13車中泊(8)
手ぶらキャンプもできるようで、ギア一式のサンプルなども置いてあった。
それらを熱心に見つめている凪沙の隣へ行く。
「これ、全部レンタルできるのね?」
「……」
凪沙は返事もせず、夢中になっている。そんな様子を微笑ましく見ていると、カナコの視線に気づいたのか、ハッとした彼が振り向いた。
「え、あっ、ごめん!」
「ううん、いいの。ゆっくり見てて」
「いや、受付が先だった。ごめん俺、ギアに見入っちゃって……、こういうところがダメなんだよな。先輩にも注意される」
「大丈夫よ。ダメじゃなくて、そこが凪沙のいいところなんじゃない?」
笑いかけると、凪沙が一瞬固まった。口を引き結んだ彼は、ふいっと視線を逸らし、受付のカウンターへ足を向ける。
(あ、あれ? 私、なんか地雷踏んだ……?)
凪沙は誰もいないカウンターへ行き、卓上ベルをチンと鳴らした。
数秒後、奥から男性が現われる。
「大倉くん!? よく来てくれたねぇ、いらっしゃい!」
四十代くらいだろうか、ガッシリとした体格に柔和な笑顔が優しげな印象だ。
「木船さん、お久しぶりです。急にすみません」
「いやいや、連絡くれて嬉しかったよ。ちょうど空いている日で良かった」
凪沙と挨拶を交わした木船は、視線をカナコに向けた。
「こんにちは。オーナーの木船と言います。大倉くんにはいろいろお世話になってます」
「初めまして。渋谷といいます――」
「俺の彼女です」
カナコが言い終わる前に、隣にいた凪沙が言った。自分の立場をどう言おうか迷うヒマもなく。
「うん、わかる。大倉くんの顔がいつもと違うもんね。満たされてて幸せそうだ」
「あ、わかります?」
「ノロける大倉くんは新鮮だなぁ、はははっ!」
ふたりの会話を聞きながら、顔を熱くすることしかできないカナコだった。
(というか、凪沙と木船さんは今後もお付き合いがあるのよね? なのに彼女だなんて紹介していいの? ……でもまぁ、凪沙の職場の人たちにも彼女だって紹介しちゃってるから、今さらか……)
ふたりと一緒に笑顔でその場をしのぎつつ、大丈夫なのかと心配になる。
「受付したら、すぐ温泉に入りたいんですが、いいですか?」
「もちろん! 今日は大倉くんたちの他には三組だけしかいないから、空いてるよ。というか温泉は今、誰も来てないんじゃないかな」
「じゃあ今のうちですね。お願いします」
「オーケー。まず、ここに記名してもらって――」
凪沙が受付するのを横で見守る。
買い物こそ、カナコが説得してワリカンにしてもらったものの、キャンプ場は「俺が誘ったんだからいいの」と言われ、彼のオゴリになってしまった。
(いつも申し訳なく思うんだけど、彼は私を楽しませようとしてくれているんだから、甘えさせてもらおう)
カナコが楽しんでいる姿を見せることが、彼へのお礼になるのだと思うことにした。
「あ、そうだ。急だったんでコンデジしか持ってないんですけど、SNSに載せてもいいですか?」
記入を終えた凪沙が顔を上げる。
「もちろんだよ、こっちがお願いしたいくらいなんだから、どんどん撮って載っけて」
「ありがとうございます。じゃあカナコ、行こう」
凪沙はそう言って、カナコの手を取った。同時にドキリとカナコの心臓が跳ね上がる。その温もりに、まだ全然慣れていない自分に驚いた。
「足りない物があったら、遠慮なく言ってね。ごゆっくり」
「ありがとうございます」
カナコに微笑む木船にお礼を言い、凪沙と受付を後にする。
温泉に向かう通路を歩いていると、急に凪沙が立ち止まり、カナコの顔を覗き込んだ。
「何回も言うけど」
「うん?」
「今日一日は俺の彼女だからね?」
「え、あ……はい」
念を押されたカナコは、再び頬が赤くなるのを見られたくなくてうつむいた。




