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『世界が大変だけど、念のため備えていたら家族と生き残れました ~通信障害から始まる終末サバイバル~』  作者: バックドロップ
第二章 変わった世界

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第16話 帰路



 朝倉英樹が運転する白い作業車が、ゆっくりと住宅街を走る。


 荷台には工具や資材、発電機、保存食、水の入ったポリタンクが隙間なく積み込まれていた。


 その後ろを、自転車三台が一定の距離を保ちながら続く。


 先頭は藤堂悠真。


 中央に朝倉美咲。


 最後尾を藤堂誠が走る。


「飛ばしすぎるな。」


 誠の声が後ろから飛ぶ。


「美咲ちゃんのペースに合わせろ。」


「分かってる。」


 悠真は速度を少し落とした。


 クロスバイクならもっと速く走れる。


 だが今は誰一人欠けるわけにはいかない。


 美咲も必死にペダルを漕いでいた。


 普段の通学とは違う。


 前には荷物を積んだ作業車。


 後ろには誠。


 そして、自分たちは命を懸けて移動している。


 そんな緊張感が足を重くしていた。



 住宅街を抜け、小さな商店街へ入る。


 数日前まで賑わっていた通りは、人の気配がほとんどない。


 シャッターが閉まった店。


 割れたガラス。


 散乱した商品。


 道路脇には横転した軽自動車が放置されていた。


「酷い……。」


 美咲が呟く。


「昨日よりひどくなってる。」


 悠真も同じことを思っていた。


 ここへ来た時には、まだ店の形は残っていた。


 だが今は違う。


 略奪された店は骨組みだけになり、道路には燃えた跡まで残っている。


 たった一日で、町はさらに壊れていた。



 突然、前を走る作業車のブレーキランプが点灯した。


 キィッ。


 自転車組も急いで停止する。


「どうした?」


 誠が英樹へ声を掛ける。


 英樹は窓から顔を出した。


「道路が塞がってる。」


 前方には大型トラックが横転していた。


 積み荷が道路いっぱいに散乱している。


 通れそうにない。


「迂回するしかないな。」


 英樹はハンドルを切り、細い生活道路へ入っていく。


 悠真たちも後に続いた。



 生活道路へ入ると、空気が変わった。


 静かすぎる。


 風もない。


 鳥の声もしない。


 悠真は思わず速度を落とした。


 左腕が僅かに熱を持つ。


 嫌な感覚だった。


「……。」


 鑑定が勝手に反応する。


 しかし何も表示されない。


「どうした?」


 誠が聞く。


「何かいる気がする。」


「魔獣か?」


「分からない。」


 その時だった。


 ガシャン!!


 家の中から大きな音が響く。


 全員が反射的に身構えた。


 音がしたのは古い一軒家。


 二階の窓ガラスが割れ、中から黒い影が飛び出した。


 バサッ!!


「魔獣!」


 悠真が叫ぶ。


 黒い羽を持つ魔獣が一羽。


 そのまま空へ舞い上がる。


 だが、一羽だけではなかった。


 バサッ。


 バササッ。


 次々と飛び立つ。


「四……五……!」


 美咲の声が震える。


 レイブンクロウたちは旋回しながら、ゆっくりとこちらを見下ろしていた。


 そして一斉に鳴き始める。


 ギャアァァァッ!!


 その鳴き声は、何かを呼ぶようにも聞こえた。


「まずい!」


 悠真の鑑定が反応する。



【レイブンクロウ】


危険度:E


個体数:5


状態:威嚇


目的:仲間の召集



「英樹さん!」


 悠真は叫ぶ。


「止まらないでください!」


 英樹は即座にアクセルを踏み込む。


 作業車が加速する。


「美咲!」


「うん!」


 三人も必死にペダルを漕ぐ。


 頭上ではレイブンクロウが旋回を続けている。


 襲ってくる様子はない。


 だが、鳴き声は止まらなかった。


「何を呼んでるんだ……。」


 誠が空を見上げる。


 その答えはすぐに分かった。


 遠く。


 住宅街の向こう側から。


 ドン……


 ドン……


 地面が震えた。


 美咲が思わず自転車を止めそうになる。


「今の……何?」


 悠真の表情が強張る。


 鑑定は反応しない。


 反応しないということは、まだ遠い。


 それでも分かる。


 あの重い足音は、今までの魔獣とは違う。


「急ごう!」


 悠真が叫ぶ。


 その声に全員が頷いた。


 作業車と三台の自転車は速度を上げる。


 しかし、住宅街の向こうから響く足音は、一歩、また一歩と近付いてきていた。


 誰もまだ、その姿を見てはいない。


 だが、その存在だけで十分だった。


 町全体が静まり返っている理由を、悠真たちはようやく理解し始めていた。


 人も魔獣も、皆「あれ」を避けているのだ。

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