13車中泊(4)
「それは違うよ。私は楽しみでここに来たの。だから凪沙も謝るのはやめて」
これ以上泣かないように涙をこらえて訴えると、大倉がうなずいた。
「じゃあお互い、謝るのはここでおしまい。いいよね?」
「うん。……あ」
大倉の手がカナコの頬に触れ、涙をそっと拭ってくれる。同時にカナコの胸が、今までとは違う甘酸っぱい音を立てた。
「……ねぇ、カナコ。明日の日曜は予定ある?」
「ううん、特に……ないけど」
今のはなんだったんだろうと思いながら、大倉に返事をする。
「オーケー。俺、もう一件電話しなきゃならないところがあるから、車の中で待ってて」
大倉はそう言って車のドアを開け、エアコンを付けた。カナコも助手席のドアを開けて車に乗り込む。木陰に停めてあったせいか、思ったほど車内は熱がこもっておらず、エアコンの効きも早かった。
再び車外に出た大倉は、どこかへ電話をしている。くぐもった声が届くも、会話の内容はわからない。
「ふう……」
カナコは大きくため息を吐き、フロントガラスの向こうを見つめた。
濃い緑と青空が美しく、離れたところで楽しそうにキャンプの準備をする人たちがいる。ここに来た時は片付けている人のほうが多かったのに、気づけばお昼近くの時間になっていた。
つい先ほどまでの最悪な状況が、本当は夢だったのではと思うくらいに穏やかな光景だ。
もう一度ため息を吐いた時、大倉が運転席のドアを開けて乗り込んできた。一瞬、蝉の声が車内に大きく響き、すぐにまた遠のく。
「お待たせ。予約取れたよ」
「お帰りなさい。何の予約?」
「キャンプ場。ということで、これからキャンプに行こう」
「え」
ナビを入れた大倉の横顔を見つめる。彼は笑顔で説明を始めた。
「バーベキューに招待したのに、何もできなかったお詫びだよ。俺の知り合いが新しいキャンプ場作ったんだ。まだあまり知られてないところでさ、この時期でも余裕で空いてた」
「え……え……」
だから明日の予定があるかどうか、尋ねてきたのだろうか。ということは、泊まりでキャンプを?? 一緒に???
「牧場直送の牛肉を取り扱ってる店があるから、そこで肉買って、野菜は道の駅で仕入れて、途中でホムセンとコンビニにも寄って……」
大倉は車を発進させ、ブツブツ言いながらこの後の予定を算段している。
(い……いやいやいや、落ち着ついて。大倉さんは私が師匠と呼ぶくらいの、アウトドアの猛者よ。一緒にキャンプに行くからって、よこしまな考えがあってのことじゃない。ただキャンプを教えてくれようとしているだけよ。そして彼のことだから、たぶんお詫びだけじゃなくて……)
傷ついているカナコを慰めてくれようとしているのだろう。彼のできる精一杯で。
そう思うとなぜか、カナコの目にまた涙が浮かびそうになった。さっきと同じ、悲しいだけではない不思議な気持ちだ。
(どういう感情なのか自分でもわからないけど……、あんなクズたちのことで深く傷ついた私がいるのは確かなのよね。だったら自分を労るためにも、気分転換にキャンプに行くのは最適解。そう、師匠についていけば間違いない……!)
これはソロピクと同じだ。気持ちを切り替えて、前に進むためのチャンスなのだ。
「私、ちゃんとしたキャンプは初めてなの」
「うん、知ってる」
赤信号で止まると、大倉が優しい笑顔を向けてくる。
「たくさん教えてあげるよ、カナコが知らないこと」
「よ、よろしくお願いします……」
今の感情だけは、はっきりわかった。
思わずときめいてしまった以外の何物でもなかった……ということが。




