14星影のしたで(5)
「ライト消すよ。おやすみ」
「おやすみなさい」
挨拶と同時に、凪沙の手で明かりが消された。
目を開けても閉じても、同じ光の残像だけが見え、あとは何も見えない暗闇になる。
換気のために少しだけ明けている窓はカーテンが閉まっていないが、先ほど星を見た時と同じく、なんの光も入ってこなかった。そして、静かだ。
仰向けになっていたカナコは、体勢を変えて凪沙に背を向ける。
くっついているわけではないが、彼の体温や呼吸を間近で感じてしまい、眠れそうになかったからだ。
しばらく暗闇を見つめていると、目が慣れてきた。
窓から薄ぼんやりしたわずかな光が入っていることに気づく。仄かな星明かりが届いたのだろうか。
先ほど見た満点の星空を思い出したその時、後ろから声が届いた。
「……起きてる?」
「うん、起きてる」
すぐ横にいるのだから、カナコが眠っていないのは丸わかりだっただろう。もちろん凪沙からも、起きている気配はしていた。
「あのさ……明日の朝、何食べたい?」
「え? パン買ったから、それ食べるんじゃなかったっけ? 夕飯の時も言ってた気がしたけど……」
今さらな問いに、カナコは聞き返す。
「え、ああ、まぁそうなんだけどさ。野菜余ってるから、スープでも作ろうかと思って。朝は冷え込むだろうし」
「美味しそうね。私も作るよ」
「うん、一緒にやろう」
朝ごはんのことをそんなにも気にしてくれたのか、と凪沙の優しさに感動する。
「あのさ」
彼が寝返りを打ち、カナコの背中のほうを向いたのがわかった。一気に緊張が走る。
「……うん」
「いや……なんでもない」
朝ごはんの話はフリで、凪沙は別の何かを伝えたかったようだ。
それがなんなのかを想像するだけで、カナコに不安が押し寄せる。
(もしかして本当は今日、すごく疲れたんじゃ……? 私に気遣ってくれていたけど、凪沙だっていろいろ言いたいことがあるよね)
頭の中で考えている間に、凪沙の声がすぐそばで届いた。
「カナコ、寒くないかと思って」
「大丈夫よ、寒くない。凪沙が貸してくれたスウェットがあったかいから」
心配してくれていただけか、と自分の想像が取り越し苦労だったことに苦笑し、着ているスウェットをきゅっと握る。
「俺、ちょっと寒いんだけど」
「えっ、ほんと? 私、アノラックでいいから、凪沙がスウェット着て――」
安堵したのも束の間、カナコは慌てて起き上がろうとしたのだが……。
「こうすればあったかいから、それでいい」
「っ!!」
後ろから凪沙の両手が伸び、あっという間に抱きしめられてしまった。
「……ダメ?」
「ダ、ダメじゃないけど……、どうしてさっきから、こういうことするの……?」
「言ったじゃん」
「……何を?」
痛いくらいに心臓の鼓動が大きく鳴り、凪沙にも伝わっているだろうと思うと、全身が熱くなっていく。
「今日一日は、俺の彼女だって」
「……確かに、それはそう」
まだ「今日」は終わっていない。
キャンプ場の消灯時間が二十二時なので、それに合わせて片付けをした。今は二十二時を過ぎた頃のはずだ。
凪沙の腕の力は、まだ弱まらなかった。
「ねえ、カナコ。今日いつものやつ、やらなかったのはどうして?」
「いつものやつって?」
「メシ食うときの、カナコの感想。俺、好きなんだけど、途中でやめたよね?」
カナコの心臓がドキッと跳ね上がった。
焼きたての和牛を口にした時、いつものように感想を述べようとして、急激に恥ずかしくなりやめたのだ。凪沙はその様子に気づいていた。
「それは……」
凪沙の前でだけ恥ずかしくなってしまったことを、なぜと問われたら理由を話さなければいけなくなる。
言い淀むカナコに、彼の追撃が続いた。
「その後も普通に『美味しい』しか言わなかったじゃん」
「なっ、なんでだろうね? あまりにも美味しかったから言葉が出なかったのかな~……、なんて――」
「ごまかさないでよ」




