14星影のしたで(2)
こちらを指さした凪沙に言われて、自分の手元を見たと同時に、ボタッとマシュマロが地面に落ちた。
「えええ~っ! 溶けて落ちた~!」
「あははっ! 俺のはボロボロだし、カナコのは落ちた!」
凪沙がお腹を抱えて笑い、自分のマシュマロまで落としそうになっている。
「も、もう~っ! くっ、ふふ、あははっ!」
爆笑している彼につられて、カナコも声を上げて笑った。
目が合うとさらにおかしくなって、気づけばお互い涙を流して笑っている。
最初のマシュマロは回収し、二個目のマシュマロを焼く。今回は完璧な焼け具合だ。
「熱くて甘くておいし~……、中がトロトロね」
外はカリッと中はトロリと溶けており、最高に美味しい焼きたてのマシュマロだ。思わず頬が緩んで笑顔になってしまうほどに。
「美味いな。三個目はクラッカーに挟む?」
「そう! スモアにするの、楽しみ」
最近、カフェにもスモアのメニューがあるという情報を得たが、まだ食べたことはないのだ。
「カナコ、楽しい?」
「うん。何もかもが初めてで、すごく楽しいよ」
凪沙の顔を見てうなずくと、彼は焚き火を見つめたまま言った。
「俺も……、今までキャンプしてきた中で一番楽しい」
「一番?」
「そう、一番楽しい」
念を押して尋ねても、彼は焚き火に視線を置いたままだ。
理由を聞いてみたい衝動に駆られたが、期待するのはやめにして話題を変えた。
「凪沙の夢というか、アウトドアでこの先実現したいことって、何かある?」
だって違う答えが返ってきたら、今の自分は勝手に傷ついてしまいそうだから。
「そうだな……、バンライフで日本一周はやってみたい。でもそれは夢じゃないな」
「バンライフって?」
「車で生活しながら旅をするんだ。ええと……こういうのだよ」
凪沙はスマホをタップし、こちらへ見せてくれた。
そこには車の中を改造して生活する場を設け、旅している人たちが映し出されている。
「え、ひとりじゃなくてカップルで!? 犬を連れてる人もいる!」
カナコが想像したこともない、驚きの旅がそこにあった。
「夫婦もいるよ。ほら」
「ほんとだ。大変だと思うけど、人生で一度はこうやって冒険するのもいいよね……」
カナコにとっては「ソロピクニック」が精一杯の冒険だった。
今はそれで満足しているし、これから行ってみたい場所や作りたいお弁当がたくさんある。
日本一周なんて考えてみたこともないが、世の中には自分と同じ歳くらいの人が挑戦していると思うと、カナコのソロピクも肯定された気がして嬉しくなった。
「俺がやってみたいのはバンライフだけど、夢はもっと違って……、何て言うのかな、何らかの形でアウトドアをもっと人に広めたい、かな」
次のマシュマロを焼いている彼の話をじっと聞く。
焚き火の薪がパチパチと爆ぜ、炎の中に崩れていくのが見えた。
「この先の未来は今よりずっと仮想現実の世界になっていく、っていうのはみんな感じてると思う。AIが急速に発達してるだろ? 俺も仕事でたくさん使ってるし」
「そうね。私も使ってる」
カナコも、マシュマロを焚き火の上でゆっくり回した。
「既にVRでメタバースキャンプもあるけど、それでもこうやって自分で火を灯して、熱を感じて、焼いた肉の匂いとか食感とか、鳥や虫が飛んできて驚いたり、風の音を直に聞きたい。無くしたくないんだ。そういう思いをみんなにも知ってほしいというか」
「うん」
凪沙の真摯な言葉に、カナコは静かにうなずいた。
「カナコの夢は? やっぱ結婚?」
明るい声色に変わった凪沙が、こちらを向いて尋ねてくる。
結婚とはなんだろうと、頭の片隅にいた疑問が大きくなっていた。その気持ちをそのまま言葉にしてみる。
「なんか……、わかんなくなっちゃった。つい最近までは『絶対に結婚!』って意気込んでたんだけどね」
凪沙と出会っていろいろな世界を知ってから、気持ちが揺らいでいる。そして透とSANAの様子を見て、結婚への憧れが一気にしぼんだのも事実だ。
「今の凪沙の話を聞いても、私の価値観ってちっぽけなものだったんじゃないかって、いろいろ考え直し中」
「そ、っか……」
焼けたマシュマロをクラッカーに挟み、スモアを作って食べた。
甘いマシュマロとクラッカーの塩味、柔らかさと硬さが混じって美味しいけれど、焦げた部分の苦みがいつまでも……口の中に残ってしまった。




