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『世界が大変だけど、念のため備えていたら家族と生き残れました ~通信障害から始まる終末サバイバル~』  作者: バックドロップ
第二章 変わった世界

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第13話 幼馴染の家


 自衛隊の車列が見えなくなってからも、しばらく俺たちはその場を動かなかった。


 エンジン音が完全に聞こえなくなるまで耳を澄ませる。


 風が吹く。


 遠くでカラスが鳴く。


 それだけだ。


「行こう」


 父さんが静かに言った。


 俺は頷き、クロスバイクのペダルを踏み込む。


 ここから美咲の家までは、あと数分。


 見慣れた住宅街のはずなのに、今はまるで知らない町を走っているようだった。



 美咲の家へ近付くにつれ、町の様子が少し変わってきた。


 道路には放置された車が増えている。


 コンビニの前には、割れたガラスや空になった段ボールが散乱していた。


 入口の自動ドアは完全に破壊され、店内の棚はほとんど空になっている。


「……酷いな」


 父さんが小さく呟く。


 俺も思わず店内へ目を向けた。


 床には菓子の袋や飲み物の容器が散乱し、レジはひっくり返っていた。


 商品を探した跡というより、怒りに任せて壊したような荒れ方だった。


「略奪……」


 その言葉が自然と口から漏れる。


 ニュースで海外の映像として見ることはあった。


 でも、それが自分の住む町で起きている。


 その現実が胸に重くのしかかった。


 父さんは首を横に振る。


「食べ物を探した人もいただろう。でも……これは違うな」


 棚を蹴り倒し、必要以上に壊された店内。


 そこには空腹だけでは説明できない、人間の悪意が残っていた。



 さらに進むと、小さな交番が見えてきた。


 シャッターは閉まり、パトカーは一台もない。


 入口には張り紙が貼られていた。


 近付いて読む。


『緊急出動中』


『避難所または市役所へ』


 それだけだった。


 父さんがため息をつく。


「人が足りないんだろうな」


 警察も、自衛隊も、消防も。


 誰もが限界まで動いている。


 だから、この住宅街までは手が回らない。


 俺たちは自分たちで生き残るしかない。



 十分ほど走った頃だった。


 俺は急にブレーキを掛けた。


「止まって」


 父さんもすぐに自転車を止める。


「どうした?」


 俺は前方を見つめた。


 道路の真ん中。


 黒い染みのようなものが広がっている。


 近付いてみると、それは乾き始めた血だった。


 大量の血。


 その周囲には無数の爪痕。


 そして、何か大きなものを引きずった跡が道路の脇へ続いている。


 鑑定が反応する。


【大型魔獣】


【通過:一日前】


【危険:なし】


【現在は移動済み】


 ほっと息をつく。


「昨日の痕跡みたいだ」


「もういないのか?」


「たぶん」


 それでも気持ち悪かった。


 血の匂いがまだ残っている。


 普通なら一日もすればここまで強い臭いは残らない。


 魔素の影響なのか、それとも俺の嗅覚が変わったのか。


 どちらかは分からなかった。



 しばらく進むと、美咲の家が見えてきた。


 二階建ての一軒家。


 庭には小さな花壇。


 小学生の頃、一緒に植えたチューリップを思い出す。


 今は雑草が伸び始めていた。


 家の雨戸は閉まっている。


 玄関も閉まったままだ。


「静かだな……」


 父さんが周囲を見回す。


 近所の家も同じだった。


 誰も外へ出ていない。


 俺は自転車を降りる。


 心臓が速くなる。


 無事だろうか。


 それとも——。


「悠真」


 父さんが肩へ手を置く。


「落ち着け」


「……うん」


 玄関の前へ立つ。


 インターホンは押さない。


 電気が来ていない以上、鳴らない。


 俺はゆっくりとドアをノックした。


 コン。


 コン。


「美咲!」


 返事はない。


 もう一度。


「美咲! 俺だ! 悠真だ!」


 静かだった。


 風だけが吹く。


 胸が締め付けられる。


「留守か……?」


 父さんが小さく呟く。


 俺は諦めきれなかった。


 もう一度だけ、少し強く叩く。


「美咲!」


 数秒。


 何も聞こえない。


 やっぱり遅かったのか。


 そう思った、その時だった。


 カチャリ。


 家の奥から、小さな音がした。


 父さんと顔を見合わせる。


 続いて、足音。


 慎重な足取り。


 玄関へ近付いてくる。


「……誰?」


 聞き慣れた声だった。


 震えている。


 でも間違いない。


「美咲!」


「悠真……?」


 鍵が一つ外れる音。


 もう一つ。


 チェーンロックが外れる。


 ゆっくりと玄関が開いた。


 そこに立っていたのは、美咲だった。


 髪は少し乱れ、頬もやつれている。


 それでも、大きな瞳は昔と変わらなかった。


 数秒、お互い何も言えない。


 美咲の目に涙が浮かぶ。


「……本当に悠真?」


「ああ」


「生きてた……」


 その一言と同時に、美咲は泣き崩れた。


 俺は反射的に支えようと手を伸ばす。


 だが、その瞬間。


「悠真、待て!」


 父さんが俺の肩を掴んだ。


 俺は驚いて振り返る。


「どうした?」


 父さんは玄関の奥を見つめている。


 俺も視線を向けた。


 薄暗い廊下の先。


 人影があった。


 ゆっくりとこちらへ歩いてくる。


 俺の鑑定が反応する。


【人間】


【負傷】


【高熱】


【魔素侵食:初期】


 俺の背筋に冷たいものが走った。


 美咲の家族の誰かが、魔獣に襲われていた。

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