第43話 死角
歓声が、古びた廃工場を揺らした。
「総長、やっちまえ!」
「昨日の続きだ!」
「能力者同士の喧嘩なんて、滅多に見られねぇぞ!」
黒牙の男たちは、中央の作業区画を囲むように集まっていた。
錆びた鉄骨。
油で黒ずんだ床。
放置された機械。
その中心で、朝倉恒一と神崎蓮司が向かい合っている。
恒一は静かに呼吸を整えた。
身体のあちこちが痛む。
左腕には包帯。
脇腹には、昨日受けた膝蹴りの痛みが残っている。
普通なら、戦える状態ではない。
だが、魔素によって変質した身体は、本人が思っていた以上の速さで傷を回復させていた。
動ける。
拳も握れる。
足も前へ出る。
それでも、万全ではなかった。
「昨日より酷ぇ顔だな」
蓮司が笑った。
こちらも頬に痣を残し、唇が切れている。
だが、恒一と違って包帯すら巻いていない。
痛みを感じていないのか。
あるいは、感じていても気にしていないのか。
「そんな身体で俺に勝てると思ってんのか?」
「勝つ必要はない」
「あ?」
「お前を黙らせれば、それでいい」
恒一の言葉に、蓮司の眉がわずかに動いた。
「負け惜しみか?」
「昨日は人質を取らなきゃ、俺を倒せなかっただろ」
周囲の男たちから、小さなどよめきが起きる。
蓮司の笑みが薄くなった。
「黒田が余計なことしただけだ」
「だったら今日は邪魔させるな」
「俺とお前だけだ」
「どちらが上か、部下の前ではっきりさせろ」
挑発。
悠真に言われたとおりの言葉。
蓮司の自尊心を刺激する。
力を持つ者としての優越感。
恒一への執着。
昨日の決着がつかなかった苛立ち。
その全てを利用する。
蓮司は周囲を見回した。
自分を見つめる部下たち。
期待。
興奮。
自分が勝つと信じる目。
「いいぜ」
蓮司は拳を鳴らした。
「今日は誰にも手を出させねぇ」
「お前が立てなくなるまで、俺が直接やってやる」
歓声が一段と大きくなる。
恒一は構えた。
左足を前。
重心を落とす。
昨日のように倒そうとは考えない。
距離を取る。
追わせる。
時間を稼ぐ。
悠真が美咲と彩乃を見つけるまで。
何度殴られても、蓮司をここから離さない。
「始めるぞ」
蓮司が言った。
恒一は答えなかった。
次の瞬間。
蓮司の姿が、視界から消えた。
◇
工場の端で、誠は黒田拓海と向かい合っていた。
二人の間には、作業車から降ろされた物資が並んでいる。
黒牙が要求した量には遠く及ばない。
黒田は荷物を一つずつ確認し、困ったように笑った。
「随分と少ないですね」
「二人の無事を確認していません」
誠は答えた。
「こちらだけが要求へ従う理由はないでしょう」
「昨日、明日の正午までに全て持ってくるようお伝えしたはずですが」
「期限より早く来ました」
「こちらの誠意です」
「誠意、ですか」
黒田はポリタンクの蓋へ手を置いた。
「これが?」
「まず、美咲ちゃんと彩乃を連れてきてください」
「姿を確認したら、水場の情報について話します」
「残りの物資も運ぶ準備をする」
「順序が逆ですね」
黒田は眼鏡の位置を直す。
「あなた方は、要求へ従う側です」
「人質を取った相手の言葉を、そのまま信用しろと?」
「信用していただく必要はありません」
「従っていただければ十分です」
「なら交渉にはならない」
誠は、できるだけゆっくりと話した。
急いではいけない。
結論を出してはいけない。
相手へ考えさせる。
条件を一つ出し、反応を見る。
別の条件を重ねる。
黒田をここへ留める。
悠真が動く時間を稼ぐ。
「少なくとも、一人は先に返してください」
誠は言った。
「二人ともこちらに押さえたままでは、残りの物資を運ぶ者がいません」
「人手が必要だと?」
「家には怪我人と病人がいる」
