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『世界が大変だけど、念のため備えていたら家族と生き残れました ~通信障害から始まる終末サバイバル~』  作者: バックドロップ
第二章 変わった世界

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第17話 警告



 ドン――。


 再び地面が震えた。


 作業車のサスペンションが大きく揺れ、積み込まれた工具箱がガタガタと音を立てる。


「英樹さん、そのまま止まらないでください!」


 悠真が叫ぶ。


 先頭を走る朝倉家の作業車は速度を落とさず、住宅街の細い道路を進んでいく。


 悠真、美咲、そして誠も必死にペダルを踏み込んだ。


 次の瞬間だった。


 ズキン――。


 左腕の噛み傷が焼けるように熱くなる。


「っ……!」


 思わずハンドルを握る手に力が入る。


 そして今までにない強烈な耳鳴りが頭の中を貫いた。


 キィィィィン――。


 世界の音が遠ざかる。


 代わりに、無機質な声が脳内へ直接響いた。



《警告》


高危険度個体を確認。


解析不能。


危険度:測定不能。


戦闘を推奨しません。


直ちに離脱してください。


直ちに離脱してください。


直ちに離脱してください。



「……っ!」


 鑑定が初めて命令を下した。


 今までは対象の情報を教えてくれるだけだった。


 それが今回は違う。


 逃げろ。


 ただそれだけを繰り返している。


「悠真!」


 後ろから誠の声が飛ぶ。


「大丈夫か!」


「……大丈夫。」


 そう答えたものの、額からは冷や汗が流れていた。


 こんな反応は初めてだった。



 作業車が住宅街を抜け、小さな公園の脇へ差しかかる。


 その時だった。


 バキッ!!


 遠くで太い木が折れる音が響く。


 続いて、


 ゴォォォォン!!


 何か巨大なものが建物へぶつかるような衝撃音。


 美咲が思わず立ち止まりそうになる。


「今の音……。」


「見るな!」


 悠真が即座に叫ぶ。


「前だけ見て!」


「え?」


「お願いだから!」


 その必死な声に、美咲も誠も驚く。


 悠真は後ろを振り返らない。


 振り返ってはいけない気がした。


 いや、本能がそう告げていた。



 作業車の中。


 英樹もバックミラー越しに後方を見ようとしていた。


「英樹さん!」


 無線代わりに窓から悠真が叫ぶ。


「見ないでください!」


 英樹は悠真の表情を見た。


 顔色が真っ青だった。


 迷いなく前を向き直る。


「分かった!」


 英樹はアクセルを踏み込んだ。


 今は悠真を信じる。


 それだけだった。



 しかし。


 ドン……


 ドン……


 足音は確実に近付いている。


 住宅街全体が揺れる。


 電柱が軋み、屋根瓦がカタカタと震える。


 突然、道路脇から数頭の魔犬が飛び出してきた。


 だが、こちらへ向かってきたわけではない。


 逆だった。


 必死の形相で逃げている。


 さらに上空ではレイブンクロウの群れが一斉に飛び去っていく。


 動物も魔獣も、皆同じ方向へ逃げていた。


「魔獣が……逃げてる?」


 誠が信じられないという顔で呟く。


 悠真の背筋を冷たいものが走る。


 あの巨大な足音から逃げている。


 それだけで十分だった。



 やがて住宅街を抜けると、見慣れた景色が見えてきた。


「着いた!」


 誠が安堵の声を上げる。


 藤堂家まであと数百メートル。


 英樹は作業車を敷地へ滑り込ませた。


 母の真由美と妹の彩乃がすぐに飛び出してくる。


「無事だった!」


「お父さん!」


「美咲ちゃん!」


 再会を喜ぶ声が庭に響く。


 しかし、その空気を切り裂くように――


 ズシンッ!!


 遠くで地面が大きく揺れた。


 全員の動きが止まる。


 丘の向こう。


 住宅街の屋根より高く、黒い何かがほんの一瞬だけ姿を見せた。


 巨大な背中。


 山のような体躯。


 だが、その姿を認識する前に木々の向こうへ消えていく。


 誰も言葉を発することができなかった。


 悠真だけは静かに左腕を押さえる。


 脳裏には、まだ無機質な警告が鳴り響いていた。



《警告》


当該個体との接触は生存確率を著しく低下させます。


戦闘を禁止します。



 その日、藤堂家に集まった全員が理解した。


 この世界には、自分たちでは到底敵わない存在がいる。


 そして、その脅威は今も、この街のどこかを歩いているのだった。

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