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104:乱入者


 ──昔の夢を見た。


 わたしの家は商店街にあった。

 その商店街を取り潰して、大きなショッピングモールを作る計画が立てられた。

 しかし、商店街の人たちは大反発。それは当然だ。何代も続くお店が多かったし、最近は高齢化が進んで客足が遠のいてきていたとはいえ、まだそれなりに繁盛ている商店街だった。


 でも──大きな力には、小さな商店街では太刀打ちできなかったのだ。


 うちのお店は、近所の人たちの憩いの場所として賑わっていた。

 毎日のささやかな愚痴を互いに言い合い、励ましあったり笑い飛ばしたりして、笑顔の絶えないお店だった。


 しかし、ある日を境に、常連さんたちの足が遠のいた。

 商店街のほとんどのお店は圧力に負けてショッピングモール建設に同意した。けれど、両親は抗い続けた。その結果がこれだ。


 どんどん苦しくなっていくお店の経営状況。それを助けるかのようにショッピングモール建設を計画した企業から援助が申し出られ──その代わりに、ショッピングモール建設に同意しろと言ってきた。


 それでも、両親は首を縦に振らなかった。代々受け継いだ店を自分たちの代でなくすわけにはいかない、と。

 なんとか自分たちだけで、と二人とも一生懸命考え、働いた。もちろんわたしも手伝った。

 その成果、少しずつお客さんが戻ってきた。


 ああ、これならなんとかなる──そう思った矢先だった。

 あの、火事が起きたのは。


 店は全焼。仕込みをしていた両親もそれに巻き込まれてしまい、助かったのは学校に行っていたわたしだけ。出火の原因は店のコンロだと言う。両親の火の不始末による事故──そう、結論づけられた。


 突然、ひとりぼっちになってしまったわたしは途方に暮れた。

 当時は学生で、なにをどうしたらいいのかもわからない。幸い、母方の祖父母が手伝ってくれたから、無事に両親を送り出すことができた。


 わたしは母方の祖父母に引き取られることになった。


 あれは両親の四十九日の法要のときだった。

 わたしは聞いてしまったのだ、祖父母の会話を。


 ──あの会社に逆らうからこんなことに……。だから従いなさいってあれほど言ったのに……。

 ──近所の人の話じゃ、あのとき不審な男がいたとか……きっとあの会社の回し者が……。

 ──そんな恐ろしいこと言わないでちょうだい! 私たちまで巻き込まれたらどうするの!


 その会話を聞いて、ああ、そうだったんだ、と納得した。

 火の扱いには気をつけていた両親が、あんな火事を起こすなんておかしいと思っていた。

 両親は、ショッピングモール建設の犠牲になったんだ。そう考えると、腑に落ちた。


 そのとき、わたしの心に復讐の炎が宿ったのを、確かに感じた。




**********




「どう、レベッカ? リックの居場所はわかった?」


 そう問いかけるアンディにわたしは首を横に振る。

 行方不明になったヴァーリックの居場所を確かめようと、ヴァーリックとの繋がり……パスのようなものを辿ってみた。けれど、結果は上手くいかず……でも、ヴァーリックが無事であることはわかった。


 どうしてわからないんだろう……? 居場所がわからなくなるということがなかったから、今までヴァーリックの居場所を突き止めようとしたことがなかった。それが仇になったのか……それとも、わたしがポンコツなせい……?

 ……どうしよう。ポンコツなせいな気がしてきた……。


「そう……レベッカがわからないとなると……お手上げかな……」


 沈んだ声を出すアンディにわたしも同様にどんよりとした気持ちになる。

 ヴァーリックはどこへ行ってしまったんだろう……。


「そもそも、君を攫った理由もよくわからない。こんな遠いところに攫ったわりにはあっさりと返すし、なにが目的なのか……」


 それはわたしも疑問に思うところだ。

 なにか理由はあるはず。でも、その理由がまったく思い当たらない。


「レベッカ、なにか変わったことはない?」

「変わったこと?」

「たとえば……魔法が使いにくくなったとか、その逆とか。または……なにか記憶が抜けているとか」


 魔法が使いにくくなったという感じも、その逆もない。

 記憶に関しては……やっぱり呪詛のことかな。

 アンディにわたしの呪詛のことを言うまで、呪詛のことを他人に言えなかったということを忘れていた。

 そんな大事なことを忘れるとは思えないんだよね……。


「あのね、アンディ……実はわたしの呪詛のことって、他の人に言えなかったの」

「……どういう意味?」

「アンディに言うまで忘れていたんだけど……前に、ディランさんやレナさんに相談しようとしたことがあるの。でも、言えなかった……言おうとしても言葉が出てこなかったの」

「じゃあ、なんで僕には……?」

「わからない……でも、他の人に言えなかったということを、アンディに言うまで忘れていたわ。変わったことがあるといえばそれくらいだと思う」

「どういうことなんだ……?」


 アンディは眉間に皺を寄せた。

 考えられるとすれば……あの屋敷になんらかの魔法がかけられていた、とか。その魔法の作用でわたしの呪詛に関する一部の制約みたいなものが緩んだ……とか、そういうことなのではないだろうか。

 たとえば、あの屋敷が特殊な場になっていて、そういう複雑な魔法を施すのに適するようになっていた。


 ……うーん、考えすぎかな。そもそも、わたしのこの呪詛のことだって、ヴァーリック以外は知らないはずだ。あ、ジャックは未来視でわたしがどうなるかは知っていたかもしれないけれど、具体的なことは知らないはず。

 だから、悪魔教が知りようがないはずなんだ。きっとわたしの考えすぎだな。


 わたしたちの重たい空気が流れたとき、ノックがした。

 返事をする前に勢いよくドアが開いた。


「お嬢〜〜! 生きてますかあ〜!」


 慌ててやってきた風のノアが部屋に飛び込んできた。


 うん、心配してくれたのはわかるよ? でもさ、「生きてますかあ?」はないと思うんだけど。せめて「ご無事ですか」ではないだろうか。

 わたしはため息を押し殺した。


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