「彩乃を返せば、運搬を手伝わせることができます」
「彩乃さんを?」
黒田の笑みがわずかに深くなった。
「それは難しいですね」
「なぜです?」
「彼女は総長のお気に入りですから」
誠の拳に力が入る。
だが、顔には出さない。
怒れば負ける。
黒田は、こちらが感情を乱すのを待っている。
「では、美咲ちゃんを」
「彼女は朝倉恒一さんを動かすための重要な交渉材料です」
「どちらも返せないということですか」
「条件を全て飲んでいただければ、考えます」
「それでは残りの物資は運べません」
「人を貸しましょう」
「黒牙の人間を家へ入れるつもりはない」
「困りましたね」
黒田は穏やかに笑っている。
声も変わらない。
だが、その目は誠の表情を細かく観察していた。
何に反応するか。
どこまで譲歩するか。
何を隠しているか。
誠も同じように、黒田を見ていた。
焦ってはいない。
悠真の潜入に気付いている様子もない。
正面へ集まった黒牙の男たち。
蓮司と恒一の戦い。
物資。
交渉。
今のところ、作戦は崩れていない。
遠くで、大きな衝突音が響いた。
黒牙の男たちが歓声を上げる。
誠は反射的に振り返りそうになるのを堪えた。
恒一君。
耐えてくれ。
悠真。
急いでくれ。
心の中で、二人の名を呼んだ。
◇
蓮司の拳が、恒一の頬を掠めた。
避けた。
完全には避け切れない。
皮膚が裂け、熱いものが頬を伝う。
恒一は反撃せず、すぐに距離を取った。
「何だ?」
蓮司が追う。
「昨日より逃げてばっかじゃねぇか!」
拳。
蹴り。
掴み。
蓮司は間を置かず攻め続ける。
恒一は身体を捌き、攻撃の軌道から外れる。
腕で受けない。
正面から力をぶつけない。
昨日、蓮司の一撃を受けた左腕には、まだ痛みが残っている。
同じ場所へ当たれば、動かなくなるかもしれない。
倒す必要はない。
時間を稼ぐ。
頭では理解している。
だが、蓮司の拳を避けるたびに、反撃できる隙が見えた。
顎。
脇腹。
膝。
空手家として身体へ染みついた感覚が、打てと訴える。
倒せる。
今なら入る。
その衝動を抑えなければならない。
「どうした!」
蓮司が叫ぶ。
「俺の下につくんじゃなかったのか!」
「負けたらな」
恒一は短く答える。
「なら、さっさと本気を出せ!」
蓮司が床に落ちていた鉄材を蹴り飛ばした。
金属片が恒一の顔へ飛ぶ。
恒一は上体を反らす。
視界が一瞬切れた。
蓮司が懐へ入る。
掴まれる。
恒一は腕を巻き込み、身体を回した。
投げる。
蓮司の巨体が床へ落ちる。
轟音。
歓声が止まった。
恒一は離れる。
追撃しない。
蓮司が床へ手をつき、ゆっくり起き上がった。
「……舐めてんのか?」
声が低くなる。
「何がだ」
「倒せる時に来ねぇ」
蓮司は笑っていなかった。
「俺を倒す気がねぇのか?」
「お前程度、急いで倒す必要がないだけだ」
再び挑発する。
蓮司の額に血管が浮いた。
「殺す」
狙いどおり。
怒れ。
自分だけを見ろ。
美咲たちのことを忘れろ。
恒一は構えを変えた。
蓮司が、獣のような声を上げて突進してきた。
◇
悠真は暗い廊下を進んでいた。
工場中央から響く歓声が、壁や天井を伝っている。
その音が大きいほど、足音を隠しやすい。
だが、同時に周囲の小さな音を聞き取りにくくなる。
悠真は数歩進むたびに止まり、《鑑定》を使った。
(《鑑定》)
⸻
【前方:人間反応なし】
【右側区画:人間反応三】
【左側区画:人間反応一】
⸻
右は避ける。
左に一人。
動いているか。
見張りか。
部屋にいるだけか。
詳細を確認する。
⸻
【対象:黒牙構成員】
【状態:睡眠】
【警戒:なし】
⸻
眠っている。
悠真は左側の扉から距離を取って通過する。
