


「資質です。」


「あるいは、世界に選ばれた者。」


 その言葉を聞きながら、橘は静かに考えていた。


 ――世界に選ばれた者。


 報告書の中にあった、名前が脳裏をよぎる。

 

 神崎 蓮司。

 

 朝倉 恒一。


 他にも能力者と言われている者達。


 まだ判明している者達は一部なのかもしれない。


 しかし、自分が見た黒牙事件の報告には不可解な点 が多すぎる。

 

 

 あの報告のグループやあの街の住人は、この異変に 適応してるのが早い。

 政府ですらまだ一部の情報を得た段階だ。

 それもこの前に居る麗しい少女が保護されたお蔭だ ろう。


 橘は思考を止め、再びエレシアを見る。


「魔素は利用できますか?」


 エレシアは少し笑った。


「やはり、その質問になりますか。」


「我々は国家ですから。」


 橘は迷いなく答える。


「全ての国民を守るためには、新しい力も理解しなければならない。」


 その返答に、エレシアは僅かに目を細めた。


「嫌いではありませんよ。」


「その考え方。」


 そして静かに続ける。


「魔素は何にでも利用できます。」


「照明。」


「暖房。」


「移動。」


「農業。」


「医療。」


「建築。」


「生活のほぼ全てに応用できます。」


 広瀬は思わず立ち上がりそうになる。


「そんなことが……。」


「ですが。」


 エレシアの声色が変わる。


「扱うには知識が必要です。」


「理解のない者が手を出せば、必ず悲劇が起きます。」


「魔法も。」


「魔道具も。」


「魔素炉も。」


「全て同じです。」


 橘は静かに問いかけた。


「では、我々人間にも扱える。」


 エレシアは数秒だけ沈黙した。


 そして、ゆっくり頷く。


「ええ。」


「恐らく。」


「あなた方の知能なら。」


「……いずれは。」


 その一言に、部屋の空気が変わる。


 橘の瞳に宿る光を、エレシアは見逃さなかった。


 この男は理解した。


 魔素は単なる災厄ではない。


 新しい文明を築く礎になり得ることを。


 だが、エレシアはその先を口にしない。


 魔素がどれほどの繁栄をもたらすか。


 同時に、どれほどの争いを生むか。


 それは、今話すべきことではないと考えていたからだ。


 広瀬は静かにノートを閉じた。


「今日は、これだけでも十分です。」


 エレシアは微笑む。


「ええ。」


「焦る必要はありません、また楽しいお話しをしたいわ。」


「対話とは、一日で終わるものではありませんから。」


 その言葉に、橘も小さく頷いた。


 彼らと異界との対話は、まだ始まったばかりだった。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

少しでも「おもしろかった」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

感想・レビュー・ブックマーク・評価などで応援していただけると、とても励みになります。


皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。

誤字脱字なども気づいた点があれば、遠慮なく教えてください。


これからもよろしくお願いします。

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