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13車中泊(10)

(び、びっくりした……。沈黙してる間、凪沙は何を考えてたんだろう……)


 先日、婚活オフ会に行ったのが、ずいぶん前のことのように思えた。

 そして今日は、朝から凪沙が運転する車に乗り、キャンプの話で盛り上がり、今日だけ彼女になってほしいとお願いされた。


 違和感が出ないように名前を呼び合ったり、敬語をやめたり、手を握ったりして、彼氏彼女の練習をした。


 その後、せっかく楽しみにしていた場所で、元カレの透と最悪の再会をし、彼の妻のSANAにも打ちのめされた。そんなカナコを庇ってくれた凪沙にここまで連れられて、カナコの気持ちはほぼ回復している。


 凪沙の優しさや、カナコに向けてくる笑顔を思うと、胸が甘酸っぱく痛んだ。

 

「好き……かも」


 お湯を指で弾きながら、カナコは無意識にそう呟いていた。

 言葉にした瞬間、一気にのぼせそうになる。


(っていうのは、絶対に迷惑だから、やめたほうがいいの……!)


 凪沙より五歳も年上で、いや、カナコは早生まれだから正確には四歳差になるのだろうが……。


 とにかく五歳年上で、目の前で元カレとその妻に罵倒された女に、「好き」などという感情を持たれたら、どう考えても迷惑だろう。


 師匠と弟子の関係を保つのだって、この先どうなるかわからないのだ。


(それだけはイヤ。凪沙と会うのは楽しいし、何より前向きになれる。私が妙な感情を抱いたことで会えなくなったら、つらすぎるよ……)


 カナコは気持ちを振り切るように、湯船からザッと上がった。


(今、私は心が弱ってる。だから彼に頼りたくて、好きなのかも……なんて思いを抱いてしまったのかもしれない。それに……)


 カナコの頭には「結婚」の二文字が浮かんでいた。

 

(有り得ないことだけど、もし気持ちが通じたとして、若い彼に結婚を迫るのは酷よ。だからこの気持ちは不毛なの。大人なんだからそれくらいわかるでしょう、カナコ……!)


 カナコは髪を洗いながら、自分に言い聞かせた。


「ダメダメだめだめ。好きになっちゃ……ダメ! ダメダメだめだめ……不毛不毛不毛不毛……むりむりむりむり……」


 呪文のようにぶつぶつと続け、洗い終わった後、再び湯船にサッと浸かって、お風呂を出た。



「お待たせ……! ごめんね、遅くなって」


 受付がある売店に戻ると、凪沙とオーナーの木船がカウンターにいた。


「いや、全然だよ。木船さんと話してたし、そんなに時間経ってないから

気にしないで」


 こちらを振り向いた凪沙が笑みを見せただけなのに、「好き」の自覚を持ちそうになっていたカナコは、ときめきで倒れそうになる。


「うん、ありがとう」


 動揺を見せないように笑ってごまかし、自分たちをニコニコ見ていた木船に視線を移す。


「温泉、とても気持ち良かったです。ありがとうございました」


「それは良かった! 改善したいところとかありませんでした? 遠慮なさらずに言っていただけると助かります。まだ出来たばかりのキャンプ場なので、評価が気になりまして……」


 特に、女性の意見が気になるのだと木船は言った。

 女性は細かいところに気づいてくれるが、イヤな思いをすると何も言わずに二度と来ない傾向にあるから気を付けるようにと、妻にアドバイスをもらったらしい。


 自信なさげな木船の表情を見て、カナコは真剣に答える。


「いえ、私はただ最高だなとしか思わなかったです。脱衣所もお風呂場も清潔でしたし、お湯の温度もちょうど良かったです。シャンプー、コンディショナー、ボディーソープも揃っていて、脱衣所にアメニティもドライヤーも完備されていたのでありがたかったです。お風呂からの眺めも素晴らしかったです。冬もきっと素敵だろうな、って」


 心から思ったことを笑顔で伝えた。


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