13車中泊(5)
先ほどのキャンプ場を離れてからしばらく下道を進み、高速道路に乗った。
ナビには目的地到着まで二時間十分と表示されている。次のサービスエリアで軽食を取り、その後も道中で買い物をする予定なので、プラス一時間半といったところか……。
場所は、埼玉県を越えた先の群馬県となっていた。
「話は変わるけど……、今日、カナコに俺の彼女になってほしいって言ったのは、インフルエンサーの女性たちに声を掛けられることが多くて、正直困ってたからなんだ。だから、彼女たちをけん制するためにカナコにお願いした。言わなくてごめん」
「ううん、そうだろうなって思ってたから大丈夫よ。凪沙ってすごく人気あるんだね」
サービスエリアや、インフルエンサーの女性たちの反応を目の当たりにすると、改めてよくわかった。
「いや、人気というか……、このジャンルにしてはSNSのフォロワー数がまぁまぁいる俺を見て、声を掛けてくるだけだよ。自分のフォロワーを増やすために来てるだけ」
今まで数え切れないほど、こういうことがあったのだろう。
辟易している様子が見て取れるが、フォロワー数稼ぎのためだけに女子たちが群がるのは否定しておきたい。
「凪沙がカッコいいから、声をかけてくるんじゃないかな? 前にも言ったけど、凪沙ってすごいイケメンだし、凪沙に沼ってるとか、ファンだって言ってた人もいたでしょう? 好意があって寄ってくるのよ。要はモテモテってこと」
「……それ、本気で言ってる?」
「うん」
カナコがうなずくと、なんとなく不満げな表情をした大倉が続けた。
「カナコはあの女子たちを見て、どう思った?」
「うーん……。凪沙の立場なら迷惑なんだろうなと思うし、でも彼女たちの気持ちもわからなくはない、かな」
「俺がモテても、カナコは何とも思わないんだ?」
「え……? 何とも? って?」
「……」
彼の横顔を見ると、不機嫌さが増している。
(真剣に運転しているせいだけじゃないよね? 私、そんなに変なこと言ったかな?)
カナコはひとつ咳払いをしてから、慎重に続きを返答した。
「モテるのは喜ばしいことだと思ったよ。凪沙は大変かもしれないけど――」
「俺はこの前、カナコが婚活オフ会でモテモテだったのは、なんかモヤったけどね」
「え……」
カナコは言葉を詰まらせた。
さすがにこれは、勘違いでは済ませられない発言ではないだろうか。
どう考えても、大倉がヤキモチを焼いているようにしか聞こえない。
(弟子を取られるような気持ちになったとか? 彼にとって私が初弟子なら、特別な存在だと思ってくれている……、そういうこと?)
という結論を頭の中で出してみるも、今度はカナコのほうがモヤっている。
そこで会話は途切れ、大倉がアプリのリストに入れている曲が車内を満たし始めた。チルなR&Bがしっとりした空気を醸し出すから、余計に何も言葉にできない。
強い日差しに晒された前を走る車を見つめながら、大倉と初めてピクニックに出かけた時を思い出す。
横浜のみなとみらいで待ち合わせをし、海に向かって歩き出す彼も、今のように無口で何を考えているかわからなかったけれど……。
(何度も会ううちにたくさん話してくれるようになって、笑顔も見せてくれて、優しく気遣いまでしてくれた。そんな彼に甘えすぎて、不快にさせていたことに気づかない私っていったい……)
心の中でため息をついて反省すると同時に、大倉の声が届いた。
「俺さ……」
「うん」
「俺……、いや、今じゃないな、ごめん」
大倉にしては珍しく含みのある言い方に戸惑う。
「何? 気になるよ、言って?」
「や、本当に何でもない。さっきの話に戻るけど、俺……、けん制したかっただけじゃなくて、みんなにカナコを自慢したかった。だから今日、カナコを誘ったんだ」
「え……?」
透の前で「カナコを自慢するために連れてきた」と言ったのは、あの状況にいたカナコを庇うための言葉だったはず。
本当の彼女ではなくても、カナコを自慢したいと思ってくれたのだろうか。
「ただ、関係を聞かれた時に師匠と弟子だなんて答えるのもアレだし、彼女って言うのが一番いい気がして……、俺のわがままなんだけど。それで、もうみんなの前からこうやって離れたわけじゃん?」
「うん」
「本来ならここで彼女の演技は終わりだけど、俺はこのまま『カナコ』って呼びたい。『渋谷さん』じゃなくて」




