13車中泊(14)
「よし、点いた」
火力を調節した凪沙は、ふたつのオイルランタンをタープから離れたところに、さらに離ればなれに置いた。ランタンは優しいオレンジ色の光りを揺らしながら地面を照らす。
そしてカナコが用意したLEDランプをタープの周りに点々と置き、大きなLEDランタンはタープのポールに引っかけたり、収納ボックスの上に設置した。
「綺麗ね……!」
あたりが薄暗くなってきたので、それぞれの灯りが一層美しく見える。
「こういう置き型の小さいランプを使ったことはないんだけど、足元が良く見えるし、雰囲気もいいな。買って良かった」
凪沙は満足げに笑いながら、薪の束を手にした。
「オイルランタンを遠くに置いて、LEDランタンをタープの近くに置いたのはどうして?」
設置しながら浮かんだ疑問を、彼に問いかける。
「オイルランタンには虫が寄ってくるけど、LEDの明かりには寄って来にくいんだ」
「そうなの!?」
「ここは標高が高くて、デカい虫も蚊もほとんどいない。でも小さいのはたくさんいるから、一応ね」
アウトドアでは常識なのかもしれないが、知識のないカナコにしてみれば驚きの情報である。
「そういえば……蝉もいないみたい……?」
「一応、標高の高いところに生息する蝉はいるらしいけど、八月も終わりだし少ないのかもね」
「そうなんだ。あとで調べてみようかな」
「いいね。楽しいよ、そういうの」
クスッと笑った凪沙は、束から薪を一本抜いてバラした。私物の木の台を地面に置き、小さな折りたたみ椅子に座る。
そして台の上に薪を立て、大きなナイフを薪のてっぺんに当てた。
バラした薪からもう一本を手にした彼は、それでナイフの背を叩き始める。
コンコンコンコンという木の乾いた音が、あたりに響き渡ると同時に、ナイフが薪に入り込み、あっという間に割れた。
「す、すご……! ナイフで薪を割るのなんて初めて見た……!」
「バトニングっていうんだ。やってみる?」
「え、私が!? できるかな……」
「教えるから大丈夫だよ。もう一個グローブあるから、しっかりはめて。俺のとこに来て」
凪沙がもうひとつグローブを手にし、カナコに渡した。分厚いアウトドア用のグローブをはめてから、彼のとなりにしゃがむ。
「ここ座っていいよ。俺が後ろに回るから」
「うん、ありがとう」
言われるがままに折りたたみ椅子に座ると、真後ろにしゃがんだ凪沙が、カナコを包むように後ろから両手を伸ばしてくる。そして耳元で彼の声がした。
「ナイフの刃を薪に当てて、細い薪を右手で持って」
凪沙は薪の端のほうにナイフをあてさせ、カナコの右手にもう一本の細い薪を持たせる。
すぐそばで聞こえる彼の声にゾクゾクしてしまうが、そんな場合ではない。
ナイフは大きく、刃が分厚い。一歩間違えたら大怪我に繋がるだろう。
目の前のことに集中しなければ。
「右手に持った薪をハンマーの代わりにして、ナイフの背を叩くんだ。コンコンって感じで」
「オッケーです、師匠」
「よし、じゃあ叩いてみて」
「……えいっ」
コンッと大きな音がして、叩かれたナイフが薪に割れ目を作る。
「わ、入った!」
「うん、大成功。後はかなづちみたいにトントン叩いていけば割れるから。やってみて」
凪沙の言葉にうなずいたカナコは、右手に持った薪を使ってナイフの背を叩いた。半分から下までいくと、急にパカッと割れた。
「できたー! 私でも出来るなんて感動~!」
「カナコ素質あるよ」
「凪沙の教え方が上手だからよ」
否定もしないし急がせもしない、初心者だからとバカにしない、同じ目線で考えてくれる彼の教え方は、本当に素晴らしいと思う。思えば初めから、彼は何でも丁寧に説明してくれていた。
「カナコっていつも褒めてくれるね。たいしたことしてないのに」
「凪沙にとってはたいしたことじゃなくても、私にはたいしたこと過ぎるの。教え方が素晴らしいんだもの」
「そうかな、ありがとう」
苦笑した凪沙が立ち上がる。
「ナイフで薪割りするのをバトニングっていうんだ。その薪、あと二回は割れると思うからやってくれる?」
「わかった」
「怪我しないようにだけ気を付けて。慎重にね」
「はい!」
教えてもらった通り、今度はひとりで薪を割ってみる。さっきより細くなってしまったが、どうにか出来た。
嬉しくて顔を上げると、凪沙が太い薪を左手に、右手にはナイフとは違う大きな刃物を持っていた。
「凪沙のそれって、何?」
「ナタだよ」
「薪をナタで割るの!? カッコいい~!」
「そ、そう? 照れるな」
照れ笑いをした凪沙は、太い薪にナタを当て、もう一本の薪で下に叩きつけていく。
カナコが叩くよりも大きな音が響き、あっという間に薪が割れた。
……手際よい凪沙の姿を見たカナコは、ときめく心を抑えられそうになかった。