廊下の壁には、黒牙の落書き。
缶スプレーで描かれた文字。
黒い牙。
意味の分からない記号。
床には空の酒瓶と煙草の吸い殻が散乱している。
奥へ進むにつれ、匂いが変わった。
油。
煙草。
酒。
腐った食料。
そして。
獣の血。
鼻を刺す生臭さ。
開いた扉の向こうに、解体された魔犬の死骸が見えた。
皮を剥がれた肉。
血で汚れた刃物。
金属製の容器。
悠真の胃が縮む。
黒牙は、ここで魔獣を解体している。
蓮司が食べるためか。
他の人間にも試させているのか。
部屋の隅には、黒く変色した肉と、乾いた吐瀉物の跡があった。
長く見てはいけない。
今は二人を探す。
悠真は視線を戻した。
工場は想像以上に広い。
中央作業区画。
事務所。
資材置き場。
倉庫。
休憩室。
二階へ続く階段。
どこに美咲と彩乃がいる。
人質なら、見張りを置ける場所。
窓が少ない。
出入口が限定される。
黒田なら、逃げにくく管理しやすい部屋を選ぶ。
悠真は周囲へ意識を広げる。
(《鑑定》)
⸻
【確認範囲内:人間反応七】
⸻
一人ずつ見る。
男。
男。
男。
見張り。
休んでいる者。
負傷者。
さらに奥。
範囲が届かない。
悠真は廊下の角へ近付いた。
角の先に人影。
⸻
【対象:黒牙構成員】
【状態:警戒】
【武器:ナイフ】
【視線:中央作業区画】
⸻
見張り。
腰にナイフ。
中央の戦いが気になっている。
だが、先ほどの男より真面目らしい。
持ち場を離れていない。
この先を通らなければ、奥へ行けない。
別の道を探すか。
戻る。
時間がかかる。
恒一がどれだけ持つか分からない。
男の横には扉。
背後には積まれた木箱。
通路の幅は狭い。
気付かれずに横を抜けるのは難しい。
悠真は金属バットを見る。
見つかったら、人でも殴る。
そう決めた。
だが、まだ見つかっていない。
今ここで倒せば、倒れた音を誰かに聞かれるかもしれない。
男が消えれば、不審に思われる。
戦う前に、他の方法を探す。
足元。
空き缶。
小さなボルト。
悠真は腰を落とし、床に転がっていたボルトを拾った。
通路とは反対側。
開いた部屋の奥へ投げる。
カンッ。
金属音。
男が振り返った。
「誰だ?」
ナイフの柄へ手を掛け、音のした部屋へ近付く。
悠真は壁際に身体を寄せた。
男が通路から離れる。
一歩。
二歩。
「おい」
部屋を覗き込む。
今。
悠真は音を立てずに角を抜けた。
木箱の陰。
次の扉。
背後で男が悪態をつく。
「何だよ、紛らわしい」
気付かれていない。
悠真は息を吐かず、その場を離れた。
◇
廃工場から少し離れた、使われていない倉庫の二階。
英樹は割れた窓の隙間から、双眼鏡で工場を見ていた。
正門。
誠。
黒田。
中央へ集まる黒牙の男たち。
工場の側面。
悠真が入った鉄扉。
全てが完全に見えるわけではない。
建物や資材が視界を塞いでいる。
だが、外へ出る者がいれば分かる。
増援が来ても見える。
英樹は双眼鏡を動かした。
「恒一……」
工場中央。
蓮司の拳を避ける息子。
昨日の傷が残る身体。
それでも戦っている。
美咲のために。
彩乃のために。
さらに視線を移す。
裏手。
悠真の姿はもう見えない。
無事に中へ入れた。
そこから先は、信じるしかない。
英樹は無線機を握った。
軽々しく使えない。
音が出れば、悠真の位置を知らせる可能性がある。
必要な時だけ。
決めた合図だけ。
工場の別棟から、一人の男が出てきた。
中央ではなく、側面へ向かっている。
悠真が入った方向。
「まずい」
英樹は無線機の送信ボタンを、短く二度押した。
二回。
見張りの移動。
頼む。
気付いてくれ。
◇
悠真の腰で、無線機が小さく震えた。
一度。
間を置いて、もう一度。
二回。
