表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/11

第9章 同じ力、違う選択

夜の森は、異様な静けさに包まれていた。


風は止み、虫の音もない。


ただ――


「……感じるな」


ルクスが呟く。


空気が、歪んでいる。


まるでこの場所だけ、世界の“ルール”が狂っているような。


「ここが……」


フィアが小さく声を漏らす。


森の奥。


開けた空間。


そこにあったのは――


「……なんだ、これ」


エリシアが息を呑む。


地面に描かれた、巨大な紋様。


魔法陣のようで、違う。


もっと――直接的に“世界に干渉している”何か。


その中心に、一人の男が立っていた。


「やっと来たか」


振り返る。


黒い外套。

整った顔立ち。

そして――


どこか、ルクスに似た瞳。


「待っていたよ、“書き換える者”」


空気が、張り詰める。


「……お前か」


ルクスが一歩前に出る。


男は軽く笑った。


「自己紹介くらいしておこうか」


ゆっくりと一礼する。


「レオン・ヴァルディス。元・王立魔術学院の研究員だ」


エリシアの表情が変わる。


「学院の……?」


「そう。君たちが知らない“裏側”にいた人間だ」


その言い方に、ルクスの目が細くなる。


「で?」


「何してるか、だろ?」


レオンは楽しそうに続ける。


「見ての通りさ。“世界の最適化”だよ」


「最適化……?」


フィアが小さく呟く。


レオンは腕を広げた。


「この世界は、無駄が多すぎる」


魔物は中途半端に強く、人間は弱すぎる。

ルールは曖昧で、不完全。


「だから――整えてやってるんだ」


その言葉と同時に。


地面の紋様が、赤く光った。


――ドクン。


まるで心臓の鼓動のように。


「っ……!」


エリシアがよろめく。


空気が重い。


何かが、強制的に“書き換えられている”。


「これで分かるだろ?」


レオンの瞳が、ルクスを捉える。


「君と同じだよ、俺は」


沈黙。


それを破ったのは、ルクスだった。


「……違うな」


一言。


はっきりと。


レオンの笑みが、わずかに歪む。


「ほう?」


「同じ力でも、やってることが違う」


ルクスは一歩前に出る。


「お前は、“押し付けてる”」


自分の考えた“正しさ”を。


世界に、無理やり。


レオンは肩をすくめた。


「それの何が悪い?」


本気で分かっていない顔だった。


「正しいものを広げるのは、当然だろう?」


「違う」


ルクスは即答する。


「それは“支配”だ」


その言葉に、空気が一瞬凍る。


レオンの目から、笑みが消えた。


「……言うじゃないか」


低い声。


「じゃあ聞くが――お前は何をする?」


「俺は」


ルクスは、迷わず答える。


「必要なところだけ変える」


「曖昧だな」


「それでいい」


強く言い切る。


「全部決めるのは、俺じゃない」


その言葉に、フィアの目が少しだけ揺れた。


レオンは、静かにため息をついた。


「やれやれ……」


次の瞬間。


空気が、変わった。


「分かり合えると思ったんだがな」


赤い光が、一気に強まる。


「――実験はここまでだ」


ドクンッ!!


地面の紋様が、激しく脈動する。


その瞬間。


周囲の空間が、歪んだ。


木々がねじれ、地面が盛り上がる。


「なっ……!?」


エリシアが声を上げる。


「世界そのものを……!」


レオンが笑う。


「どうだ?これが“本気”だ」


空間の一部が、異様に圧縮される。


重力が狂う。


距離が歪む。


すべてが――


“都合よく再構築”されていく。


「ルクスさん……!」


フィアが叫ぶ。


だがルクスは、動じない。


むしろ――


「……なるほどな」


静かに、呟いた。


(ここまでやるか)


自分と同じ領域。


だが、その使い方は真逆。


「面白い」


小さく笑う。


そして――


「やるか」


一歩、踏み出した。


その瞬間。


世界が、ぶつかった。


見えない“ルール”同士が、衝突する。


空気が軋む。


光が歪む。


レオンの目が見開かれる。


「……は?」


「お前の“最適化”」


ルクスが言う。


「――無効化した」


静寂。


一瞬だけ、すべてが止まる。


「そんな……ありえない……!」


レオンの声が震える。


ルクスは、静かに続けた。


「お前の定義は、“一方的”すぎる」


だから――


「壊れやすい」


次の瞬間。


レオンの構築した空間が、音を立てて崩れた。


バキッ、と。


世界が、ひび割れるように。


「くっ……!」


レオンが後ずさる。


初めて、明確な“焦り”が浮かんだ。


「お前……何者だ……!」


その問いに。


ルクスは、少しだけ考えてから答えた。


「ただの、“書き換える者”だよ」


その言葉は、静かだった。


だが。


絶対的だった。


風が吹き抜ける。


歪んでいた空間が、元に戻っていく。


その中で。


レオンは、ゆっくりと笑った。


「……いい」


低く、楽しそうに。


「最高だ」


狂気すら混じった声。


「やっと見つけた。“対等な存在”を」


赤い光が、再び強まる。


「次で決めよう」


ルクスも、構えた。


「ああ」


短い一言。


その瞬間。


すべてが、張り詰める。


そして――


世界が、再び書き換わろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