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『世界が大変だけど、念のため備えていたら家族と生き残れました ~通信障害から始まる終末サバイバル~』  作者: バックドロップ
第三章 黒牙

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第24話 持ち帰ったもの



 作業車が藤堂家の門をくぐった瞬間、美咲が玄関から飛び出してきた。


「悠真!」


 その声に続いて、彩乃、由紀、真由美も姿を見せる。


 全員の顔に、安堵が浮かんでいた。


「ただいま。」


 悠真がそう言うと、美咲はほっと息を吐いた。


「遅い。」


「ごめん。」


「無事ならいいけど。」


 美咲は作業車の荷台を見て、目を丸くした。


「……何これ。」


「宝の山。」


 悠真が答えると、英樹が笑った。


「その通りだ。」


 荷台には、コンパネ、角材、金網、ロープ、薪、木炭、塩、種、肥料、雨水タンク、ポリタンクがぎっしり積まれていた。


 真由美が驚いたように呟く。


「よくこれだけ……。」


「佐伯店長のおかげ。」


 悠真は静かに言った。


「あの人、生きてたよ。」


「よかった……。」


 彩乃も小さく頷いた。



 休む間もなく荷下ろしが始まった。


 英樹が指示を出す。


「木材は庭の奥。」


「濡らすなよ。」


「薪と炭は屋根の下だ。」


「塩と調味料は家の中。」


「種と肥料は物置。」


 悠真、誠、彩乃、美咲が次々と荷物を運ぶ。


 由紀と真由美は室内で仕分けを担当した。


 誰も文句を言わない。


 全員が分かっていた。


 これはただの荷物ではない。


 命を繋ぐものだ。



 荷下ろしが終わった頃には、昼を少し過ぎていた。


 全員で簡単な昼食を取る。


 美咲が作ったおにぎりと、缶詰の味噌汁。


 味噌汁と言っても、少量の水で薄めに作ったものだった。


 それでも温かい汁物は、体だけでなく心まで落ち着かせた。


「塩が手に入ったのは大きいわね。」


 由紀が言った。


「料理にも使えるし、保存にも使える。」


 真由美も頷く。


「食事の味があるだけで、精神的にかなり違うわ。」


 誠はノートを開いた。


「今日から在庫管理を徹底しよう。」


「佐伯さんにも言われた。」


 悠真が口を開く。


「備蓄は、持っていることより管理できることが大事だって。」


 誠は静かに頷いた。


「まさにその通りだ。」



 午後。


 藤堂家のリビングにはホワイトボードが置かれた。


 誠が大きく文字を書く。


【食料】


【水】


【燃料】


【医療】


【資材】


【防衛】


「毎日、朝と夜に確認する。」


「誰が何を使ったかも書く。」


 彩乃が少し顔をしかめる。


「細かすぎない?」


「細かいくらいでちょうどいい。」


 誠は穏やかに答えた。


「今は買い足せない物ばかりだからな。」


 美咲がメモ帳を持つ。


「私、食料の記録やるよ。」


「料理する時に使う量も分かるし。」


 由紀が微笑む。


「じゃあ私と一緒にやりましょう。」


 真由美は医療品の箱を引き寄せる。


「薬は私が管理するわ。」


 英樹は工具箱を持ち上げた。


「資材と工具は俺だな。」


「防衛は?」


 彩乃が聞く。


 誠は少し考えてから言った。


「彩乃と悠真。」


「俺?」


 悠真が驚く。


「お前は魔獣の兆候に気付ける。」


「彩乃は動ける。」


「二人で見張りの基準を作ってくれ。」


 悠真は彩乃を見る。


 彩乃もこちらを見る。


「分かった。」


「任せて。」



 夕方まで、拠点強化が続いた。


 英樹は一階の掃き出し窓にコンパネを当て、外から見えないよう内側に固定していく。


「全部塞ぐと逃げ道がなくなる。」


 英樹は説明しながら作業した。


「だからここは下半分だけ補強。」


「上は内側から開けられるようにする。」


 悠真がコーススレッドを渡す。


「佐伯店長も同じこと言ってました。」


「あの店長、分かってるな。」


 英樹は笑う。


「もっと早くに会ってみたかった。」


「かなり癖ありますよ。」


「職人は大体そうだ。」


 ガガガガッ。


 インパクトドライバーの音が響く。


 大きな音だった。


