103:「これからもよろしく」
意地悪で鬼のような一面も、優しくて繊細なところも、いいところも悪いところも全部ひっくるめて、わたしはアンディが好き。いつの間にか、アンディのことが好きになっていた。
だから……レナちゃんにも、アンディのことを譲りたくなかった。
自覚したら、すとんと足りなかったピースがはまるかのように、スッキリとした。
もやもやしていた霧が晴れたかのような、ずっと歯に挟まっていたものが取れたような、そんな爽快感。
ああ、でも……もう、アンディの傍にはいられない。
やっと自覚できたのに……気付くのが遅すぎた。
「……君を妃候補から外す」
ボソリと言ったアンディの言葉に震えた。
予想していた言葉。だから、大丈夫。胸が張り裂けそうに痛むけれど、笑ってわかったと言わなくちゃ。
アンディから離れてそう言おうとしたのに、なぜか逆に彼の腕の力は強くなって、離してくれない。
「……そう言うのが、きっと正しいんだろうね。でも……僕は……」
アンディは口にするのを躊躇うように一度口を閉ざす。
「でも僕には──君が必要なんだ」
囁くように、少し掠れた声音で、でも、その言葉はしっかりとわたしの耳に届いた。
必要って言ってくれた。それがすごく嬉しくて……涙が溢れた。
おかしいな……わたし、涙もろい方ではないはずなのに。
「君のことをなんとかしてあげられるとは言えない。でも、君さえ良ければ、どうかこのまま僕の傍にいてほしい」
「アンディ……わたし……一緒にいて、いいの……? いつ魔力が暴発するかわからないのよ……?」
「覚悟はしている。それでも、君と一緒にいたいんだ」
「……っ、あ……」
ありがとうって言いたかったのに、言葉にならなかった。
わたしの口から漏れるのは、情けない嗚咽だけだった。
心が、不安と、嬉しさとで、ごっちゃになっている。
でも……今だけは。好きな人に「一緒にいたい」って言ってもらえた喜びに浸りたいと思った。
少しして落ち着いたわたしは、改めてアンディと向かい合った。
目も鼻も泣いたせいで赤くなっていて、情けない顔をしているかもしれない……ということは一旦忘れようと思う。
「確認だけど……君の溢れた魔力をリックが使うことによって、暴発を防ごうとしていたんだね?」
「ええ、そうリックは言っていたわ」
もっとも、それも時間稼ぎ程度の効果しないみたいだけれど……。
でも、それでもやるのとやらないのでは大きな違いだと思う。
「一週間近くリックと会えていない……つまり、わたしの魔力はどんどん溜まっているのだと思う。自分ではよくわからないのだけれど……」
わたしにかけられた呪詛は、魔力の通り道を狭めるもの。病気でいうと、血栓のようなものだ。血栓で塞がれた血管は膨張していく。それが破裂すると命に関わる。それの魔力版という感じなのだと思う。
……あれ? そういえば、呪詛のことって誰にも言えなかったはずなのに、どうして今は言えるんだろう? 呪詛のことに関して言えないということを、今まで忘れていたこともおかしい。
アンディに言わなかったのはただ知られたくなかったからだけれど、ディランやレナちゃんにも相談しなかったのは、そもそもできなかったからだ。わたしの魔力のことに気づいてくれた二人には相談しようとしたんだけれど……言葉が出なくて泣く泣く諦めたのに……。
「自分ではわからないっていうのが怖いね。普通の魔力暴走だと、前兆があるものだけど」
「前兆?」
「兄上のときもそうだったけれど……魔力暴走を起こす前って、精神的に不安定になっていることが多い。それが影響して魔法にブレができる……普段は簡単にできた魔法が使えなくなったり、魔法の威力操作が下手になっていたりね。そういうのが続くんだよ」
へえ、そうだったんだ。知らなかった。
わたしには関係のない話だと、聞き流していただけかもしれないけれど。
「……とにかく、まずはリックを探そう。レベッカ、君ならリックの居場所がわかるでしょう? 今日はゆっくり休んで、明日、調子がよかったら調べてほしい」
「わかったわ」
ヴァーリックのことはわたしも気になっていたし、なにより自分のためにも居場所を突き止めなくちゃ。
「それじゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい」
そう言って自分の部屋に戻ろうと歩き出したアンディを、わたしは呼び止める。
言わないといけないことがあると、思い出したから。
「アンディ」
「どうかした?」
アンディは不思議そうな顔をして振り向く。
「いろいろ、ありがとう。これからもよろしくお願いいたします」
そうお辞儀をしたわたしにアンディは驚いた顔をして、優しく微笑む。
「──こちらこそ。これからもよろしく」




