14星影のしたで(1)
凪沙が焚き火に炭を入れて、炭の火起こしを始めたので、カナコが野菜をカットし、肉の下準備をする。
そうこうしている内にあたりはますます暗くなり、ランプと焚き火の明かりだけが頼りになっていた。
「初心者に教えるの、楽しいな……」
焚き火に薪をくべながら、凪沙がぽつりと言った。
「本当に? 迷惑じゃない?」
「全然迷惑じゃないよ。俺、ほとんどソロでキャンプするんだけどさ、たまに人と行くこともあるんだ。で、大抵そういう人は俺よりキャンプ歴が長かったり、登山を中心にやってる人たちなんだよ。だから俺が教わる立場になる」
「凪沙が教わるほうなの!? すごい人たちとキャンプするのね」
いったいどんな猛者たちなのだろうか……、想像もつかない。
「そう。だから勉強になるんだけど、どうしても彼らを頼ってしまうんだ。でも、こうやって教える側に回ると新鮮で楽しい。俺の固定観念が崩される感じも本当にいい。視点を変えてもらえる、ってすごいと思う」
ゆらゆらと揺れる焚き火の炎が、端整な凪沙の顔を照らしている。カナコは話を聞きつつも、彼の顔から目が離せなくなっていた。
「カナコがキャンプについて来てくれたおかげだよ」
ふいにこちらを向いた凪沙が、優しく微笑む。
「私のおかげだなんて……、凪沙が私のために連れてきてくれたのに」
「それでも、さ。カナコのおかげだと思うから」
焚き火に視線を戻した彼は火ばさみで炭を転がしてから、ゆっくり立ち上がった。
(なんかもう、苦しくてたまらない……。我慢しなきゃと思えば思うほど、思いが募ってしまうというか……)
年下に恋をしたことがないせいか、どう接したらいいのかもわからなくなってきた。
(いちいちときめいても仕方がない。今言ったように、凪沙は私のためにここへ連れてきてくれたんだから、キャンプを楽しむことが恩返しなのよ)
「炭がいい感じになったから、肉を焼こうか」
凪沙はそばに置いていた炭火焼き用のグリルに炭を移している。炎が落ち着いた炭は周りが白くなり、内側が真っ赤に燃えていた。
「野菜も一緒に焼いていい?」
「もちろんだよ、どんどん焼こうぜ~」
グリルの網に肉と野菜を載せると、あっという間にじゅわーっという音といい香りが漂ってきた。
「わ~! すぐ焼けちゃいそう!」
「やばっ、飲み物出してなかった。俺、レモンサワー飲むけど、カナコはどれにする?」
「私も同じので!」
「わかった。カナコは肉見てて」
「はーい」
そう、こんな感じでいい。今夜は楽しく過ごすことだけを考えて……彼のそばにいよう。
炭火で焼き肉をしつつ、凪沙は焚き火のそばに設置していた鉄板で、ステーキも焼き始めた。
「ステーキ、適当にカットしたからどうぞ。とりあえずこのスパイスで味付けしたから食べてみて」
紙皿に盛られたステーキを凪沙から受け取った。そこらじゅうに広がる香ばしい匂いが食欲をそそる。
「ありがとう! いただきます」
「俺もいただきまーす。うん……うまっ!」
美味しそうに頬張る凪沙に続いて、カナコも割り箸で牛肉をつまみ、口に入れた。熱々のステーキは噛むと肉汁があふれ出し、舌の上でとろける。
「ん~~っ……和牛の甘みが口中に広が……、っ」
いつもの感想を言いかけたところで、顔がかっと熱くなった。
(凪沙が隣にいると思ったら、急激に恥ずかしくなった。透の前ですら、こんなことなかったのに……)
「どうした? まずい?」
「うっ、ううん! ものすごく美味しくて感動しちゃって……、あっ野菜も焼けてるね」
「ああ、野菜も焦げないうちに食べよう。これ絶対美味いよ」
「うん、美味しそうね」
どうにかごまかせたが、心の戸惑いは続いている。
ホクホクに焼けた茄子、甘みのあるピーマンと人参、おおきくスライスしたズッキーニ……どれもすべて美味しい。その後はジビエの鹿肉も焼いて食べる。意外とクセがなく、こちらも美味しくいただいた。
肉類はすべて半分こした量だったので、ちょうど良い腹具合に収まった。凪沙はいつもたくさん食べるのだが、今夜はこれくらいでいいらしい。
いったん箸休めとしてマシュマロを焼くことに。ホームセンターで購入したスティックにマシュマロを刺し、焚き火で炙る。
「これ、やってみたかったの。どれくらい焼けばいいんだろう?」
「実は俺もやったことないんだよな。焦げないようにすればいいんじゃない?」
火の上でスティックをクルクル回していると、マシュマロがきつね色になってきた。そろそろ食べられそうだと思った時、急激に黒くなってしまう。
「あっという間に焦げた! あっ、凪沙のも焦げてるよ!」
彼も気づかなかったようで、慌てて自分のマシュマロを引き上げるが……。
「うわ、ヤバっ! 真っ黒になってる! って、カナコのそれ落ちそ――」
「え?」




