13車中泊(13)
(怒ってるわけじゃ……ないのよね? 流れ的にそういう会話じゃないし……、聞いても答えてくれないから、わからないけど……)
「って、気にしてもしょうがないか。私も飲んじゃお」
カナコは少しだけ残っていた地ビールを飲み干した。そしてチェアのホルダーに瓶を入れ、凪沙のもとへ急ぐ。
車のバックドアから荷物を降ろしつつ、彼が言った。
「とりあえずタープを張って、明かりをつけよう。一緒にやる?」
「うん、やりたい! 初心者で全然わかんないけど」
「ヤル気が大事だから、全然わからなくて良し!」
「はい、師匠!」
凪沙がニコッと笑ったので、カナコも同じように笑みを返す。ふと見上げると、連なる山々は夕焼け色に染まっていた。
車から数メートルの場所にふたりでしゃがむ。
「――どんどん叩いて大丈夫。そう上手い、出来てるよ」
タープを固定するために、地面にペグという大きな釘のようなものを打ち込んでいく。凪沙の指示に従って、ハンマーを使ってペグを叩いた。
今回は車の側面を利用してタープを取り付ける。車の真横にタープを張ることでリビングスペースができ、荷物の移動も便利だ。車が風を避けてくれる利点もあるらしい。
「よし、じゃあポールを立てて……、ロープを調節しよう。カナコ、一緒に持ってみて」
「うん」
ポールを立てた凪沙が、カナコにロープを持たせた。ロープはタープの端につながっている。
「ここを引っ張ると締まるから……」
「こうね?」
言われるがままにロープを引くと、たるんでいたタープの布がピンと張った。
「わ、できた!」
「向こう側も同じようにしよう。俺がポールを立てたら、ロープを引いて」
カナコの肩を凪沙がポンと優しく叩き、移動する。たったそれだけなのに、肩が熱を持ったように感じられた。
「いいよー、引っ張ってみて」
「あっ、はい……!」
いちいちときめいている場合ではない。
先ほどとは反対側にあるもう一方のロープを引くと、タープ全体が綺麗な四角形になった。ポールと車の側面の四箇所でタープを支え、さらにタープと二本のロープが地面とつながっている。
「できた……! えー、すごい!」
タープの下に入って、自分が張った布を下から見上げる。
「感動した?」
「うん、感動!! ありがとう、凪沙!」
嬉しさのままに凪沙にお礼を言うと、彼はカナコを見つめたまま動かない。眉根を寄せて、どこか切ない表情をしている。
「俺も、感動した。こういうのいいな……。うん、すごくいい」
「……っ」
優しい彼の声に、カナコの息が詰まりそうなほど、胸がきゅんと痛くなる。
「……次は何をしたらいい?」
思わず顔を逸らしながら言ってしまった。日が落ちたといえまだ明るく、赤くなった顔を見られたくない。
「ああ、うん。明かりをつけようか」
凪沙がタープ下から出て荷物のほうへ歩き出す。
話題が逸れたことにホッとしたカナコも、彼についていった。
「これは俺がいつも使ってる、オイルランタンとLEDランタン。こっちはさっきホムセンで買った、置き型のLEDランプだね」
地面にそれらをひとつずつ並べながら、凪沙が説明してくれた。
「カナコはさっき買ったLEDランプを箱から出してくれる? 俺はオイルランタンの準備するから」
「うん」
カナコは小さな箱からランプを取り出してスイッチを入れた。手のひらサイズのそれが、暖色系の光りを放つ。
六個購入したので、すべて同じように明かりを点けた。
隣にしゃがんでいる彼は、オイルランタンに燃料を入れるところから始めている。
手際よくランタンに火を点ける様子を、間近で見つめた。




