13車中泊(7)
「もうエアコン消していいな」
凪沙のつぶやきに気づいて、表示されている気温を見たカナコは思わず声を上げる。
「外気温が26度……!」
「窓開けてみよう」
凪沙が手元のスイッチを押し、運転席と同時にカナコの助手席の窓が開いた。ひんやりとした風が通り抜け、エアコンとは違う心地よさに包まれる。
「す……涼しい~!」
「天然クーラー最高だな~! 天気もいいし、キャンプ場はもっと高いところにあるから、眺めもいいよ」
「ほんと最高ね」
少しずつなだらかな坂道を上っていき、車はいつの間にか山道を走っていた。空の青さも、窓から入る緑の香りも、どんどん濃くなっていく。
空気の良さを堪能しながら二十分ほど進んだ先に、目的地のキャンプ場が現われた。
「もう少し上がったところに管理棟があるはずなんだけど……」
「管理棟って?」
「常駐しているスタッフがいて、そこで受付を済ませるんだ。売店もあるから、薪とか着火剤もそこで買えるんだよ。トイレやシャワーがついているところもある」
初心者のカナコにわかりやすく説明してくれる凪沙の話を、ふむふむと聞きながらうなずいた。
「さっきのキャンプ場は、凪沙の会社の人たちが管理棟で受付を済ませていたのね?」
「うん、そういうこと。だから俺たちは直接みんなのところへ行ったんだ。あ、見えてきたね、管理棟」
林の間を抜ける急坂を通っていくと、三角屋根の建物が現われた。
「え、素敵……!」
「俺も初めて来たけど、思ってた以上にいい雰囲気だ」
歓喜の声を上げたカナコに、凪沙も同意する。
淡いグレーの屋根に、木製の外壁と、大きな窓。入口のドア横には、薪が整然と積まれていた。シンプルだが、とてもオシャレな作りで、見ているだけでテンションが上がる。
「あー、本当に涼しいな。さっきまでの暑さが嘘みたいだ」
後ろの座席に置いた荷物を取りながら、凪沙が言った。
「本当に涼しいね。空気が美味しい」
カナコも涼しさを感じながら、隣に来た凪沙を振り向く。その時、彼の後ろに見える山々が目に入った。
「見て、山が連なってすごい~!! 綺麗……!!」
雄大な山の絶景に声を上げたカナコは、凪沙に語りかける。先ほど、温泉に入ろうと言った時と同じように、彼もはしゃぐかと思っていたのに、そうではなかった。
「うん、いい景色だ……」
凪沙は目を細めて愛おしげに遠くを見つめ、ただそうひとこと、呟いただけ。
同時に、自然を愛する彼の横顔が、カナコの胸を切なく痛ませた。
(どうしたんだろう、私。なんだかずっと、変じゃない……?)
カナコは胸元を押さえて、この気持ちを探ろうとした。いや、気づかないフリをしていたのは確かだが、でもまさか、そんな――。
「よし、行こう。着替え持った?」
「あ、うん」
カナコは凪沙から目を逸らし、バッグを肩に掛けた。
短時間にいろいろなことがありすぎて、感情がついていけないだけなのだと思うことにする。
ガラスでできた管理棟のドアを、凪沙が押し開けてくれた。中に入ったとたん、新しい木の香りが鼻をくすぐる。天井から下がるペンダントライトの明かりが、柔らかな空間を作っていた。
「いい匂い。中も綺麗で、カフェみたいね」
「そうだね。売ってる物も種類が豊富だ。ギアも結構揃ってるな……」
他に客はおらず、カウンターにスタッフもいない。
美しい棚にレトルトパックや缶詰、乾麺、調味料などの食品が陳列されていた。どれもシンプルなパッケージで統一感がある。
冷凍のショーケースには地元のアイスクリームや、パックされたジビエ、冷凍野菜などが並ぶ。
隣の冷蔵庫には瓶に入った牛乳やジュースのパック、缶ビール、地酒が冷やされてた。すべて地元の商品らしく、見たことのないドリンクにワクワクが止まらない。