見張りが動いた。
悠真は足を止めた。
どこから来る。
前。
後ろ。
横。
鑑定。
⸻
【接近中:人間一】
【位置:後方通路】
【状態:警戒】
⸻
先ほどの見張りではない。
別の人間がこちらへ向かっている。
廊下の左右。
一方は鍵の掛かった扉。
もう一方は、半開きの倉庫。
悠真は倉庫へ滑り込んだ。
中は暗い、古い棚やダンボールが散乱しているブルーシートで窓が塞がれている。
壁際へ身体を寄せる。
バットを両手で握る。
足音が近付く。
ゆっくり。
警戒している。
誰かを探しているのか。
巡回か。
「……。」
足音が倉庫の前で止まった。
悠真は息を止める。
扉の隙間から、人影が見えた。
若くて細身で黒いパーカー。
相沢直人。
悠真の指に力が入る。
直人は廊下の左右を確認した。
その視線が、半開きの扉へ向く。
目が合った。
直人の身体が固まる。
悠真も動かない。
声を上げられたら終わる。
バットを振る距離。
直人が息を吸う。
叫ぶ、その前に殴らなければならない。
だが。
直人は声を出さなかった。
視線を悠真から外し、廊下の奥へ向ける。
「誰かいたか?」
離れた場所から声がした。
直人は一瞬だけ迷い、それから答えた。
「いや」
「誰もいねぇ」
「そうか」
「総長の喧嘩が始まってんぞ。見に来いよ」
「後で行く」
足音が遠ざかる。
直人は、しばらく廊下を見つめていた。
誰もいなくなったことを確認し、倉庫の中へ入る。
扉を閉めない。
すぐ出られるよう、僅かに開けたままにする。
「何で来た?」
小さな声。
悠真はバットを下げなかった。
「二人を助けに来た」
「馬鹿か!」
「知ってる」
「ここに何人いると思ってんだ」
「確認できる範囲で十七人」
直人の眉が動く。
「何で分かる」
「答える必要はない」
悠真は直人を見る。
(《鑑定》)
⸻
【相沢 直人】
【状態:強い緊張】
【敵意:なし】
【葛藤:極大】
【目的:彩乃の保護】
⸻
敵意はない。
目的。
彩乃の保護。
以前よりも、はっきり表示されていた。
「美咲と彩乃はどこだ?」
悠真が聞く。
直人は答えない。
「時間がない!」
「恒一さんが蓮司を引きつけてる」
「父さんも黒田と話してる」
「今しかないんだ」
「お前が見つかったら、二人も危なくなる」
「見つからないように案内してくれ」
「俺に黒牙を裏切れって?」
「もう裏切ってるだろ?」
直人の表情が歪む。
「家が狙われてるって警告した」
「お前も彩乃を助けたいんだろ?」
「何で、、」
「今の反応で分かった」
半分は推測だった。
だが直人の顔が答えになった。
「中途半端なことをしてる場合じゃない」
悠真は声を抑えながらも、強く言った。
「彩乃を助けたいんだろ」
「……。」
「だったら場所を教えてくれ」
「俺は、、」
直人は拳を握る。
「総長に助けられた」
「その話は前に聞いた」
「簡単に捨てられないことも分かってる」
「でも、今は蓮司を捨てろって言ってるんじゃない」
悠真は一歩だけ近付く。
「彩乃と美咲を助けさせてくれ」
「それだけだ」
直人は俯いた。
工場中央から歓声が響く。
何かが倒れる音。
時間がない。
「……奥の資材倉庫」
直人が呟いた。
「何?」
「この廊下を真っ直ぐ行って、階段の手前を右」
「一番奥の鉄扉」
「見張りは?」
「今は二人」
「一人は喧嘩を見に行きたがってる」
「もう一人は真面目だ」
「鍵は?」
直人はポケットへ手を入れた。
小さな鍵束。
その中から一本を外す。
悠真へ差し出す。
「これだ」
悠真は受け取った。
「相沢」
「礼は言うな」
直人は顔を背ける。
「俺は何もしてない」
「見つかったら、俺に脅されたって言え」
「信じてもらえるか」