 悠真は反射的に周囲を見た。


「音、大丈夫かな。」


 英樹も手を止める。


「日中だし、短時間なら仕方ない。」


「でも、連続で使うのはやめましょう。」


「ああ。」


 それ以降は、作業と停止を繰り返しながら進めた。



 庭では彩乃と美咲が金網を運んでいた。


「重っ。」


 美咲が顔をしかめる。


「無理しないで。」


 彩乃は軽々と持ち上げる。


「彩乃ちゃん、やっぱりすごいね。」


「空手部だから。」


「空手部って金網持つ競技だったっけ?」


「違うけど。」


 二人は少し笑った。


 その笑い声を聞いて、悠真は少し安心した。


 こういう時間がまだある。


 その事実が救いだった。



 日が傾き始めた頃。


 悠真は門の補強を確認していた。


 チェーン。


 南京錠。


 木材の噛ませ方。


 見れば、弱い部分が何となく分かる。


 鑑定というより、感覚に近い。


【門】


【強度:低】


【補強推奨】


【侵入阻止効果:限定的】


「……やっぱり低いか。」


 悠真が呟くと、後ろから彩乃が声を掛けた。


「何が?」


「この門。」


「あんまり強くない。」


「壊される?」


「魔獣なら多分。」


「人間なら?」


「道具があれば。」


 彩乃の顔が少し強張る。


「人間対策もいるんだね。」


「ああ。」


 悠真は門の向こうを見る。


 住宅街は静かだった。


 だが、昨日見た人影が頭から離れない。


「物資を持っているって知られたら、狙われるかもしれない。」


「前いた暴走族みたいなヤツら?」


「分からない。」


「でも、あーいうヤツらだけじゃない。」


 空腹になった普通の人間。


 水がなくなった家族。


 薬が必要な老人。


 その全員が敵になるとは思いたくない。


 でも、善意だけでは守れない。



 夜。


 全員で夕食を取った後、誠が新しいルールを発表した。


「夜間の外出は禁止。」


「門は日没前に施錠。」


「明かりは外へ漏らさない。」


「大きな音を立てない。」


「見張りは二人一組。」


「非常時はまず家族を起こす。」


 全員が頷いた。


 誠は続ける。


「それから、助けを求められた場合。」


 空気が少し変わる。


「その場で判断しない。」


「必ず全員で相談する。」


 真由美が少しだけ目を伏せた。


 看護師である彼女にとって、それは苦しいルールだった。


 だが、必要だった。


 誰かを助けることで、全員が危険になる可能性もある。


 英樹が低く言う。


「冷たいようだが、必要だな。」


 誠は頷いた。


「冷たい人間になるためじゃない。」


「限りある物資で皆で生き残るためだ。」



 その夜。


 悠真と彩乃が最初の見張りについた。


 二階の窓から外を見る。


 住宅街は暗い。


 どの家も明かりを消している。


 遠くで犬のような声がした。


 すぐに消える。


「お兄ちゃん。」


「ん?」


「佐伯店長、生きててよかったね。」


「ああ。」


「今度会える?」


「分からない。」


 悠真は窓の外を見つめた。


「でも、また行く。」


「その時は私も行く。」


「留守番は?」


「交代でいいでしょ。」


「頼もしいな。」


「当たり前。」


 彩乃は少しだけ笑った。


 その時。


 悠真の頭の奥で、微かな警告が鳴った。



《生命反応を確認》


対象:人間


数:二


距離:推定三十メートル


状態:観察中



 悠真は息を止めた。


「彩乃。」


「何?」


「外にいる。」


「魔獣?」


「違う。」


 悠真はカーテンの隙間から、道路の向こうを見た。


 暗闇の中。


 電柱の陰に、人影が二つあった。


 こちらを見ている。


 動かない。


 ただ、見ている。


 彩乃の拳が静かに握られる。


「誰?」


「分からない。」


 悠真は小さく呟いた。


「でも、たぶん……見られてる。」


 持ち帰った物資。


 補強された家。


 増えた人数。


 それらは安心をもたらすと同時に、外から見れば格好の標的でもあった。


 暗闇の中の人影は、しばらく藤堂家を見つめた後。


 音もなく、住宅街の闇へ消えていった。

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