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第6章 届かなかった手

王都、アルカディア神殿。


高い天井に、静寂が満ちている。


その中で――


エリシア・ヴァルテリアは、ただ一人、祈りを捧げていた。


だが。


(……集中できない)


目を閉じても、浮かんでくるのは一つだけ。


灰色の髪の少年。


「……ルクス」


小さく、その名を呟く。


祈りの言葉は、途中で途切れた。


(どうして……)


何度も、何度も思う。


あの時。


どうして、もっと強く引き止めなかったのか。


どうして、“結果がすべて”なんて言葉に――納得してしまったのか。


「……私は」


拳を、ぎゅっと握る。


「何を、見ていたの……?」


努力を知っていた。


誰よりも頑張っていたことも。


それなのに。


最後に見たのは、“結果”だった。


(違う……違ったのに……)


その時だった。


コンコン、と扉が叩かれる。


「エリシア様、失礼いたします」


入ってきたのは、先日の騎士だった。


「……例の件、分かりました」


「本当ですか!?」


思わず立ち上がる。


その勢いに、騎士は少し驚いたようだった。


「はい。辺境の村で確認された“魔術師”ですが――」


一度、言葉を切る。


そして、慎重に続けた。


「魔物の“性質を変化させた”と証言されています」


その瞬間。


エリシアの中で、何かが確信に変わった。


(間違いない……)


そんな魔法、彼しかいない。


「場所は!?」


「すでに王都から部隊が向かっています」


「え……?」


一瞬、言葉の意味が理解できなかった。


「どういうことですか……?」


騎士は、少し言いづらそうに口を開く。


「対象は“危険存在”と判断されました」


「危険……?」


「はい。“魔物を操る可能性がある魔術師”として」


エリシアの顔から、血の気が引いた。


「そんな……違います!」


思わず叫ぶ。


「彼は、そんなことしません!」


だが騎士は、首を横に振る。


「報告は事実です。魔物が従っていたと」


「それは違うんです!あの人は――!」


言いかけて、止まる。


“あの人は何なのか”。


それを、彼女は――


「……知らない」


小さく、呟いた。


騎士が不思議そうに見る。


エリシアは、震える声で続けた。


「私……ルクスの魔法、ちゃんと理解したこと、一度もなくて……」


いつも隣にいたのに。


ずっと一緒にいたのに。


「……何も、知らないんです」


その事実が、胸を締めつける。


騎士は、少しだけ表情を和らげた。


「ですが、エリシア様。ご安心ください」


「……何がですか?」


「万が一危険であれば、排除されるだけです」


――その言葉で。


何かが、完全に切れた。


「やめてください!!」


部屋に、声が響く。


騎士が目を見開く。


エリシアは、涙を浮かべながら叫んだ。


「そんな言い方、しないでください!」


「エリシア様……」


「彼は……ルクスは……!」


言葉が詰まる。


でも、それでも絞り出す。


「私の、大切な人なんです……!」


静寂が落ちる。


涙が、一筋こぼれた。


「……追放された時、何もできなかった」


震える声。


「引き止めることも……信じることも……」


拳を強く握る。


「なのに今さら、“危険だから排除”なんて……」


ありえない。


そんなの――


「絶対に、嫌です……!」


騎士は、困ったように視線を逸らした。


だが、その表情にはわずかな迷いもあった。


「……命令は、すでに出ています」


「なら……!」


エリシアは顔を上げる。


涙で滲んだ瞳に、強い光が宿っていた。


「私も行きます」


「なっ……!?」


「彼を止めるのも、守るのも――」


一歩、踏み出す。


「私の役目です」


その言葉には、もう迷いはなかった。


一方、その頃。


辺境の村。


「お前を連行する」


騎士の言葉が、冷たく響く。


フィアがルクスの前に立とうとする。


「ま、待ってください!この人は――」


「下がれ」


鋭い一言で、空気が凍る。


ルクスは軽く手を上げた。


「いい、フィア」


「でも……!」


「大丈夫だ」


そう言って、一歩前に出る。


騎士たちと向き合う。


(さて)


王都は、動いた。


それも――かなり早い。


(エリシアも、知ることになるな)


あの時、何も言えなかった彼女。


その彼女が、この状況をどう見るのか。


ほんの少しだけ――


「興味はあるな」


ルクスは、静かに笑った。


「で?」


騎士を見据える。


「連行ってのは、拒否できるのか?」


その問いに、騎士は迷いなく答える。


「できない」


「そうか」


短く頷く。


そして――


「なら、断る」


空気が、一瞬で張り詰めた。


「……命令違反だぞ」


「知ってる」


それでも、ルクスは動じない。


むしろ。


ほんの少しだけ――


楽しそうにさえ見えた。


「俺はもう、あそこに縛られる理由がない」


その言葉に、どこか決定的な距離が滲む。


王都と。


そして――


エリシアとの。


「――悪いな」


ルクスは静かに告げた。


「もう、“従う側”じゃないんだ」

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