「お前を殴っておけば、信じるかもな」
悠真はバットを見た。
「本気で言ってる?」
「冗談だ」
直人は苦しそうに笑った。
「俺が見張りを一人、中央へ行かせる」
「もう一人は、お前が何とかしろ」
「殺すなよ」
「保証はできない」
直人が悠真を見る。
その目に、初めて明確な怒りが浮かぶ。
「殺すな」
「分かってる」
「でも、美咲や彩乃へ手を出したら」
悠真はバットを握る。
「その時は手加減できない」
直人は何も言わなかった。
否定もできなかった。
「少し待て」
直人が言う。
「俺が先に行く」
「見張りを動かす」
「五分後、廊下を真っ直ぐ」
「分かった」
直人は倉庫を出ようとした。
「相沢」
「何だ」
「一緒に逃げないか?」
直人の足が止まる。
「彩乃は、たぶん今でもそう思ってる」
「……。」
「二人を連れて出る時、一緒に来い」
直人は振り返らなかった。
「先に二人を助けろ」
「話はそれからだ」
そう言い残し、廊下へ出ていった。
◇
五分。
悠真には、異様に長く感じられた。
工場中央からは、恒一と蓮司が戦う音が続いている。
歓声。
怒号。
衝突音。
誠と黒田の声は、ここまでは聞こえない。
英樹からの無線もない。
悠真は腕時計を見た。
一分。
二分。
三分。
直人は戻らない、裏切られたか不安になり、黒田へ 報告しに行ったか。
鍵が偽物かもしれない、それでも進むしかない。
四分。
廊下の奥で声がした。
「総長、押してるぞ!」
「マジかよ!」
「お前も見てこいよ」
「でも、見張りが」
「俺が代わるって」
直人の声。
別の男の声。
「少しだけだぞ」
「分かってる」
足音が走っていく。
一人、移動した。
残る見張りは一人。
五分。
悠真は倉庫を出た。
廊下を進む。
階段の手前。
右。
奥に鉄扉。
人影が一つ。
直人はいない。
見張りの男が椅子へ座っている。
木刀を膝に置き、退屈そうに欠伸をしていた。
(《鑑定》)
⸻
【黒牙構成員】
【状態:警戒低下】
【武器:木刀/折り畳みナイフ】
【注意:中央作業区画へ偏向】
⸻
扉の向こう。
確認する。
(《鑑定》)
⸻
【室内:人間反応二】
⸻
心臓が強く鳴る。
さらに見る。
⸻
【藤堂 彩乃】
【状態:緊張/疲労軽度】
【負傷:なし】
【拘束:なし】
⸻
⸻
【朝倉 美咲】
【状態:強い不安/疲労軽度】
【首部:浅い切創】
【拘束:なし】
⸻
いた。
二人とも生きている。
大きな怪我もない。
悠真は無線機へ触れた。
送信ボタンを短く三回押す。
一回。
二回。
三回。
二人を発見。
外にいる家族へ、初めて送る希望の合図。
あとは、扉の前にいる一人を越えるだけだった。
悠真は青いグリップを握り直した。
見張りの背後。
静かに距離を詰める。
一歩。
もう一歩。
男は中央の歓声へ気を取られている。
あと三メートル。
二メートル。
悠真は影から飛び出した。
扉へ走る。
音を殺してノブを回す。
ゆっくり開く。
中へ滑り込む。
そして静かに閉めた。
薄暗い部屋。
壁際に二人の少女。
目が合う。
「悠真……?」
美咲の目から涙が溢れた。
彩乃は一瞬だけ呆然とし。
すぐ小さく笑った。
「……来てくれた。」
悠真は息を整えながら頷く。
「迎えに来た。」
「二人とも、帰ろう。」
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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皆さまの反応を参考に、今後の更新ペースや展開も調整していきたいと思っています。
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