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第5章 広がる名、揺らぐ評価

オーガ討伐から、三日。


村はすっかり活気を取り戻していた。


壊れた柵は修復され、畑には人が戻り、子どもたちの笑い声が響く。


その中心にいるのは――


「ルクスさん!これ、今日の分です!」


フィアが抱えてきたのは、大きな籠いっぱいの果物だった。


「多いな」


「みんなからのお礼です」


少し照れながら言う。


ルクスは苦笑した。


「そこまでのことはしてないんだけどな」


「してます!」


即答だった。


「ルクスさんがいなかったら、村はどうなってたか……」


その言葉に、ルクスは何も返さなかった。


ただ、静かに果物を受け取る。


(……悪くない)


誰かに必要とされる感覚。


それは、王都では一度も得られなかったものだった。


「でも……」


フィアが少しだけ表情を曇らせる。


「まだ終わってない、ですよね?」


「ああ」


ルクスは頷く。


「オーガは“原因”じゃない」


むしろ、ただの“結果”だ。


あれを生み出した存在が、どこかにいる。


「森の奥、だよな」


フィアも小さく頷いた。


「赤い光が見えたっていう……」


「そこに行けば、何か分かるかもしれない」


だがその前に――


「準備が必要だな」


相手は、ただの魔物じゃない。


“世界のルールに干渉できる何か”だ。


(下手すれば、同類か)


その可能性が、頭をよぎる。


その頃――


王都、アルカディア。


白亜の神殿の一室。


「……見つからないのですか?」


静かな声が響く。


エリシア・ヴァルテリア。


彼女の表情は、以前よりも少しだけやつれていた。


向かいに座る騎士が、申し訳なさそうに頭を下げる。


「はい。学院を出た後の足取りが、完全に途切れており……」


「そう、ですか……」


エリシアは視線を落とした。


ルクスが追放されてから、三日。


彼女はずっと、彼の行方を探していた。


だが――見つからない。


(どうして……)


あの時、引き止められなかった。


何も言えなかった。


頭では理解していた。


“結果がすべて”という、この世界の価値観を。


けれど。


(本当に、それでよかったの……?)


胸の奥に、棘のような違和感が残っている。


「エリシア様」


騎士が、少しだけ声のトーンを変えた。


「もう一つ、ご報告が」


「……何ですか?」


「辺境の村で、“奇妙な魔術師”の噂が」


エリシアの瞳が、わずかに揺れる。


「奇妙……?」


「はい。魔物を“倒す”のではなく、“変えた”と」


その瞬間。


彼女の呼吸が、止まった。


「……詳しく、聞かせてください」


声が、わずかに震えている。


再び、辺境の村。


「ルクスさん、これ見てください!」


フィアが持ってきたのは、一枚の紙だった。


「なんだ?」


「行商人の人が持ってきたんです」


そこには、簡単な文字でこう書かれていた。


――“魔物を操る魔術師、現る”


「……随分な書かれようだな」


ルクスは苦笑する。


「でも、すごいです!」


フィアは少し興奮気味だった。


「もう他の村にも伝わってるってことですよね?」


「まあ、そういうことになるな」


噂は尾ひれがつくものだ。


“変えた”が、“操った”になっているあたり、すでに誤解されている。


だが――


(悪くない)


注目されること自体は、問題じゃない。


むしろ。


「情報が集まりやすくなる」


「え?」


「俺のことを知ってる奴が増えれば、その分“向こう”も動く」


「向こう……?」


フィアが首を傾げる。


ルクスは少しだけ目を細めた。


「この騒ぎを起こしてるやつだ」


オーガを作り、魔物を狂わせた存在。


それが、自分の存在に気づけば――


「接触してくる可能性がある」


「それって……危なくないですか?」


「危ないな」


あっさりと言う。


だが、その表情に恐れはない。


むしろ――


「だからいい」


フィアは一瞬、言葉を失った。


「ルクスさんって……」


「ん?」


「やっぱり、普通じゃないですね」


くすっと笑う。


ルクスも肩をすくめた。


「よく言われる」


その時だった。


村の入り口の方が、少し騒がしくなる。


「……誰か来たな」


振り向くと、見慣れない装備の一団が立っていた。


鎧に、王都の紋章。


「王都の……騎士?」


フィアが小さく呟く。


その中心にいる人物が、一歩前に出る。


「この村に、“特殊な魔術師”がいると聞いた」


鋭い視線が、周囲を見渡す。


そして――


ルクスで止まった。


「……お前か?」


空気が、張り詰める。


村人たちが息を呑む。


ルクスは、ゆっくりと一歩前に出た。


「だったら、どうする?」


騎士の男は、わずかに口元を歪める。


「王都の命令だ」


その一言で、空気が凍りついた。


「お前を――連行する」


フィアの顔が、青ざめる。


(動いたか)


ルクスは内心で呟いた。


噂は、もう王都に届いている。


そして――


(やっぱり、来たな)


“向こう側”が。


静かな緊張の中で、ルクスは小さく笑った。


「――さて、どうするか」

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